成り代わってもオレはオレ
入学してから一ヶ月と少しが経った。
ジェイド達やジャミルとは同じクラスにはなれなかったけれど、原作通りオレとジャミルはバスケ部に入部した。
最初は警戒されたし、オレの告白を信じていないようで疑惑の目を向けられたけれど、毎日のように「好きだ」と「かわいい」と言っていたら、ようやく俺の気持ちを信じて貰えたようだった。
流石ででにーインスパイア作品であるだけに、愛には酷く寛容で、恋にはとても誠実な世界だった。よく知りもしない相手に返事は出来ないと、オレの告白の返事は一端保留となっていた。
オレは返事を急かすようなことはしない。断られることも考えていたし、急いては事をし損じると言う言葉があるし、ゆっくりじっくり仕留めるつもりだったので。
だって前世では画面の向こうの人間だったけど、今世では同じ次元の生き物。オレも彼も同じ世界に生きている。一緒に未来を歩むことも可能であるのだ。逃がすつもりはない。
会えば声を掛け、好きだと囁き、隣にいることを当たり前にした。そうやってじわじわと浸食するようにオレを彼の日常に馴染ませていく。その甲斐あって、授業が被れば一緒にペアを組み、部活では一緒にスタメンを狙う仲になっていた。
そんな様子を間近で見ていたアズールは呆れ、ジェイドは興味深そうにしていた。
「気まぐれなお前がよく飽きませんね」
「僕もすぐに飽きるものと思っていました」
「オレもびっくりしてる~。でも、二人も気に入ると思うよ、あの子のこと」
オレの言葉にアズールは肩を竦め、ジェイドは笑みを深めた。
「あ!」
鏡舎を抜け、寮から学園に足を踏み入れると、この一ヶ月で見慣れた黒髪が目に飛び込んできた。
ジャミルの背中を見つけたオレは思わず駆け出す。
「おはよー、ジャミル~! 今日もかわいいね」
ジャミルを傷付けないように、そっと閉じ込めるように抱きしめる。
最初は警戒心剥き出しだったジャミルだが、入学してから一ヶ月、ほぼ毎朝繰り返される行為にすっかり慣れてしまっていた。今ではオレがいきなり背後から抱きしめても、彼は肩を竦めるだけに留まっている。
オレとしては、オレとのハグがなくなると物足りなくなって欲しいと思っているので万々歳なんだけど。
「………はぁ。おはよう、フロイド。それから、俺はかわいいじゃなくてかっこいいんだ。間違えるな」
「はぁい」
そういう所がかわいいんだぞ、ジャミル。
それを口に出すと流石に怒られそうなので、オレは口を噤む。オレ、えらぁい。
「全部顔に書かれていますよ」
「ジャミルさんは分かっていないので、大丈夫なのでは?」
「そこ、うるせぇから黙って」
訝しげな表情を浮かべるジャミルを抱き込みながら二人に「シッシッ」とどっか行けのジェスチャーを送る。
二人は意味深ににんまりと笑い、可笑しそうに笑いながら先に教室へと向かった。
後で思う存分からかわれる未来が見えた気がして、オレはジャミルの肩に顔を埋めた。