【姐さんと】襲撃の結末を報告する【三剣士】
「現世帰還は極力避けた方がいい」
審神者適性検査の概要について話すと言われ、刀剣と離れた隙にそう言ったのは、私たちを保護してくれた政府役人の一人だった。
彼が言うに、未来を知ってしまった過去の人間は、政府に協力しなければ政府にとっては敵に等しい存在なのだという。私は審神者になることに肯定的であるから大事には至らなかったが、政府に協力的でなかったら私はこの世から消されていたかもしれないそうだ。
記憶を消すという措置もとれるのだが、何かの拍子に思い出されては困るからだという。
随分と過激な措置だ、と他人事のように思いながらも、私は寒気を感じた。
考えていなかったわけではない。これは戦争なのだと、審神者たちからも散々言われていたから。
けれど、命の危機に瀕したばかりだからか、妙に死が身近に感じられた。
背筋が凍るような感覚に顔がこわばっていたのか、彼は安心させるように笑って「君は大丈夫だよ」と言った。
その「大丈夫」が私が審神者をやめたいといった瞬間にどう変化するくらいは分かっている。そして彼も、私が理解していることを分かっていてそう言ったのだということも。
その容赦のなさに、これは本当に戦争なのだと、漠然と理解した。
「でもね、」
彼は難しい表情で口を引き結んだ。
「現世で出陣ゲートを開いたことによって、審神者や刀剣男士の霊力が相手方に補足されてしまった可能性がある。――後に審神者となる君が、あの時代に存在したことがばれてしまったかもしれないんだ」
審神者という存在がいれば、刀剣男士は数を増やし、傷を癒し、何度でも戦場にやってくる。
けれど審神者がいなくなれば、刀剣男士は顕現出来ず、数も増やせなければ傷も癒せない。大本である審神者が消えれば、それに付随する刀剣男士は消える。そこを狙わないわけがない。
相手も馬鹿ではないのだ。だから本丸への襲撃は絶えず、守りが薄くなる現世帰還は難しい。
特に、過去の人間である自分は、未来に影響を与えないよう、注意しなければならないから、なおさらだろう。
「これはあくまで可能性の話だ。まだばれていると決まったわけじゃない。けれど君の霊力は強い。審神者になって、使い方を学べば、より研ぎ澄まされ洗練されたものとなるだろう。そうなってはもう、可能性の話ではなくなる」
聡い君ならもう分かっているんじゃないか?
少し困ったように、憐憫を乗せた表情で、役人は私の顔を見つめた。
「私の存在を無かったことにする方法は二つ。私の存在を無きものとするか――私の家族を無きものとするか」
ですよね?
そう言って相手の顔を見つめ返すと、役人は言葉を詰まらせて、それから深く息を吐いた。
「そうだ。彼らに殺されるということは、本来そこで死ぬはずでなかった人間ということになる。そして審神者としての可能性を持つ君を失うのも惜しい。だから君には現世帰還は極力避けてもらう必要がある」
出来れば、一生。
「たかだか可能性の話で、君は家族より刀剣をとれる?」
私の答えは、当然決まっていた。
何となく、わかってはいたのだ。
漠然と、けれど着々と別れが近づいていることに。
未来と、自分ではどうにもできないほど大きなものと関わってしまったと気付いた時。襲撃を受ける可能性を示唆された時。審神者が命懸けの職だと聞かされた時に。
決定的だったのが、役人の言葉だ。
彼らと一緒にいたいと願った。全て差し出してもいいと思った。これらは本心だ。
家族の命が危ぶまれるなら、会えなくとも生きてほしいと願うのも。命の危機なんて、あんな恐ろしいものを感じてほしくないというのも全て。
会えなくとも生きていてくれさえすれば、それで――
(良い訳ない!!!)
会いたい、会いたい、会いたい!
でも会えない、会ってはいけない。生きていてほしいのならば。
胸が痛い、苦しい。
目頭が熱くて、視界が滲んで、先が見えない。
「あぁ―――――――っ……!」
泣いたことなら数え切れないほどあるけれど、声を上げて泣いたのは生まれて初めてのことだった。
――それでも審神者になると決めた少女の話