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転生第一係のおしごと

「どういうことですか?」

黒い前髪は顔を隠すように長く、そこから覗く顔は青白い。
まだ幼さの残る表情と、思春期独特のニキビ面の少年、笹川りゅうは言われた意味がわからない、というように聞き返す。

「どういう事って言われても…説明したままとしか言えないんだよなぁ…」

キッチリとした七三分けに黒縁のメガネをかけ、真っ黒なスーツに身をまとった男性は、笹川の担当者である鈴木と名乗った。
鈴木はその見た目とはチグハグに困ったように頭を掻いている。

「もう一度説明させていただきますね。
まず、ここが所謂いわゆる、死後の世界なのはわかっていただけましたかね?」

少年は頷く。
役所のようなこの場所で、待ち時間のうちに何度も繰り返し聞こえてきた機械的な音声は、無事に自身が死ねたことを知らせていた。
学校でいじめにあい、親や教師も頼れず、苦肉の策で自殺をした。
もしも生き残ってしまったらと考えていたが、なんとかうまく死ねたようだ。
死後の世界は思っていたよりも機械的で面白みのないものだったし、先程見させられた自分の一生が思い出したくもないことが多くて嫌になった。
死ぬのも楽じゃない。

「規約に則って、自殺者はすぐに転生をするということができないのです。
これは魂が有限の資源であるからです。その資源を私利私欲のために使用したことになり、一定のマイナスがつくことになっているんですよ。」

「じゃあ僕は、どうなるんですか?」

別に生まれ変わりたいとは思わない。
だけど、生まれ変わらないならどうなる?自分は消えてしまうのか?
不安な気持ちが雪崩のように心の中にあふれていく。

「一応、救済措置があるんです。あるにはるんですけど、あんまりオススメしない方法もあるんですよ。一応その辺をゆっくり話し合いたいと思っていましてね。」

そう言った鈴木は、読みにくい書類を1つと、簡易型のホワイトボードを取り出した。

「まず、これは公式なやり方です。
徳ポイントのマイナス分を借金と考えてください。この借金を強制的な労働の元で返します。」

読みにくい書類の上をピンクの蛍光ペンでなぞっていくのを見ながら、話の中に出てくる強烈なワードに動いていないはずの心臓がドキドキと音を立てるような感覚に陥る。

「もちろん労働の間にも自由時間やわずかな給与が支払われます。それで息抜きをしつつ、借金を返して頂くことになります。
ただし、こちらも慈善事業ではないので、初期コストがかかります。それも借金に組み込まれてしまうんですね。」

初期コストの欄に丸をつけられる。
要するに何も知識のない人間に仕事を教える手間賃みたいなものだそうだ。
他にも不都合な記憶の消去や、人格に問題のある者は矯正、そして死んだ時の姿では不都合のある仕事の場合は都合のいい年齢まで肉体(と言っても実際の肉体は火葬されているので、ここでの姿形のことらしい)を操作。
そのそれぞれに借金が加算されていくそうだ。

「という事で、笹川様のマイナス分だと労働をする方がお互いに損な事がわかっていただけましたか?」

具体的に何年、という数字は出ていないが、徳ポイントというその数字のマイナスが、倍以上に膨らむことになる。

「本当はこんなやり方好きじゃないんですけどね…こういう方法もあるんです。」

次に鈴木はホワイトボードにサラサラと何事かを書いていった。

「徳ポイントをゼロにする裏技なんですけど…これは魂管理局のポリシーには反しています。なので公には出来ません。いいですね?
一度マイナスを背負ったまま生まれ、すぐに死んでもらいます。
こうする事によってその一生での徳ポイントはほぼゼロになるんです。
例えば堕胎される事や、野生の動物として生まれ生き残れずに死んだり、そういった類のことですね。
どうしてもそれは自然の摂理という部分もありますので、こちらでは管理しきれない部分でもあるんですよ。
人間としては非常に嫌な気持ちにもなりますが、どうせ記憶は消えて覚えていませんから、今ここでそうする、という勇気1つです。」

どうですか?となんとも言えない表情で聞かれる。
こちらもなんとも言えない気持ちになる。

「少し、考えさせてもらってもいいですか?」

「もちろん、と言いたいところなのですが、この話は極秘。
特にマイナスが大きい人にこれをされてしまうと始末書じゃ済まない可能性があるので、ここで決めてもらわないといけないんですよね。
申し訳ないんですけど、この場で決めてください。」

僕の人生最後の決断。
そしてそれは、今までで一番重い決断になるだろう。
20年にも満たない僅かな生活のなかで、誰にも相談できず、1人で抱え込んでいた。
死のうと決めてからもたくさん悩み、苦しみ、こうして命を終えてまでまだ苦しめられる。
本当に世界は不条理だ。
目の前の鈴木は申し訳なさそうな、心配そうな顔でこちらを見ている。
彼は人情に厚い人なのだろう。いや、人なのかどうかはわからないが。

もうどれだけの時間そうしていたのかわからない。時計もなく、感覚もわからなくなっている。
そろそろ、決めなければならない。

「…わかりました、それじゃあ——」
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