赤いリボンの追走

霧の路地で取り押さえられた男は、まだ必死にもがいていた。
ランマルが肩を押さえ込み、短剣を突きつける。
「観念しろ……もう逃げ道はねぇ」

男は荒い呼吸の合間に、かすれた声で叫ぶ。
「ち、違う……俺は、雇われただけだ!」

「雇われただと?」
ランマルが眉をひそめる。

そのとき、レイジがゆったりと歩み寄り、男が落とした袋の中を覗き込んだ。
「……ふむ。中身は骨董街のガラス細工か。価値はあるが、大した額じゃない」
彼は袋を閉じ、赤いリボンを摘み上げて目の前に掲げる。

「この“派手な小道具”……どう見ても君の趣味じゃないね?」

「そ、そうだ!これは……命令されたんだよ!」
 男の瞳には恐怖が宿っていた。

レイジは穏やかに微笑む。
「やっぱりね。赤いリボンはただの“演出”。
本当の狙いは、盗みそのものじゃない……この“事件”そのものを盛り上げることだ」

「つまり……操ってる奴がいるってわけか」
ランマルが低く唸る。

「そう、劇場で観客を楽しませる演出家みたいにね」
レイジはリボンを指先で弄びながら続ける。
「この男はただの駒。本当の“脚本家”はまだ霧の奥にいる」

ランマルは短剣を納め、立ち上がった。
「なら、そいつを引きずり出さなきゃ気が済まねぇ」
彼の瞳には鋭い光が宿る。

レイジはそんな彼を見上げ、わざと軽やかに言った。
「ふふ、また走り出す気だね?いいけど、置いていかないでよ」
「安心しろ。……おれのゴールは、いつだっておまえの隣だ」

その一言に、レイジは心底嬉しそうに微笑んだ。

赤いリボンはまだ舞台の幕開けに過ぎなかった。
霧の奥に潜む“演出家”――真犯人との対決は、これからだ。
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