霧の羽根

深夜のテムズ川沿いは白い霧にすっかり覆われていた。
水面を渡る風が冷たく、街灯の光は霞んで輪郭を失っている。
そんな中、レイジとランマルは足を止めた。

「ここ最近の被害者は、みんな霧の濃い場所で襲われてる。……となれば、次の狩場はここだ」
ランマルが呟き、懐の短剣を確かめる。

レイジは帽子を押さえ、柔らかな笑みを浮かべながらも瞳だけは鋭かった。
 「獲物を待つ狩人か……ふふ、でも今回は逆さ。獲物のつもりが、狩られるのはあちらだよ」

そう言った矢先だった。
霧の中から鋭い風切り音――刃が閃いた。

「ランマル!」
レイジの叫びと同時に、影が襲いかかる。

ランマルは反射的に身を翻し、短剣で受け止める。
火花が散り、刃と刃がぶつかり合った。
「チッ……!」
だがすぐさま影が背後から迫り、肩を深く斬り裂いた。

「っ……くそ!」
鮮血が霧に溶ける。ランマルはよろめきながらも必死に踏みとどまった。

駆け寄ったレイジが彼を抱きとめ、怒りを隠さず声を震わせる。
「無茶をするなって言っただろう!君を失ったら、ぼくは探偵でいる意味さえ消えるんだ!」

ランマルは唇を噛み、強がるように笑う。
「……まだ死んでねぇ。おまえが隣にいる限りな」
その目は鋭さを失わず、痛みに耐えながらも影を睨み続けていた。

犯人は霧を利用し、獲物を狩る狩人のように動いている。
だが、ふたりにとってはこの霧さえも真実を暴く舞台に過ぎない。

「霧の狩人……いいね、幕は開いた。
さあランマル、最後の一幕を演じよう」
レイジの声は怒りと決意を帯び、夜の霧を切り裂いた。
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