霧の羽根

翌晩も、ロンドンの街は霧に沈んでいた。
そしてまた、鐘の音と共に悲鳴が上がる。

駆けつけたレイジとランマルの前にあったのは、劇場の裏路地で倒れた女性の死体だった。
真紅のドレスは喉元から流れた血に染まり、月明かりに艶めいてさえ見える。
彼女の手には、握りしめられたままの一枚の楽譜。

「……今度は楽譜か」
ランマルが楽譜を取り上げ、低く唸る。
「“葬送行進曲”……皮肉なチョイスだな」

レイジは女性の顔にルーペを近づけ、微笑みを消す。
「彼女は劇場のソプラノ歌手だ。……つまり、犯人は芸術家を狙っている可能性が高い」
「呪いでもなんでもなく、芸術気取りの殺人鬼ってわけか」

舞台の奥からは、まだ練習を続けている楽団の音が微かに響いていた。
美しい旋律が、血の匂いと交じり合う。

ランマルは苛立ったように拳を握る。
「クソ……音楽ってのは、人を震わせるためにあるもんだろ。殺しに使うなんて許せねぇ」

その言葉に、レイジは静かに目を細めた。
「ふふ、君が音楽にそこまで反応するなんて珍しいねぇ」
「うるせぇ……今は真面目に言ってんだ」
顔を背けるランマルに、レイジは優しく笑みを浮かべる。

「わかってるよ。君の心が震えるのは、音楽よりも……ぼくの隣にいるからかもしれないけどね」
「……この状況でふざけんな」
ランマルの声は怒り混じりだったが、耳まで赤く染まっていた。

その時、遠くから鐘が二度鳴り響いた。
次の幕が、すでに始まりつつある――。
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