霧の羽根

深夜、ロンドンの裏路地は重い霧に沈んでいた。
ガス灯の光も届かず、石畳は濡れて鈍く光っている。

その中央に――若い男の遺体が横たわっていた。
喉元は鋭く切り裂かれ、白いシャツを赤く染めている。
そして、血だまりの傍らにひとひらの“白い羽根”。

「……ひでぇもんだな」
ランマルはしゃがみ込み、羽根を手に取った。
赤い瞳が冷たく光る。
「羽根の怪人、ね。悪趣味な野郎だ」

その後ろで、レイジがゆったりとルーペを構える。
「ふむ……羽根自体は普通の白鳥の羽だねぇ。けれど、こうして血に染めて添えることで“署名”になる」
「署名だぁ? こいつは画家か作曲家にでもなったつもりかよ」
ランマルが吐き捨てる。

周囲を調べると、争った形跡もなく、財布や所持品も残されていた。
「強盗じゃねぇ。狙いは命そのものだ」
ランマルの言葉に、レイジは小さく頷く。
「そう、これは芸術を気取った“連続劇”。……殺しを舞台にした、悪趣味な演奏会さ」

霧が風に揺れ、遠くで馬車の車輪が軋む音が響いた。
レイジは立ち上がり、隣に立つランマルへと目を向ける。
「次の幕が開く前に、ぼくらでこの芝居を終わらせよう」
「当たり前だ。……次は誰も死なせねぇ」

赤色と琥珀色の瞳が、霧の中で強く交わった。
探偵と助手――そして恋人。
彼らは、羽根の怪人を追う決意を胸に刻んだ。
2/7ページ