永遠のハーモニー

演奏会当日の夜、ロンドンの大劇場は群衆で溢れ返っていた。
霧の街の人々は「呪われた楽団」の噂に怯えながらも、その真相を確かめるように集まっていたのだ。
煌びやかな客席のざわめきが、暗がりの舞台袖まで伝わってくる。

「……観客ってのは欲張りだな」
ランマルは腕を組み、舞台に視線をやった。
「呪いだって怯えながら、結局は面白がって見に来てやがる」

「人は恐怖と魅惑を同じ箱に入れて楽しむ生き物だからねぇ」
レイジはシルクハットを指先でくるくる回し、にこりと笑う。
「それに、この舞台の“真実”を暴くのは、観客にとって最高の余興になる」

舞台に指揮棒が掲げられ、演奏が始まった。
弦、木管、金管……重なり合う音が霧のように広がり、ホールを包み込む。
観客のざわめきは消え、ただ旋律だけが世界を満たした。

だが――。
演奏の最中、再び不穏な兆しが現れる。
譜面台が突然崩れ落ち、楽譜が宙を舞ったのだ。
観客が息を呑む。楽団員が慌てて演奏を止めかけた、その瞬間――。

「……そこだ」
ランマルの赤い瞳が、舞台袖の暗がりを射抜く。
細工された仕掛けを操作していた黒衣の影が、逃げるように動いた。

「ふふ、やっぱり“呪い”なんて存在しなかったわけだ」
レイジがルーペを懐から取り出し、光にかざす。
「人が作り出した悪意こそ、最大の怪奇さ」

ランマルは影を追い、舞台裏へと駆ける。
走りながらも、耳に届く音楽が彼の胸を打った。
――自分は音楽に興味なんてねぇはずなのに。
それでも、この旋律に心が震えるのはなぜだろう。

舞台の表では演奏が続き、裏では追跡劇が繰り広げられる。
探偵と助手――そして恋人。
ふたりは呪いの仮面を剥ぎ取り、真実の音を響かせるために動いていた。
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