永遠のハーモニー

第1章 響かぬ調べ

ロンドン中心部にある大劇場。
漆黒のカーテンに包まれた舞台の上では、翌日の演奏会に向けたリハーサルが進められていた。

客席に腰を下ろしたレイジは優雅に手を叩きながら微笑む。
「ふふ、さすが評判の楽団。音色が霧の街を晴らすようだねぇ」

「おい、まだ本番じゃねぇだろ」
舞台袖に立つランマルが眉をひそめて舞台を睨む。
「……それにしても、張り詰めた空気だな」

その瞬間――。
甲高い音が弾けた。
ヴァイオリンの弦が一本、何の前触れもなく切れ、奏者の手を裂いたのだ。

「きゃっ!」
悲鳴と共に演奏が止まる。奏者は必死に手を押さえ、血が白い布を赤く染めていた。

「またか……!」
指揮者が顔を蒼白にして叫ぶ。
「最近、こうした事故が立て続けに起こっているのです!」

ランマルはすぐさま舞台へ駆け上がり、切れた弦と楽器を確かめた。
「劣化じゃねぇ……意図的に細工されてるな」
彼の赤色の瞳が鋭く光る。

一方、レイジは涼しい顔で客席から立ち上がり、周囲の楽団員に微笑みかける。
「怖がらなくていいよ。君たちの音楽が“呪い”なんて言葉に負けるわけがない」

しかし、彼の声が響いたその時――舞台上の照明が突然大きく揺れ、頭上から落下した。
「ランマル!」
レイジが叫ぶ。

ランマルは寸前で舞台のソプラノ歌手を抱きかかえ、間一髪でかわした。
重い照明が床を砕き、破片が四散する。

「クソッ……完全に仕組まれてやがる」
息を荒げるランマルを支えながら、歌手は涙ぐみ、震える声で呟いた。
「……やっぱり、この楽団は呪われているのです」

レイジは、ゆるやかに笑みを浮かべながらも、その瞳だけは真剣だった。
「呪いなんてものは存在しない。あるのは、人の欲望と嫉妬……そして謎さ」

探偵と助手――そして恋人。
不協和音を奏でる影を暴くために、ふたりは動き出した。
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