未来への口づけ

事件から数日後。
探偵事務所には、いつもの静かな朝が訪れていた。

机の上には新聞が広げられ、紙面には「花嫁失踪事件、真相判明」の文字が躍っている。
政略結婚を仕組んだ叔父は逮捕され、花嫁は新しい人生を歩み始めた。

「めでたしめでたし、だねぇ」
レイジはコーヒーカップを片手に、椅子に深く腰掛ける。
「愛のない契約よりも、未来を選んだ花嫁……ふふ、まるでぼくらみたいじゃないか」

「……誰が花嫁だ。ぶっ飛ばすぞ」
ソファに投げ出したランマルがむすっとした顔で睨む。
けれどその頬はわずかに赤い。

レイジは愉快そうに笑い、カップを置いて彼に身を寄せる。
「でもさ、あの子に触発されたのは事実だよ。契約よりも誓い、形よりも気持ち。
ぼくらだって、もっと……ね?」

「チッ、言わせんな」
ランマルは視線を逸らし代わりにレイジの手を強く握った。
それは言葉よりも雄弁な答えだった。

外では相変わらず霧が街を覆っていた。
けれどふたりの間にだけは、曇りのない光が差している。

探偵と助手――そして恋人。
彼らの物語はまだ始まったばかりだ。
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