未来への口づけ

屋敷で見つけた花嫁の日記は、ふたりを社交界の中心へと導いた。
「罠」という言葉の意味を確かめるには、この結婚が誰に利益をもたらすのかを調べる必要がある。

夜。霧に包まれた大通りに煌びやかな馬車が並んでいた。
今日もまた、貴族たちの舞踏会が催されている。
レイジとランマルは招待状を偽装し、舞踏会の場へと足を踏み入れた。

ホールは金色のシャンデリアに照らされ、豪奢なドレスと燕尾服が踊る海のようだった。
レイジはシルクハットを傾け、余裕の笑みを浮かべて貴族たちの輪に溶け込む。
「ふふ、こういう場は退屈しないねぇ。皆さん、隠したいものだらけだから」

「おれはごめんだな」
壁際に立つランマルは、仮面をつけた視線で人々を睨む。
「にやけた顔で嘘ばっかり並べやがって。……吐き気がするぜ」

そんな彼に、レイジがさりげなく近づく。
「そう言いながらも、君はちゃんと全体を見ている。ほら、あの紳士の視線。妙に執拗だろ?」
「……チッ、あの野郎か」

ふたりの目線の先には、この結婚で莫大な財産を得るはずだった花嫁の叔父の姿があった。
彼は笑みを貼り付けたまま、何度も誰かに耳打ちしている。

レイジはワインを口に運びながら、軽やかに貴族の輪へと入っていった。
「今夜の主役は不在だけれど……皆さん、結婚式よりも別の話題に夢中のようですね」
その言葉に、数人の顔が一瞬だけ強張る。

一方、ランマルは裏手の廊下へと忍び込んだ。
そこには、花嫁の私物らしき白いハンカチが落ちていた。
――だが、それを拾い上げた瞬間、背後から気配が迫る。

鋭い刃が霧のように閃いた。
「……ッ!」
間一髪でかわし、壁に短剣を突き立てるランマル。
「やっぱりな。臭ぇと思ったぜ」

闇に潜む刺客は言葉を発せず、すぐに姿を消した。
だが確信は得られた――花嫁の失踪には、間違いなく権力者の影がある。

ホールに戻ると、レイジが穏やかな笑みの裏で静かに囁いた。
「どうやら、結婚という契約の裏に……恐ろしく醜い陰謀が潜んでいるらしい」
「上等だ。掘り起こしてやろうじゃねぇか」

探偵と助手――そして恋人。
ふたりは霧の奥に潜む真実を暴くべく、さらなる一歩を踏み出した。
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