未来への口づけ

事務所の応接椅子に座った花婿の青年は、蒼白な顔を覆うように両手を震わせていた。
「彼女は……朝までは確かに部屋にいたんです。
式の準備をしていた侍女も、ほんの少し目を離しただけで……」

「ほんの少し、ね」
ランマルが低く呟き、赤い瞳を細める。
「誰かが連れ出したなら、足跡や痕跡があるはずだ。なのにねぇのか?」

「ありません……窓も施錠されていました。まるで、姿そのものが消えたようで……」
花婿の声は途切れ途切れで、絶望に飲まれていた。

そんな彼に、レイジは穏やかに微笑みかける。
「大丈夫。霧に消えたように見えても、必ず真実の道筋は残っているものさ。
――ぼくと、助手のランマルに任せてみない?」

「助手って……」
ランマルがむっと眉をひそめる。
「おい、いつも言ってるだろ。おれはただの助手じゃ――」

言いかけた言葉を、レイジがわざとらしく咳払いで遮った。
「こほん。とにかく、彼は誰より信頼できる相棒なんだ」
その視線には、探偵としての誇りと、恋人としての想いが重なっていた。

花婿はわずかに安堵したように頷き、必死に言葉を繋ぐ。
「どうか……あの人を、僕の花嫁を連れ戻してください」

「任せておきなよ」
レイジは軽やかに帽子を手に取り、立ち上がる。
「さあ、ランマル。霧の街に消えた花嫁を探しに行こうか」

「……ったく。おまえの軽口に付き合うのも仕事のうちかよ」
そうぼやきながらも、ランマルはレイジの隣に並ぶ。
助手として――そして恋人として。

こうしてふたりは失踪した花嫁の謎に挑むこととなった。
2/8ページ