愛と謎の彼方で

貴婦人の依頼を受け、レイジとランマルは馬車に揺られてロンドン郊外の屋敷へ向かった。
窓の外は相変わらず深い霧。ガス灯が滲み、ぼんやりと幻想めいた光を放っている。

「しかし、貴族の屋敷で堂々と宝石泥棒とは……大胆だねぇ」
向かいの席で脚を組んだレイジが、くるくるとルーペを回しながら笑った。

「他人事みてぇに言ってんじゃねぇよ」
ランマルは腕を組み、低く返す。
「依頼人は本気で怯えてた。……おまえの余裕ぶった顔見ると、逆にムカつくぜ」

その言葉に、レイジは肩を竦めて柔らかく笑う。
「ふふ、余裕じゃなくて信頼だよ。ぼくの隣には、誰より頼りになる助手がいるからね☆」
「……ッ」
不意に差し向けられた言葉に、ランマルは視線を逸らす。
助手としての信頼――それは同時に、恋人としての想いの裏返しでもあった。

馬車が停まると、目の前に石造りの大きな屋敷が現れた。
外壁には蔦が絡み、霧の中にぼんやりと浮かび上がる姿はどこか不気味ですらある。

玄関ホールに通された二人を、執事が深々と頭を下げて出迎えた。
「宝石は二階の寝室から盗まれました。窓は施錠され、侵入の痕跡はございません」

「ふむ、密室というわけか……」
レイジは微笑み、さっそく階段を上がる。
その背を追うランマルは、壁や床を睨むように観察していた。
足跡、埃の乱れ、わずかな引っかき傷……誰も気づかない細部に彼の視線は吸い寄せられる。

寝室に入ると、煌びやかな装飾の中にぽっかりと空いた宝石箱があった。
「なるほど、見事にやられたねぇ」
レイジはルーペを覗き込みながら、宝石箱の縁を撫でる。

一方、窓辺に立ったランマルは小さく舌打ちした。
「外は三階分の高さ……落ちりゃ即死だ。普通なら無理な侵入だな」
「普通じゃないからこそ、ぼくらの出番ってわけさ」
レイジが微笑む。

ふたりの視線が交差した瞬間、霧の街にまた新たな謎が浮かび上がる。
探偵と助手――そして恋人。
その絆を胸に、彼らは真実の扉を開こうとしていた。
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