偽りの舞台

数日後、ロンドン市内の劇場。
昼間だというのに舞台裏は薄暗く、古びた幕や埃っぽい楽屋が重たい空気を漂わせていた。

「ここか……」
ランマルが赤い瞳で舞台を睨みつける。
「依頼人の言ってた“旋律”が聞こえるって場所」

レイジはステッキを片手に歩き回り、舞台の床を軽く叩く。
「確かに、木の響きが不自然だ。下に何か仕掛けがあるのかもしれない」

その時――。
「探偵ごっこにしては、ずいぶん真剣だな」

低く冷ややかな声。
舞台袖から姿を現したのは、警部のカミュだった。
プラチナブロンドの髪が薄暗い照明に浮かび上がり、アイスブルーの瞳が氷のように光る。

「貴様らの動きを監視するのも、俺の仕事だ」
「またかよ」
ランマルが舌打ちする。
「レイジに構ってんじゃねぇ。おれらだけで十分だ」

「ほう……二十三の小僧が随分と強気だな」
カミュは挑発的に唇を歪める。
「だが実力で証明できなければ、嫉妬にすがる哀れな助手にすぎん」

「なんだと!」
ランマルが前に出ようとしたその瞬間――。

「二人とも。……落ち着いて」
レイジの声が、舞台の空気を和らげた。
「ここはぼくらの探偵事務所じゃない。――劇場だよ」

その穏やかな口調にランマルも渋々引き下がる。

だが、舞台の奥からさらに別の声が響いた。

「……また、顔ぶれが騒がしいね」
静かで淡々とした声。
背の高い青年が、新聞紙を抱えて舞台袖から歩み出てきた。

青白い肌、水色の瞳。
無駄のない動作で新聞を畳むと、冷めた調子で言った。
「今更だけど自己紹介、アイ・ミカゼ。新聞記者……であり、情報屋。君たちが来ることくらい、わかってた」

「アイ……!」
レイジは目を細め、軽く微笑む。
「やっぱり来てくれたね」

ランマルは眉をひそめる。
「……新聞記者のくせに裏の顔持ってんのが何とも言えねぇ」
「裏の顔がなきゃ、生き残れないんだよ。この街では」
アイはさらりと返し、手にしたメモを差し出す。

「仮面の残党は、舞台裏の地下室を拠点にしている。楽譜の暗号は、その入り口の位置を示してる」

カミュが目を細めた。
「……情報が早すぎるな。どこまで掴んでいる?」

「全部は言わない。君らに渡すのは、この程度だ」
水色の瞳が冷たく光る。
「探偵も、警察も……利用できるなら利用する。それがボクのやり方」

レイジは肩をすくめ、柔らかく笑った。
「いいさ。それでも十分助かる」

アイの言葉で緊張が走る中、舞台の奥から不気味な旋律が確かに流れてきた。
それは誰も弾いていないはずのピアノの音――。

ランマルの赤い瞳が鋭く光った。
「……出やがったな、仮面ども」
4/8ページ