偽りの舞台
依頼人が差し出した手紙には、劇場の名前とともに一文だけが記されていた。
――「仮面の影が舞台を覆う」。
ランマルは紙を奪い取るようにして睨む。
「仮面、か……やっぱりあの連中だな」
依頼人はおびえたように頷いた。
「ええ。最近、楽屋で妙な暗号のような楽譜を見つけました。それを届ければ安全だと、誰かに囁かれて……」
「誰か?」
レイジの琥珀色の瞳が静かに光る。
依頼人は首を振った。
「顔は……仮面で隠されていました」
その瞬間、カミュが懐から一枚の紙を取り出して机に置いた。
「こっちにも同じ物が届いている」
それは依頼人の言葉通り、不自然な書き込みのある楽譜だった。
レイジは手に取って指先でなぞる。
「やっぱり音符が暗号になってる……。劇場で何かが起きる。間違いない」
声は柔らかいが、その表情には影が差していた。
ランマルがじっと見つめる。
「……レイジ、おまえ、やけにこういうの詳しいよな」
「ぼくが二十六までに何をしてきたか、いちいち説明する必要ある?」
レイジは笑ってかわすが、どこか遠い記憶に沈むような声音だった。
「ふん、軽口ばかりだな」
カミュの青い瞳が鋭く光る。
「レイジ・コトブキ、この暗号はお前にしか解けぬ。劇場に潜む仮面の残党を炙り出せ」
「命令かよ」
ランマルが低く唸る。
「依頼だ」
カミュは淡々と返す。
「……もっとも、結果を出せなければお前たちの存在価値はそれまでだ」
挑発にランマルの拳が震える。
しかしレイジは穏やかな笑みを崩さず、依頼人に向き直った。
「大丈夫。――必ず解き明かします」
依頼人の表情に安堵が浮かぶ。
その姿を見ながら、ランマルは唇を噛んだ。
(……やっぱり何か隠してる。あの楽譜を見たときのレイジの顔……おれには誤魔化せねぇ)
事務所を出るカミュの背を、赤い瞳が冷たく追う。
青と赤、二つの視線が交錯する中、霧深きロンドンの劇場を巡る事件は幕を開けようとしていた。
――「仮面の影が舞台を覆う」。
ランマルは紙を奪い取るようにして睨む。
「仮面、か……やっぱりあの連中だな」
依頼人はおびえたように頷いた。
「ええ。最近、楽屋で妙な暗号のような楽譜を見つけました。それを届ければ安全だと、誰かに囁かれて……」
「誰か?」
レイジの琥珀色の瞳が静かに光る。
依頼人は首を振った。
「顔は……仮面で隠されていました」
その瞬間、カミュが懐から一枚の紙を取り出して机に置いた。
「こっちにも同じ物が届いている」
それは依頼人の言葉通り、不自然な書き込みのある楽譜だった。
レイジは手に取って指先でなぞる。
「やっぱり音符が暗号になってる……。劇場で何かが起きる。間違いない」
声は柔らかいが、その表情には影が差していた。
ランマルがじっと見つめる。
「……レイジ、おまえ、やけにこういうの詳しいよな」
「ぼくが二十六までに何をしてきたか、いちいち説明する必要ある?」
レイジは笑ってかわすが、どこか遠い記憶に沈むような声音だった。
「ふん、軽口ばかりだな」
カミュの青い瞳が鋭く光る。
「レイジ・コトブキ、この暗号はお前にしか解けぬ。劇場に潜む仮面の残党を炙り出せ」
「命令かよ」
ランマルが低く唸る。
「依頼だ」
カミュは淡々と返す。
「……もっとも、結果を出せなければお前たちの存在価値はそれまでだ」
挑発にランマルの拳が震える。
しかしレイジは穏やかな笑みを崩さず、依頼人に向き直った。
「大丈夫。――必ず解き明かします」
依頼人の表情に安堵が浮かぶ。
その姿を見ながら、ランマルは唇を噛んだ。
(……やっぱり何か隠してる。あの楽譜を見たときのレイジの顔……おれには誤魔化せねぇ)
事務所を出るカミュの背を、赤い瞳が冷たく追う。
青と赤、二つの視線が交錯する中、霧深きロンドンの劇場を巡る事件は幕を開けようとしていた。