偽りの舞台
ロンドンの朝霧がまだ通りを覆う中、一人の青年が赤煉瓦の建物の二階へと足を踏み入れた。
扉には小さなプレート――〈コトブキ探偵事務所〉の名がかかっている。
中は、書類が積まれた机と棚、窓際のソファと暖炉、そしてテーブルの上に並ぶルーペと短剣。
雑然としながらも、どこか居心地のいい空気が漂っていた。
「ようこそ、〈コトブキ探偵事務所〉へ。――ぼくが探偵のレイジ・コトブキです」
栗色の少し長めの髪を揺らし、琥珀色の瞳の男が人懐っこく笑った。
訪れた青年は緊張しながらも、礼をして口を開いた。
「劇場で……妙なことが起きているんです。楽屋に入ると、聞いたことのない旋律が響くんです。誰も弾いていないのに」
その言葉に、レイジの笑顔が一瞬だけ翳った。
しかしすぐに柔らかく頷く。
「なるほど。劇場にまつわる不可解な現象か。詳しく話を聞かせてください」
背後から、ぶっきらぼうな声が割り込む。
「座れよ。荷物はおれが持つ」
赤い瞳を光らせた銀髪の青年――ランマル・クロサキが依頼人の鞄を受け取った。
依頼人は驚いてランマルを見上げる。
「あなたも随分とお若いようですが……」
ランマルは不機嫌そうに口を尖らせる。
「おれは二十三だ。若いからって子ども扱いすんな」
その隣で、レイジが笑みを浮かべて補足する。
「ぼくは二十六。……若いかもしれませんが、場数はそれなりに踏んでますよ」
依頼人は安堵の息を漏らした。
その瞬間、事務所の扉が乱暴に開く。
「やれやれ……相変わらずだな」
低く冷ややかな声と共に、プラチナブロンドの髪を持つ男が現れる。
「スコットランド・ヤード、警部のクリスザード・R・カミュだ」
青い瞳が室内を冷たく掃き、依頼人を見もしないまま、レイジへ視線を向ける。
「二十六の探偵に、二十三の助手……子どもの遊びにしては、妙に本格的だな」
「うるせぇ!」
ランマルが噛みつきかけるが、レイジが軽く手を上げて制した。
「まあまあ。――で、カミュ警部。あなたが来るってことは、この劇場の件、仮面の連中と関係があるんですね?」
依頼人の顔がこわばる。
室内の空気は一気に張り詰め、事件の匂いが漂い始めていた。
扉には小さなプレート――〈コトブキ探偵事務所〉の名がかかっている。
中は、書類が積まれた机と棚、窓際のソファと暖炉、そしてテーブルの上に並ぶルーペと短剣。
雑然としながらも、どこか居心地のいい空気が漂っていた。
「ようこそ、〈コトブキ探偵事務所〉へ。――ぼくが探偵のレイジ・コトブキです」
栗色の少し長めの髪を揺らし、琥珀色の瞳の男が人懐っこく笑った。
訪れた青年は緊張しながらも、礼をして口を開いた。
「劇場で……妙なことが起きているんです。楽屋に入ると、聞いたことのない旋律が響くんです。誰も弾いていないのに」
その言葉に、レイジの笑顔が一瞬だけ翳った。
しかしすぐに柔らかく頷く。
「なるほど。劇場にまつわる不可解な現象か。詳しく話を聞かせてください」
背後から、ぶっきらぼうな声が割り込む。
「座れよ。荷物はおれが持つ」
赤い瞳を光らせた銀髪の青年――ランマル・クロサキが依頼人の鞄を受け取った。
依頼人は驚いてランマルを見上げる。
「あなたも随分とお若いようですが……」
ランマルは不機嫌そうに口を尖らせる。
「おれは二十三だ。若いからって子ども扱いすんな」
その隣で、レイジが笑みを浮かべて補足する。
「ぼくは二十六。……若いかもしれませんが、場数はそれなりに踏んでますよ」
依頼人は安堵の息を漏らした。
その瞬間、事務所の扉が乱暴に開く。
「やれやれ……相変わらずだな」
低く冷ややかな声と共に、プラチナブロンドの髪を持つ男が現れる。
「スコットランド・ヤード、警部のクリスザード・R・カミュだ」
青い瞳が室内を冷たく掃き、依頼人を見もしないまま、レイジへ視線を向ける。
「二十六の探偵に、二十三の助手……子どもの遊びにしては、妙に本格的だな」
「うるせぇ!」
ランマルが噛みつきかけるが、レイジが軽く手を上げて制した。
「まあまあ。――で、カミュ警部。あなたが来るってことは、この劇場の件、仮面の連中と関係があるんですね?」
依頼人の顔がこわばる。
室内の空気は一気に張り詰め、事件の匂いが漂い始めていた。