消えた恋人

礼拝堂の奥へと進むたび、歌声はますます鮮明になっていった。
低くも力強く、天井を震わせる旋律。
だがその響きは、祈りというよりも――鎖に縛られた者の叫びのように聞こえた。

レイジの胸が締めつけられる。
「……ランマル」

やがて三人は礼拝堂の扉を押し開けた。
そこに広がっていたのは異様な光景だった。

祭壇の前、鎖で縛られた長身の男。
銀の髪が灯火に照らされ、赤い瞳が虚ろに光っている。
そして唇からは絶え間なく歌が紡がれていた。

「ランマル!」
レイジが駆け出そうとするのを、カミュが咄嗟に押さえた。

「待て。今、近づけば逆に呑まれる」

祭壇の周囲には複雑な紋章が描かれており、その中心にランマルが囚われていた。
彼の歌声が紋章を震わせ、空気を震動させている。

アイが冷静に分析する。
「……やはり“儀式”だ。クロサキの血筋に宿る声を利用して、何かを呼び起こそうとしている」

「ふざけるな……!」
レイジは声を荒げる。
「これはランマルの歌だ!彼の心を……道具みたいに扱うな!」

その叫びに応えるように、ランマルの赤い瞳が一瞬だけ揺れた。
だがすぐに虚ろな光に戻り、歌声を止めることはなかった。

「……っ」
レイジの胸を鋭い痛みが走る。

その時、祭壇の陰から仮面の男が姿を現した。
「探偵よ。よくぞここまで来たな」
冷酷な声が礼拝堂に響く。

「お前は……!」
「クロサキの力はすでに我らのもの。赤き瞳の歌は、封印を解く鍵となる」

カミュが杖を構え、氷の瞳を鋭く光らせた。
「悪趣味な芝居はここで終わりだ。ランマルは俺たちが取り戻す」

「取り戻す?奴は既にこちら側に足を踏み入れた。愛する探偵を守るためにな」

レイジの心臓が凍りつく。
「……どういう意味だ」

仮面の男は愉快そうに笑った。
「ランマル自身が選んだのだ。自らを犠牲にし、赤い歌声を解き放つことを」

「違う!そんなはずはない!」
レイジの叫びが礼拝堂に響き渡る。

その瞬間、鎖に繋がれたランマルの瞳が、ほんの一瞬だけ――レイジを捉えた。
虚ろな光の奥で、確かな熱が揺れていた。

「ランマル……!」

レイジの声に、彼の歌が微かに震えた。
だが紋章の力は強く、鎖はなおも彼を縛り付ける。

「くそ……必ず助ける!」
ルーペを握りしめ、レイジは一歩前へ踏み出した。
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