消えた恋人

「……カミュを頼れ」

ランマルの書き置きに刻まれていたその一文が、レイジの胸の奥で重く響き続けていた。
よりによって、あの氷の刑事に――。

霧雨の街を抜け、スコットランドヤードへと足を運ぶ。

「カミュ警部にご面会ですね」
受け付けに話をして内部へと入る。

廊下奥の重厚な扉を押し開けると、冷たい空気と共に鋭い視線が突き刺さった。
白磁のように整った顔立ち、プラチナブロンドの髪。
アイスブルーの瞳は相変わらず氷のように冷ややかだった。

「……久しいな、探偵」
「カミュ」

二人の間に短い沈黙が落ちる。
レイジは躊躇わず、机の上に置いた。
それは――ランマルの短剣。

カミュの瞳が、わずかに細められる。
「……なるほど。奴は姿を消したか」
「知っているの?」
「昨夜、奴に会った。俺に“レイジを託す”と言い残してな」

その言葉に、レイジの心臓が強く打った。
やはりランマルは自らの意思で去ったのだ。

「理由は話さなかった。ただ……奴の目は決意に満ちていた」
「……ッ」

レイジの拳が震える。
あの赤い瞳が、彼に何も告げずに去った。
怒りよりも、深い寂しさが胸を締め付ける。

カミュは腕を組み、わずかに身を乗り出した。
「安心しろ、探偵。お前は一人ではない。少なくとも今は、俺がいる」
「……ふざけないでくれないか。彼の代わりなんて……」
「代わりではない。だが、奴が選んだのは俺だ」

アイスブルーの瞳が突き刺さるように見つめてくる。
レイジは言葉を詰まらせた。
相棒を信じたい気持ちと、残された現実の狭間で揺れていた。

カミュは冷たい声で言い放つ。
「行こう。奴が何を背負ったのか、この目で暴いてやる」

氷の瞳と琥珀の瞳が交わったその瞬間、探偵と刑事の奇妙な共闘が始まった――。
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