氷の伯爵の依頼

カミュが事務所に足を踏み入れた瞬間、室内の空気は一気に凍りついた。
彼が放つ冷気は、霧と共に人の心までも凍らせる。

「……久しいな、コトブキ探偵」
冷徹な声が響く。

レイジはにこやかに微笑み、軽く片手を挙げた。
「おやおや、氷の伯爵ご登場かい。こんな朝に珍しいね?」

カミュの瞳が射抜くようにレイジへ向けられる。
冷たいはずの視線の奥に、抑え込んだ熱がわずかに揺れていた。

「貴殿に頼みがある」
カミュは机の上に分厚い封筒を置く。
その仕草すら無駄がなく、氷の刃のように鋭い。

ランマルは赤い瞳を細め、低く吐き捨てる。
「刑事が探偵に依頼?ヤードの連中がよっぽど無能ってこったな」

カミュは一瞥だけ彼に向け、すぐにレイジへ視線を戻す。
「……クロサキ家に関する件だ」

「……っ!」
その名が口にされた瞬間、ランマルの全身が強張った。
拳が震え、赤い瞳が大きく揺れる。

「クロサキ……だと……?」
低く搾り出した声には、怒りと恐怖と嫌悪が入り混じっていた。

レイジはそんなランマルの様子を横目に、表情を変えずに封筒へ手を伸ばす。
「クロサキ家……なるほど。君がここに来た理由が分かったよ」

レイジはカミュに向けて不敵に微笑んだ。
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