氷の伯爵の依頼

扉を叩く音は規則正しく、硬質で、まるで氷を打つ音のようだった。
ランマルが舌打ちしながら立ち上がり、ドアを開ける。

「……やっぱり来やがったか」

霧の中に立っていたのは、長身のプラチナブロンドの刑事――カミュだった。
冷徹な瞳は相変わらず鋭い。だがその奥には、抑え込んだ熱がかすかに揺れている。

「コトブキ探偵、話がある」
短く低い声が、室内の空気をさらに張り詰めさせた。

カミュは机に分厚い書簡を置いた。
黒い封蝋が押されたそれは、不吉な気配を纏っている。

「クロサキ家が動いた。次の標的は――あなただ、コトブキ探偵」

「……っ!」
ランマルの赤い瞳が大きく揺れる。
「今なんて言いやがった……!?」

「クロサキ家は、外の者を徹底的に排除しようとしている。
あなたが彼を選び、彼が“クロサキの影”に踏み込んだからだ」

「ふざけんな!」
ランマルは拳を叩きつけ、椅子が揺れた。
「レイジは関係ねぇだろ!」

「関係あるさ」
カミュは視線をレイジに向ける。
冷たさを装ってはいるが、その奥に複雑な感情が滲んでいた。

「……君を狙えば、ランマルも揺らぐ。
それがクロサキ家の狙いだ」

レイジは一度だけ目を閉じ、静かに頷いた。
「つまりぼくを餌にしてランマルを追い詰める……そういうことだね」

ランマルの喉が詰まり、赤い瞳が激しく揺れる。
「絶対に……絶対に指一本触れさせねぇ!」

その拳をレイジがそっと包み込み柔らかく囁く。
「君一人で背負わなくていい。ぼくたちは相棒で、恋人だろ?」

カミュはその様子を見つめ、冷ややかに吐き捨てた。
「感情が絡むほど危うい……だが、それでも貫けるか」

鐘の音が霧を震わせた。
クロサキ家の影はもうすぐそこまで迫っていた。
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