幻に囁く亡霊

床に砕け散った仮面の傍らで、当主の甥は取り押さえられ、もがきながら叫んでいた。

「なぜだ!なぜ俺が咎められねばならん!
祖父の代に奪われたものを、俺が取り返して何が悪い!」

その声には狂気と執念が入り混じっていた。

カミュは冷徹に言い放つ。
「奪われた恨みを晴らすために、亡霊を装い、当主の命を狙った……。
それを“正義”と呼ぶか?」

「……黙れ!」
甥は顔を歪め、ランマルを睨みつける。
「お前だ、お前の家が全ての元凶なんだ!
お前さえいなければ……俺の家は……!」

ランマルの赤い瞳が鋭く光った。
「テメェ……おれを血で裁こうってのか」

彼は短剣を握りしめ、一歩踏み出した。
その姿に屋敷の人々は息を呑む。

だが、その腕をそっと掴む手があった。
「ランマル」
レイジの声は静かで、温かかった。
「もういい。裁くのはぼくたちじゃない。――真実はもう明らかになったんだ」

「……っ」
ランマルは悔しげに目を伏せ、短剣を収めた。

カミュが甥を鋭く睨みつけ、護衛たちに引き渡す。
「貴様の罪は、スコットランド・ヤードが裁く。亡霊の仮面は、ここで終わりだ」

広間に重苦しかった空気が、少しずつ解けていく。
怯えていた使用人たちが安堵の息を漏らし、屋敷に静けさが戻った。

ランマルは深く息を吐き、額の汗を拭った。
「……結局、また“血”に縛られた話じゃねぇか!」

レイジは彼の手を取り、優しく囁く。
「いいや。君は血じゃない。君が選んだ道を歩いている。それが真実だ」

その言葉にランマルの赤い瞳がわずかに潤む。
「……そうかよ」
低く呟き、レイジの手を強く握り返した。

夜明けの鐘が遠くで鳴り響き、霧の街に新しい朝が訪れる。
――亡霊は裁かれ、だが残された“血の呪縛”はまだ消えてはいなかった。
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