幻に囁く亡霊

屋敷の大広間を後にし、夜気に包まれた中庭へ出た。
ガス灯が霧にぼんやりと滲み、ふたりの影を長く映し出す。

ランマルは石の欄干に手をつき、赤い瞳を伏せていた。
「……おれは、結局“クロサキの血”から逃げられねぇのかもしれねぇ」

レイジは背後から静かに歩み寄り、柔らかい声で囁く。
「ランマル……君は君だよって言った筈だよ」

「でもよ……祖父のやったことが、こうしておれを狙わせてる。
親父がどんなに善人でも、おれが家を捨てても……結局は血のせいで……」

言葉を途切れさせ、ランマルは唇を噛む。
赤い瞳の奥には、普段は見せない不安が揺れていた。

レイジは彼の肩にそっと触れ、優しく引き寄せる。
「大事なのは血じゃない。君が何を選んで、どう生きるかだ」

ランマルは息を呑み、顔を上げる。
レイジの眼差しは真っ直ぐで、温かく揺るぎなかった。

「おれが……どう生きるか」

「うん。そして君はもう選んでる」
レイジは微笑み、恋人の耳元に低く囁いた。
「ぼくと一緒に生きるって」

ランマルの胸に熱が込み上げる。
その言葉が、どれほど救いであるかを思い知らされる。

「……そうかよ」
掠れた声でそう呟くと、ランマルは思わずレイジを強く抱きしめた。

ふたりを包む霧の夜気が冷たくても、互いの温もりだけは確かだった。
――どんな呪縛があろうとも、この絆だけは揺るがない。
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