幻に囁く亡霊

大広間の中央で、捕らえられた老執事はうなだれたまま、嗄れた声で呟いた。
「……この屋敷の没落は、お前たちクロサキ家のせいだ……」

「どういう意味だ?」
レイジが穏やかに問いかける。

執事は憎悪に濁った瞳をランマルに向ける。
「かつて、お前の祖父が財閥を拡大するために、この屋敷の主家を潰したのだ。
借財を背負わせ、土地を奪い、我らを従わせた……。
その“罪”は、血に刻まれている、お前の父親もお前自身にもな」

「……祖父の代の話か」
ランマルの拳が震える。
「ふざけんな……おれの親父はそんな奴じゃねぇ!
むしろ“お人好し”すぎて利用されるような男だ……!」

執事は嘲るように吐き捨てる。
「だがクロサキの血に変わりはない!
父が善人だろうと、祖父の罪が消えるわけではない!」

ランマルの赤い瞳が怒りに燃える。
「……そんなもん、おれには関係ねぇ!
おれは、あの家を捨てたんだ!」

その叫びに、レイジの胸に熱が走る。
彼はそっとランマルの肩に触れ、柔らかな声で囁いた。
「うん。君は君だよ、ランマル。祖父でも、父でもなく、君には関係のない事だ」

カミュは冷徹な表情を崩さず言葉を継いだ。
「罪を裁くのは歴史だ。
だが、己の血とどう向き合うかは……君自身にしかできぬことだ」

執事は護衛に取り押さえられ、静かに引き立てられていった。
だがランマルの胸にはなお、重い呪縛の影が残っていた。

(……親父はあんなに人が良かったのに……おれは“血”のせいで狙われるのか……?)

夜のロンドンに鐘が鳴り響き、その音はランマルの心に絡みつく鎖のように響いた。
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