氷の伯爵と紅き炎

コトブキ探偵事務所の応接間に、厚手の資料が並べられた。
カミュは背筋を伸ばしたまま椅子に腰を下ろし、冷ややかに言葉を紡ぐ。

「連続盗難事件――ここ数週間、ロンドン各地の上流階級の屋敷で高価な品が奪われています。
手口は鮮やかで、侵入の痕跡もなく、見張りも気づかない」

「へぇ、まるで手品師だね」
レイジは片肘をつき、気軽な調子で書類をめくる。
だが瞳には、すでに鋭い光が宿っていた。

「我々スコットランド・ヤードでも手を焼いている。……そこで、あなたの推理力を借りたい」
カミュの声音は冷徹に響くが、その視線はレイジに吸い寄せられている。

ランマルは、その様子を横から睨みつけていた。
(……コイツ、事件よりレイジを見てやがる)

「ランマル、メモを頼むよ」
レイジに声をかけられ、ランマルは渋々ノートを開く。
だが筆先は荒く走り、心の中では苛立ちが渦巻いていた。

「容疑者の線は?」
レイジが軽く問いかける。

「それが、どうにも定まらない。貴族社会の人脈は複雑で内部の協力者がいる可能性もある」
カミュは答えながら、ふと柔らかく微笑む――レイジにだけ向けた笑みだった。

その瞬間、ランマルの手に持つペン先が紙を突き破る。
「……チッ」

レイジはそんなランマルを見て小さく笑い、
「ま、ぼくたちで暴いてみようじゃないか。ねぇ、ランマル」
と肩を軽く叩いた。

「……ああ」
返事をしながらも、ランマルの赤い瞳には険が残っていた。
(絶対にレイジをコイツに取らせるもんか)

こうして、コトブキ探偵事務所とスコットランド・ヤードの奇妙な協力関係が始まった。
だが、霧深いロンドンの街角には、事件の影ともうひとつ――
ランマルの胸をざわつかせる恋のライバルの影が、色濃く差し始めていた。
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