時計塔の秘密

ロンドンの象徴――時計塔の扉は、重く軋んで開いた。
内部は薄暗く、油の匂いと古い木材のきしみが満ちている。
歯車が互いに噛み合い、時を刻むはずの音が、どこか不規則に響いていた。

「なるほど……見事な舞台装置だねぇ」
レイジはルーペを片手に、巨大な歯車を興味深そうに見上げる。
「もし人為的に狂わせようとしたなら、仕掛けはどこかに残ってるはずだ」

「おい、こっちを見ろ」
ランマルの低い声が階段の上から響く。
彼は長い鉄のはしごを軽々と上がり、塔の中腹に差しかかっていた。
指先が示すのは、歯車の一部。金属の表面に、不自然な削り跡が残っている。

「わざと摩耗させてやがる。……歯車が噛み合わなきゃ、針は落ちる」
銀髪を揺らしながら、ランマルが吐き捨てる。
「こいつは偶然じゃねぇな」

レイジは静かに頷き、にやりと笑った。
「つまり“誰か”が時計塔を止めたがってるわけだ。
亡霊なんて、ただの舞台衣装にすぎない」

「そうかよ」
ランマルは短く言い放ち、再び視線を歯車に戻した。
その声音には、呆れと苛立ちと、わずかな納得が混ざっている。

階段を降りてきた彼の額には汗が光り、赤色の瞳は鋭さを増していた。
「……上まで調べりゃ、もっとはっきりするはずだ。行くぞ」

レイジはそんな彼を見つめ、楽しそうに肩をすくめる。
「ふふ、君の足があれば、塔の頂上だってすぐだろうね」

ふたりは螺旋階段を駆け上がっていった。
歯車の軋む音と鐘の余韻が、塔の内部に不気味なリズムを刻んでいた。
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