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召喚師と辛辣な貴方

あの日、新しく召喚された英雄は言った。『信用ならねえときは遠慮なく後ろから撃つ』と。今ままで召喚してきた英雄たちの中でもかなり気難しそうな人だった。いや、さすがに闇に落ちた英雄よりはましか?基本、召喚師によって呼び出された英雄は友好的なので久しぶりに面倒臭そうなのを引いたなと思ってしまった。そんな心情を読まれたかどうかはわからぬが、束ねた赤い髪を風になびかせ不機嫌そうな顔でこちらを見ていた英雄、シノンが新たにヴァイス・ブレイブの一員となった。
よろしくお願いします、と挨拶しても彼は無言だった。

シノンがアスク王国に来てから数日経った。彼は主に同じタイミングで召喚されたガトリーという英雄と行動を共にしている。今日も広間の片隅で一緒にいて、何かを話していた。なんでも、二人は元いた世界で同じ傭兵団に所属していてよくつるんでいたそうだ。仲間意識を持ちたがらなそうなシノンにもそういう人がいるんだなと、召喚師は安心した。そういえば、買い出しに行く必要があるな、よしこの二人に任せるか。まだ二人ともアスクの街を見ていないだろうし、ちょうどいい。
「シノンさん!ガトリーさん!おしゃべり中のところ、すみません!」
声をかけると、二人とも振り向いてくれた。ガトリーは「あなたから声をかけてくれるなんて…!やっぱりあなたがおれの運命の人だったんすね!」と一人はしゃいでいたが、シノンの方はというと、いつも通り機嫌が悪そうだった。
「これはこれは、召喚師さまがオレたちになんのご用で?雑用でもさせる気か?」
…この人は本当に心が読めるんじゃなかろうか?同じ世界にいるラグズの白鷺の民はそのような力を持っていると聞いてはいたが人間…ベオクにもそんな力を持つ人がいるとは知らなかった。後でアルフォンスに教えてあげよう。
「えっと……雑用といえば雑用かもしれませんが…、買い出しをお願いしたくてですね…。そのついでに是非、アスクの城下町を見ていただきたいと思いまして。」
「お!いいっすねそれ!おれ、行きますよ!可愛い女の子に会えるかも知れませんし!シノンさんもいきますよね!」
「おいおい、さっきこいつのこと運命の人とか言ってなかったか?…まあ、いいけどよ。ここにいるとアイクの野郎と鉢合わせるしな…。」
「アイクさんがどうしたんですか?」
「てめえには関係ねぇよ。で、何買えばいいんだよ。」
召喚師がメモ紙とお金の入った袋を取り出すと、シノンはそれを乱暴にひったくった。
「おら、行くぞガトリー。ついでに美味い酒が飲めるとこ探そうぜ。」
そう言ってシノンは、ガトリーを引っ張って足早に去っていった。どこまでも乱暴な人だな、召喚師は思った。店の場所など説明しようと思っていたがそんな暇もなかった。まあ、なんとかしてくるだろう。してもらわないと困るが。

「それにしてもアイクさんがどうし…あっ、アイクさんって傭兵団の団長だったな………。シノンさんがいないうちにアイクさんに事情を聞いておくかあ…。」
英雄たちのことをよく知ることも召喚師の務め、だとは思っているがやはり面倒くさい人の相手をするのは疲れるな、と召喚師は大きめのため息をついた。


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