鬼
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あれから俺は任務に没頭し、できるだけ彼女のことを考えないようにしていた。
そもそも鬼を倒す為にこの鬼殺隊に入ったのだ。
色恋沙汰など必要ない。とにかく鬼を倒して、禰豆子を人間に戻さないと。
そう自分に言い聞かせても、一度視界に捉えると無意識に目で追ってしまっていた。
蝶屋敷で休ませて貰っている今、あかねはアオイさん達の手伝いをしている。
俺も手伝いに行こうかと動いた瞬間、後ろから名前を呼ばれ驚く。
「た〜んじろ〜くぅん?」
「いっ…!?善逸……!」
「俺のこの本気の恋、邪魔しないって言ってくれたよね?」
「あ…ああ、忘れてないぞ」
「よかった!俺のあかねちゃんのこと取らないでよね!」
そう。暫く前になるが、「あかねが好きだから応援して欲しい」と善逸からお願いをされたのだ。多分俺の気持ちを知った上で。善逸は耳がいいから、音で何となくわかっていると思う。
俺も匂いで善逸の気持ちを感じとってはいたが、まあ先手を打たれてしまったようなものだ。
動き出そうとしていた体を戻し眺めるだけに留める。善逸はあかねの元へ向かいちょっかいを出しているようだ。
手伝えばいいものを…と少しムッとする。
ここにいたらまた心を乱される。
俺は2人が視界に入らないように場所を変えた。また鍛錬でも、と歩いていると前から伊之助が走ってきた。
これは、タイミングがいいかもしれない。
「伊之助!何してるんだ?」
「アァ!?見ての通りだろうが!走ってんだよ!」
「よし!俺も混ぜてくれ!」
「オウ!!着いて来い!子分!」
「「うおぉぉぉおおおお!!!!」」
伊之助と一緒に蝶屋敷周辺を全力で走り回り、一時ではあったが忘れることが出来た。
───……
伊之助に続いて走り回っていたが、お互いに体力が尽きその場で大の字に倒れ込んだ。
大きく息を吸って吐いて、呼吸を整える。
「……伊之助、ありがとう」
「はぁ???」
「体動かすと気が紛れるよ」
「なんの事だかわかんねー!」
脈絡無く一方的に話し続けた。思えば誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
「俺は長男だから、我慢するよ」
「あ?」
「ずっと我慢してきたけど、これからも我慢する」
「……我慢だァ??」
「人には親切にしないと」
「…何言ってんだ権八郎!イライラさせてんのか!」
いよいよキレ始めた伊之助に「悪かった!」と慌てて謝る。そりゃ何の話かも分からないのに勝手に語られても困るよな。
だいぶ日も暮れてきたから夕飯の準備を手伝いに行こうと、伊之助に声をかけようとしたその時。
「俺は負けねぇ!ぜってー勝つ!」
急に大きな声でそう叫んだ。何故だかその言葉が心の奥に染みた気がした。
何かを続けて喋っていたが、俺は考え込んでいた為聞こえていなかった。
そうだ。我慢強いが、諦め悪いのが俺だ。
「そうだな!ありがとう伊之助!」
伊之助はまた頭にはてなを浮かべていたが、俺は急いで起き上がりあかねを探しに走り出していた。振り回してごめん伊之助、でもありがとう。
直接聞いていないから、ダメだと決まった訳ではない。まだ終わってないんだ。
匂いを辿りながら探しているととある一室の前で匂いが強くなった。
扉を開けようとした時、中から話し声が聞こえた。
善逸とあかねだ。
無我夢中であかねを探していたから善逸の匂いに気づけなかった。
善逸の「応援して欲しい」という言葉を思い出す。
途端にさっきまでの高揚感が無くなり、モヤモヤした物が胸に溜まっていく。
ドアの前で動けないでいる俺は葛藤する。
このままあかねと善逸が恋仲になれば、それは2人にとってとても幸せな事だ。これは恐らく他の誰が見てもそう思うだろう。
何より好きな人が幸せならこれ以上の事はない。
でももしそうなったら俺はどうなる?
どうもこうも見守るだけだ。
でも何かの間違いで善逸がフラれてしまえば……俺にだってチャンスがあるかもしれない。
いやしかし俺があかねに言い寄ったら善逸を裏切る事になる。
グルグルと終わらない螺旋階段をひたすら降りている気分だ。
考え過ぎだ。
他人の不幸を願うだなんて、俺はなんて浅はかな考えを。
開けようとしていた手を静かに下ろし踵を返す。
伊之助と走ったせいで体がベタベタだ。湯浴みでもしよう。
一旦冷静にならなければ。
───……
湯船に浸かりながら、ぼーっとした頭でずっと考えていた。
あかねが隣にいてくれたら、本当に何だってできる気がする。
それにあかねが鬼と戦うことが無いように俺が守るのに。
そうだ、この間の任務終わりの寄り道、ちゃんと出来ていなかった。
思い切って誘ってみようか───
───ああ、俺はいつからこんなに。
一人きりの風呂場に乾いた短い笑い声が響いた。
これじゃあまるで恋に悩む乙女だ。
好きにならなければよかったのに。
出会わなければよかったのに。
もういっそ、嫌いになれたらいいのに。
こんなに悩む必要も無いのに。
カッと熱くなった目頭に、慌てて顔面を湯に沈めた。
───
イメージソング:ら、のはなし(あいみょん)
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