鬼
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「んふ、んふふふっ、んふふ」
目尻をこれでもかと下げた物凄くだらしない顔を、延々とこちらに向けてくるのは言わずもがなあの男。
私に対してデレデレしてくれるのは正直嬉しいのだが、1時間以上もこの調子だといい加減気持ち悪い。
「……ねえ…食べないの?」
「食べるよりも、今日のあかねちゃんの事をしっかり目に焼き付けておきたくて!今日も本当に可愛いね!!」
「またそればっかり…!」
「んふふ〜っ」と気持ちの悪い笑いを再開し、こちらをによによ見つめながら食べようとしない善逸。
私に対しての好意がダダ漏れだが、付き合っているわけではない。
彼のそれは他の女性に対しても同じであるから、本気にしてはいけない、というか相手にしてはいけないのだ。
しかし好意を向けられて嫌な気はしないし、むしろ本当は……。
ハッとし、そこから先は考えるのを止めた。
(だめだめ、本気にしない…。)
今日はお互いに任務がないからと、少し前に善逸から誘われて2人で出かける約束をしていた。
今はそのお昼ご飯なのだが、私はとうに食べ切ったものの善逸はまだ一口も食べていない。
もう冷めちゃったし、なんなら少しカピカピになってきているような。
「…食べないならもう出ようよ〜。」
ずっとこの調子の為周りの目が恥ずかしく、昼時で混み合っていることもあり、退店の催促をすると彼は慌ててかきこんだ。こちらを見つめたまま。ちょっと怖い。
────……
ご飯屋を出ると彼は行きたいところがあると私の右手を引きながら上機嫌に歩いていた。
握られた手の感触に少し戸惑う。任務の時はなよなよしてるくせに、彼の手は一丁前に私より一回り大きく骨ばっている。
そのギャップに心拍が上がるのを感じるが精一杯平常心を装う。
「ついた!」
「あ、ここ。」
そこはつい最近開店した雑貨屋だった。
気になっていたが中々時間が取れなくて来れずにいた。
「確かここに来たいって言ってたよね?俺があかねちゃんに似合う物買ってあげる!!さ、入ろ!!」
中に入るともうとにかく何もかもがキラキラして見えた。
簪に櫛に化粧品等、色々な物が並んでおり、これは何時間でも見ていられる自信がある。
しかし新規開店したばかりだからか、店内のお客さんも多く大混雑していた。
人の間を縫うように進み商品棚の一角を目指す。
どれも可愛くて片っ端から眺めていると
「あっ!これ似合うんじゃない?どうかな?絶対似合うと思う!…ほらぁ可愛いッ!!」
と善逸がさっそく私の髪にかざしてきた。
それは様々な黄色の花で装飾された髪留めだった。
傍にあった鏡を見ると。満更でもなく。
なんだか物凄くしっくりくる。我ながら似合っていると感じてしまった。
しかも一緒にいる彼を彷彿とさせる色味でもあり一瞬胸が高鳴った。
だが途端に恥ずかしくなり、目に入った別の物を差し出した。
「っ…こっちがの方がいいな!」
「え……えぇぇぇえええ!!!絶対これの方が似合うよ!!ていうか何?なんなのそれ!?本当にそれでいいの!?」
差し出したのは、なんだかよく分からない橙色のポンポンに丸い目が2つ付いた髪留めだった。
子供向けの物だろうか……。
別のを選ぶのもまた恥ずかしい為、「もうこれにする!」と会計に向かう。
「あ、ちょっと待ってよあかねちゃん!俺が買ってあげるって言ったでしょ!!!」
「わ、悪いからいいよ!自分で買えるし!」
「そうじゃないの!俺が買ってあげたいんだってばぁ!!」
そう言うと手に持っていた橙色のポンポンを奪ってそそくさと会計に行ってしまった。
誕生日でもないのに贈り物を貰うだなんてモヤモヤが残るが、せっかくだしありがたくお願いすることにする。
店内が混雑していた為邪魔にならないようにと出入口付近で待つことにした。
──……
「お待たせっ」
にっこにこ笑顔で「どーぞ!」と小包を渡され受け取る。
「ありがと、でも本当にいいの?後で何か奢ら」
「本当にいいんだってば!俺が買いたかったの!」
「えー、もー……本当にありがとね。」
「どーいたしまして!」
大混雑の雑貨屋で少々疲れた私達は落ち着いた雰囲気の広場のへ向かった。
散歩する人が数人行き交う程度で、ほとんど人がいない。
ベンチを見つけ並んで腰掛ける。
「すごい混んでたね。じっくり見れなかったんじゃない?」
「うん…人気が落ち着いてからまた見に行きたいかも。」
「え"っ!?それは次回のデートのお誘い!?あかねちゃんから!?やばいやばいやばいやばい嬉しすぎる…!!!行こうね!絶対だよ!?」
顔赤くして両手を頬に添えながら1人で盛りあがっている様子。
でも一緒に行けるならぜひ…、とか思ってみたり。
「あ、ねえ開けてもいい?」
「うん勿論!」
丁寧に包装された包みを開けると、先程の謎の橙色の生物(?)が顔を出した。
コロコロ転がして眺めているとなんだか可愛く思えてくる。
「ふ…ふふっ」
「?」
「見て、なんか善逸みたいっ」
キョトンとした善逸に目線の高さに持って来て見せた。
真ん丸な目が2つだけついたポンポンは色も相まって見れば見るほどそっくりに思えてくる。
「大事にするね」
「…あかねちゃんっ」
「?」
赤かった顔を更に真っ赤に染めた彼は、勢いよく体ごとこちらに向き直した。
「ほんとに結婚して!俺あかねちゃん無しの人生なんてもう考えられない!!お願いだようううう!!!!」
一息でそう言い切るとガバッと抱きつかれた。
いつものように告白をされときめいてしまうがそれと同時に胸がズキンと痛む。
彼は誰にでも言うのだ。
実際その場面を何度も見ているし(ことごとくフラれているが)。
ぎゅうっと抱きしめられてまた心拍が上がる。
本当はこのまま彼の背中に手を回してしまいたい。
でもこの男はきっと他の女性にも同じことをしているんだ。
付き合ったら絶対に後悔する。
出来ることならこんな奴、好きになりたくなかった。
ちゃんと誠実で一途な人を好きになりたかった。
そんな素敵な人と将来を共にすると、勝手に想像していた。
何も言えず頭の中でぐるぐると複雑な感情が混ざり合い、気付けばボロボロと涙が出ていた。
「無言ってことはOKって受け取っていいってこと……て、えぇぇええええあかねちゃん何で泣いてるのぉぉお!?ごごごめんね!?痛かった!?大丈夫!?ごめんねええええ!!!」
「ちが、くて…」
慌てふためく善逸に何でもない、と伝えたいのだが嗚咽が混じり上手く話せない。
「ご、ごめんね、ややややっぱり迷惑かな…迷惑だよね…」
何故善逸が泣きそうになっているのか。
ああでもこの男も、鬼が怖いっていつもギャンギャン泣いているから不思議ではないな。
私は自分を落ち着かせようとゆっくり深呼吸をしていると、善逸が袂をゴソゴソと漁り始めた。
「これ、」
先程の小包と色違いの物だ。
彼は少し乱暴にそれを開けると黄色い花の髪留めが出てきた。
「さっきの。絶対似合うと思って、どうしてもあげたかったんだ。」
慣れない手つきで私の髪に付ける。
「やっぱり似合うよ」と照れくさそうに笑う彼を見たら、またゆらゆらと視界が歪んできた。
やっと落ち着いてきたのに。
「すき……」
「…へ?」
「善逸がね…ずっと好き…っ」
顔を見ていられなくて下を向き、彼の着物をギュッと握り締めた。
もう自分の気持ちに抑えが効かなかった。
「あかねちゃ…」
「善逸は他にもいっぱい好きな子がいるから、好きになっちゃダメって。ずっとずっと言い聞かせてた。」
「それは…っ!」
「でももう無理みたい、大好き。」
硬直した善逸は最後の一言を聞いて、ハッと我に返ったように動き出した。
私の両肩を力強く掴む。
「ごめんっ!本当にごめん!」
「わかってるよ、他の子がいてもやっぱりあたしは」
「違う!俺は本当にあかねちゃんが好き!」
そんな風に言われたって信用出来ない…なんて考えて見れていなかった善逸の顔を見ると、いつになく真剣な顔だった。
「不安にさせてごめん。でも他の子なんて比べ物にならないくらい、あかねちゃんが好き。心から本当に好き。」
そう口にする善逸は眉を不安そうに下げ、声が少し震えていた。
「でも、告白してる所散々見てきたんだけど…」
「最近はしてない!たしかに、半年くらい前までは…その……」
驚いてじっくり思い返して見た。
そういえば最近は自分の視界に入る時、他の女性に声をかけているとこを見ていないかもしれない。
私がいない時はわからないが。
「本気なんだよ、今までの俺からすると信用してもらえないかもしれないけど…。今はあかねちゃんしか見えてない。これからも。」
「ぜ…いつっ…」
今まで押さえつけてきた気持ちが更に溢れ出し、ぎゅうっと力強く抱きつくと彼も応えるように痛いくらい抱きしめてくれた。
私はまた涙がボロボロとこぼれた。
彼の胸でひとしきり泣くと少しづつ落ち着いてきた、するとまたじわじわと恥ずかしさが戻ってくる。
「落ち着いた?」
「ん……うん…ありがと。」
優しく頭を撫でられる。慣れてないのだろうか、ちょっとだけぎこちないところにまた胸がきゅっと締め付けられる。
「善逸…あたしも好き、善逸が好き。」
いつもの気持ち悪い変な笑顔ではなく、ぱぁっと本当に嬉しそうな顔を見せてくれた。
「…お、俺と、結婚してください!」
「まずは彼女からでしょっ」
そう答えるとお互いに強く抱き合った。
大好きな彼に抱きしめられながら、結婚でも良かったかもなんて思ったり。
「えっへへへへへへ、もう離さないよあかねちゃん!!!!」
全力で抱き締められ頬ずりされる。
さっきまでの真剣な男は何処へ。
この態度が不安にさせるのを分かってないのか。
でも数分前とは打って変わって不安な気持ちがない。
「最初っから真剣に来てくれてたら、こんな不安にならずに済んだのに。」
「ごめんね。何度もちゃんとしなきゃって思ってたんだけど…どうしても緊張して恥ずかしくて…。」
ちょっとだけしょぼくれた彼がもう可愛くてたまらない。
「他の子見たら許さないからね。」
「見るわけないじゃん!!あかねちゃん一筋だよぉぉおお!」
もう何度目かの力強い抱擁。正直痛い。
その衝撃で何かがぽとりと落下した。
足元を見ると先程善逸が付けた黄色い花の髪留めだ。
慌てて拾い上げ、軽く払う。
「これ、宝物にする、大事にする!」
こんな素敵な日に貰ったプレゼント。
もはや付けるのも惜しいくらいだ。
「ありがと、善逸。」
貰った物に対してだけではない、自然と出た心の底からの感謝の言葉。
「…うん!俺も大事にするよ、あかねちゃんのこと…!」
お互いに照れながらも目を見合せると再度抱き締め合った。
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「んふ、んふふふっ、んふふ」
目尻をこれでもかと下げた物凄くだらしない顔を、延々とこちらに向けてくるのは言わずもがなあの男。
私に対してデレデレしてくれるのは正直嬉しいのだが、1時間以上もこの調子だといい加減気持ち悪い。
「……ねえ…食べないの?」
「食べるよりも、今日のあかねちゃんの事をしっかり目に焼き付けておきたくて!今日も本当に可愛いね!!」
「またそればっかり…!」
「んふふ〜っ」と気持ちの悪い笑いを再開し、こちらをによによ見つめながら食べようとしない善逸。
私に対しての好意がダダ漏れだが、付き合っているわけではない。
彼のそれは他の女性に対しても同じであるから、本気にしてはいけない、というか相手にしてはいけないのだ。
しかし好意を向けられて嫌な気はしないし、むしろ本当は……。
ハッとし、そこから先は考えるのを止めた。
(だめだめ、本気にしない…。)
今日はお互いに任務がないからと、少し前に善逸から誘われて2人で出かける約束をしていた。
今はそのお昼ご飯なのだが、私はとうに食べ切ったものの善逸はまだ一口も食べていない。
もう冷めちゃったし、なんなら少しカピカピになってきているような。
「…食べないならもう出ようよ〜。」
ずっとこの調子の為周りの目が恥ずかしく、昼時で混み合っていることもあり、退店の催促をすると彼は慌ててかきこんだ。こちらを見つめたまま。ちょっと怖い。
────……
ご飯屋を出ると彼は行きたいところがあると私の右手を引きながら上機嫌に歩いていた。
握られた手の感触に少し戸惑う。任務の時はなよなよしてるくせに、彼の手は一丁前に私より一回り大きく骨ばっている。
そのギャップに心拍が上がるのを感じるが精一杯平常心を装う。
「ついた!」
「あ、ここ。」
そこはつい最近開店した雑貨屋だった。
気になっていたが中々時間が取れなくて来れずにいた。
「確かここに来たいって言ってたよね?俺があかねちゃんに似合う物買ってあげる!!さ、入ろ!!」
中に入るともうとにかく何もかもがキラキラして見えた。
簪に櫛に化粧品等、色々な物が並んでおり、これは何時間でも見ていられる自信がある。
しかし新規開店したばかりだからか、店内のお客さんも多く大混雑していた。
人の間を縫うように進み商品棚の一角を目指す。
どれも可愛くて片っ端から眺めていると
「あっ!これ似合うんじゃない?どうかな?絶対似合うと思う!…ほらぁ可愛いッ!!」
と善逸がさっそく私の髪にかざしてきた。
それは様々な黄色の花で装飾された髪留めだった。
傍にあった鏡を見ると。満更でもなく。
なんだか物凄くしっくりくる。我ながら似合っていると感じてしまった。
しかも一緒にいる彼を彷彿とさせる色味でもあり一瞬胸が高鳴った。
だが途端に恥ずかしくなり、目に入った別の物を差し出した。
「っ…こっちがの方がいいな!」
「え……えぇぇぇえええ!!!絶対これの方が似合うよ!!ていうか何?なんなのそれ!?本当にそれでいいの!?」
差し出したのは、なんだかよく分からない橙色のポンポンに丸い目が2つ付いた髪留めだった。
子供向けの物だろうか……。
別のを選ぶのもまた恥ずかしい為、「もうこれにする!」と会計に向かう。
「あ、ちょっと待ってよあかねちゃん!俺が買ってあげるって言ったでしょ!!!」
「わ、悪いからいいよ!自分で買えるし!」
「そうじゃないの!俺が買ってあげたいんだってばぁ!!」
そう言うと手に持っていた橙色のポンポンを奪ってそそくさと会計に行ってしまった。
誕生日でもないのに贈り物を貰うだなんてモヤモヤが残るが、せっかくだしありがたくお願いすることにする。
店内が混雑していた為邪魔にならないようにと出入口付近で待つことにした。
──……
「お待たせっ」
にっこにこ笑顔で「どーぞ!」と小包を渡され受け取る。
「ありがと、でも本当にいいの?後で何か奢ら」
「本当にいいんだってば!俺が買いたかったの!」
「えー、もー……本当にありがとね。」
「どーいたしまして!」
大混雑の雑貨屋で少々疲れた私達は落ち着いた雰囲気の広場のへ向かった。
散歩する人が数人行き交う程度で、ほとんど人がいない。
ベンチを見つけ並んで腰掛ける。
「すごい混んでたね。じっくり見れなかったんじゃない?」
「うん…人気が落ち着いてからまた見に行きたいかも。」
「え"っ!?それは次回のデートのお誘い!?あかねちゃんから!?やばいやばいやばいやばい嬉しすぎる…!!!行こうね!絶対だよ!?」
顔赤くして両手を頬に添えながら1人で盛りあがっている様子。
でも一緒に行けるならぜひ…、とか思ってみたり。
「あ、ねえ開けてもいい?」
「うん勿論!」
丁寧に包装された包みを開けると、先程の謎の橙色の生物(?)が顔を出した。
コロコロ転がして眺めているとなんだか可愛く思えてくる。
「ふ…ふふっ」
「?」
「見て、なんか善逸みたいっ」
キョトンとした善逸に目線の高さに持って来て見せた。
真ん丸な目が2つだけついたポンポンは色も相まって見れば見るほどそっくりに思えてくる。
「大事にするね」
「…あかねちゃんっ」
「?」
赤かった顔を更に真っ赤に染めた彼は、勢いよく体ごとこちらに向き直した。
「ほんとに結婚して!俺あかねちゃん無しの人生なんてもう考えられない!!お願いだようううう!!!!」
一息でそう言い切るとガバッと抱きつかれた。
いつものように告白をされときめいてしまうがそれと同時に胸がズキンと痛む。
彼は誰にでも言うのだ。
実際その場面を何度も見ているし(ことごとくフラれているが)。
ぎゅうっと抱きしめられてまた心拍が上がる。
本当はこのまま彼の背中に手を回してしまいたい。
でもこの男はきっと他の女性にも同じことをしているんだ。
付き合ったら絶対に後悔する。
出来ることならこんな奴、好きになりたくなかった。
ちゃんと誠実で一途な人を好きになりたかった。
そんな素敵な人と将来を共にすると、勝手に想像していた。
何も言えず頭の中でぐるぐると複雑な感情が混ざり合い、気付けばボロボロと涙が出ていた。
「無言ってことはOKって受け取っていいってこと……て、えぇぇええええあかねちゃん何で泣いてるのぉぉお!?ごごごめんね!?痛かった!?大丈夫!?ごめんねええええ!!!」
「ちが、くて…」
慌てふためく善逸に何でもない、と伝えたいのだが嗚咽が混じり上手く話せない。
「ご、ごめんね、ややややっぱり迷惑かな…迷惑だよね…」
何故善逸が泣きそうになっているのか。
ああでもこの男も、鬼が怖いっていつもギャンギャン泣いているから不思議ではないな。
私は自分を落ち着かせようとゆっくり深呼吸をしていると、善逸が袂をゴソゴソと漁り始めた。
「これ、」
先程の小包と色違いの物だ。
彼は少し乱暴にそれを開けると黄色い花の髪留めが出てきた。
「さっきの。絶対似合うと思って、どうしてもあげたかったんだ。」
慣れない手つきで私の髪に付ける。
「やっぱり似合うよ」と照れくさそうに笑う彼を見たら、またゆらゆらと視界が歪んできた。
やっと落ち着いてきたのに。
「すき……」
「…へ?」
「善逸がね…ずっと好き…っ」
顔を見ていられなくて下を向き、彼の着物をギュッと握り締めた。
もう自分の気持ちに抑えが効かなかった。
「あかねちゃ…」
「善逸は他にもいっぱい好きな子がいるから、好きになっちゃダメって。ずっとずっと言い聞かせてた。」
「それは…っ!」
「でももう無理みたい、大好き。」
硬直した善逸は最後の一言を聞いて、ハッと我に返ったように動き出した。
私の両肩を力強く掴む。
「ごめんっ!本当にごめん!」
「わかってるよ、他の子がいてもやっぱりあたしは」
「違う!俺は本当にあかねちゃんが好き!」
そんな風に言われたって信用出来ない…なんて考えて見れていなかった善逸の顔を見ると、いつになく真剣な顔だった。
「不安にさせてごめん。でも他の子なんて比べ物にならないくらい、あかねちゃんが好き。心から本当に好き。」
そう口にする善逸は眉を不安そうに下げ、声が少し震えていた。
「でも、告白してる所散々見てきたんだけど…」
「最近はしてない!たしかに、半年くらい前までは…その……」
驚いてじっくり思い返して見た。
そういえば最近は自分の視界に入る時、他の女性に声をかけているとこを見ていないかもしれない。
私がいない時はわからないが。
「本気なんだよ、今までの俺からすると信用してもらえないかもしれないけど…。今はあかねちゃんしか見えてない。これからも。」
「ぜ…いつっ…」
今まで押さえつけてきた気持ちが更に溢れ出し、ぎゅうっと力強く抱きつくと彼も応えるように痛いくらい抱きしめてくれた。
私はまた涙がボロボロとこぼれた。
彼の胸でひとしきり泣くと少しづつ落ち着いてきた、するとまたじわじわと恥ずかしさが戻ってくる。
「落ち着いた?」
「ん……うん…ありがと。」
優しく頭を撫でられる。慣れてないのだろうか、ちょっとだけぎこちないところにまた胸がきゅっと締め付けられる。
「善逸…あたしも好き、善逸が好き。」
いつもの気持ち悪い変な笑顔ではなく、ぱぁっと本当に嬉しそうな顔を見せてくれた。
「…お、俺と、結婚してください!」
「まずは彼女からでしょっ」
そう答えるとお互いに強く抱き合った。
大好きな彼に抱きしめられながら、結婚でも良かったかもなんて思ったり。
「えっへへへへへへ、もう離さないよあかねちゃん!!!!」
全力で抱き締められ頬ずりされる。
さっきまでの真剣な男は何処へ。
この態度が不安にさせるのを分かってないのか。
でも数分前とは打って変わって不安な気持ちがない。
「最初っから真剣に来てくれてたら、こんな不安にならずに済んだのに。」
「ごめんね。何度もちゃんとしなきゃって思ってたんだけど…どうしても緊張して恥ずかしくて…。」
ちょっとだけしょぼくれた彼がもう可愛くてたまらない。
「他の子見たら許さないからね。」
「見るわけないじゃん!!あかねちゃん一筋だよぉぉおお!」
もう何度目かの力強い抱擁。正直痛い。
その衝撃で何かがぽとりと落下した。
足元を見ると先程善逸が付けた黄色い花の髪留めだ。
慌てて拾い上げ、軽く払う。
「これ、宝物にする、大事にする!」
こんな素敵な日に貰ったプレゼント。
もはや付けるのも惜しいくらいだ。
「ありがと、善逸。」
貰った物に対してだけではない、自然と出た心の底からの感謝の言葉。
「…うん!俺も大事にするよ、あかねちゃんのこと…!」
お互いに照れながらも目を見合せると再度抱き締め合った。
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