地獄
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「暗くなった空を大きな鳥が飛んでいて、そいつは夜な夜な子供を探しているの。そして子供を見つけるとどこかへ連れ去っていくんだって~!」
美樹ちゃんが顎の下から懐中電灯を当てて不気味な顔で言う。
「もしかして……本当にそいつなんじゃない?」
「だとしたら俺ら帰らないとまずいんじゃねーか?」
不安そうな顔で続けたのは郷子ちゃんと克也くん。そこに広くんも続く。
「でももうすぐ暗くなるぜ?明るいうちに帰るのはさすがにキビシーだろ」
「夕焼け綺麗だね」
「んな呑気なこと言ってる場合じゃないでしょーがあかね」
皆が少し怖がっているところ申し訳ないが、空は本当に綺麗に焼けていた。
だけどすかさず郷子ちゃんに突っ込まれた。
私たち5人は先生の言いつけを守らず遊んでいて、下校時刻を過ぎても帰らなかった。
実は今重大な事件がこの童守小学校で起きている。
何人もの生徒が行方不明になっているのだ。
その為授業は遅くとも5時間で終わるし、今は夜の塾や習い事等も許されておらず、暗くなる前に帰れと言われている。
前にも少し似たようなことがあったな。
怪人Aとかいう妖怪なのか人間なのか、結局わからずじまいだった謎の人物。
思い出したらさすがに怖くなった。
「な、なぁ…あれ……」
克也くんが窓の外を指差した。
先程より青みがかってきた夕焼け空にやけに大きい黒い鳥の影が1つ。
「か、カラスだよきっと」
「でもなんか大きくない?」
「ちょっと、やばいんじゃねえか……」
皆慌てて隠れようと、教室の電気を消して窓際の壁に背中をつけて座り込んだ。
心臓がバクバクして嫌な汗が滲む。
「どうしよう……ぬ~べ~に言わなきゃ」
「言わなきゃったって今動いて見つかったらどーすんのよ!」
「ってかぬ~べ~まだいんのかな?」
「えっ、ちょっと不安になること言わないでよ広!」
「お前ら声でかいっつーの!」
皆、恐怖で段々とパニックになってきていた。
「…わっ私!ぬ~べ~呼んでくる!!」
そう言って教室を飛び出し、全速力で職員室へ向かった。後ろから4人の驚きと引き止める声が聞こえたが、このままでは朝まであの場で過ごすことになる。
もう薄暗い校舎。廊下の電気はついていない。前も後ろも何かが居るんじゃないかと想像してしまう。本当は座り込みたくなるくらい怖い。足の力が今にも抜けそうだ。
でも校舎の中は暗いから、多分あの鳥はこっちに気付かないはず。だから今行くしかない。
何とか自分を叱咤して走り続けた。
階段を下りて左、職員室まで後少し。
駆け下りた勢いが強過ぎて足がもつれ盛大に滑った。そのまま横にゴロゴロと転がり、壁に全身を思い切り打ちつけた。
「っ…ぅう……」
痛みで立ち上がれず、うつ伏せのまま動けない。
早く、早くぬ~べ~に────
ガシャーーーーン──
ガラスが割れる音が足を向けている方から聞こえた。
まさか、と痛む体を何とか動かしながら振り返ると、天井に頭がぶつかりそうなほど大きな鳥が、羽を整えるようにバサバサと動かしながらこちらを見ていた。
「え、あ……」
痛みと恐怖で動けなくなってしまった私に容赦なく向かってくる。その鳥はあっという間に目の前までやって来た。
──ガッ
大きな足で体を掴まれると、また別の窓を割って外に飛び出して行く。
横腹に鋭い爪が食い込む。まるで猛禽類に捕まったネズミのようだ。遠くなって行く学校と、風を感じながら私は気を失った。
…………────
どのくらい経ったのか。目を開けるとそこはどこかの部屋のようで、窓はあるがドアがない。電気はついておらず薄暗い。
働かない頭で周りを見渡していると、10名程だろうか。小学生くらいの子供たちがいた。
布団に潜り込んでこそこそ談笑していたり、すやすや眠っている子もいる。
「どういうこと?」
「気が付いたんだね」
すぐ側の1人が話し掛けてきた。
「大丈夫、あの人優しいよ」
そう言った男の子の目には光がないように見えた。言い終えると満足そうに目を閉じた。どうやら眠ったらしい。
さっぱり意味がわからない。
頭が冴えてくるとまた恐怖が襲いかかってきた。早くぬ~べ~に……、でももうどうやって助けを求めればいいのやら。
窓の外を見てみる。正面上下左右見える範囲を見渡すが真っ暗。何もない真っ暗闇を見ていると不安になってくる。爪がくい込んでいた横腹が痛い。服をまくって見てみると、傷は無いものの赤黒く内出血していた。他にも体の至る所に痣があった。
急に心細くなりぶわっと涙が溢れた。あの時勝手に行動しなければよかった。そもそも先生の言う通り早く帰っていればよかった。
我慢できずわあぁぁんと声を上げて泣いた時、あの鳥が戻ってきて、驚き反射的に声を押し殺した。
足を見ると、私の時と同じように掴んで誰かを連れてきたようだ。
「皆ここに居たんだな。少し待っててくれ」
鳥は掴んでいた足を緩め部屋にそっと置くと、すぐまたどこかへ飛んで行った。その際の羽の音で、連れて来られた子が何か言っていたが、よく聞き取れなかった。
妙に落ち着いて周りを見渡している様子が不思議で、じっと見ていたらその子と目が合った。
暗くてよく見えなかったけど、男の子だ。こっちに近付いてくる。
「大丈夫?」
優しく声をかけられると、先程驚いて止まった涙がまた溢れてきた。
「怖かったね、もう大丈夫だよ」
「なにがもう大丈夫なの」
「俺が来たからね」
グズグズ泣いている私にその男の子はニッと笑って、頭をぽんぽんと撫でてくれた。
状況が理解しきれていない私は彼の言葉に安心して、助けてと言わんばかりにぎゅっとしがみついた。
「、…!…あーーえーと、名前なんて言うの?」
今あかねって言った?
さすがに気の所為だよね。この状況じゃ何が聞こえたっておかしくないか。
「先に名乗らなくちゃね、俺は陽神明」
「明くん……私倉科あかね」
陽神明くん、聞いたことない。年下ではなさそうだし6年生かな。
「あかねちゃん。ちょっと怖い思いするかもしれないけど、大丈夫だからしっかり捕まっててね」
「え?」
そう言うと明くんはしがみついていた私を優しく引き剥がしたかと思えば、「よっ」と背負って窓から勢いよく飛び出した。
「え…ちょ!?」
「大丈夫!俺を信じて!」
振り落とされないように必死で明くんにしがみついた。ジェットコースターで落ちる感覚がずっと続く。だんだん耐えられなくなり意識が遠のいていった。
………────
目を覚ましたらもうすっかり明るくて、視界には郷子ちゃん美樹ちゃん広くん克也くんがいた。
皆無事だったんだ、よかった。
そしてここは……保健室?
「あかねっ……!」
「良かった生ぎでだ~~っ!!」
「勝手に突っ走りやがって…!心配したんだぞ!」
「あかね大丈夫か!?変なところないか?」
「みんな…ありがとう、大丈夫だよ」
皆を泣かせてしまい心が痛いのと同時に、それだけ思ってくれてたんだと嬉しくもなった。
ゆっくりと体を起こして、私はキョロキョロと探す。
「明くんは?」
「晶?晶なら教室にいると思うけど」
「あっちがう、クラスのじゃなくて、陽神明くんって子」
「え!?陽神明!?」
「会ったの!?」と4人から驚かれた。その反応にこっちも驚く。
どうやら話を聞くと、皆以前会ったことがあるそう。壁の男の噂は聞いたことがあった。そいつに襲われた時同じように助けてくれたんだとか。
それでやっぱり6年生なんだ。
「でもおかしいのよ、名簿に載ってないの」
「そんなのどうでもいいじゃない!案外イケメンだったわよね!?アタシもまた陽神くんに会いた~い!」
この様子だと皆は明くんに会わなかったみたい。
私を助けてくれた後保健室に置いてそのまま帰っちゃったってこと?
昨日の怖い夢みたいな出来事、必死だったから何とも思わなかったけど、今まで同じ年頃の男の子に頭を撫でてもらったり、おんぶしてもらったりなんてしたことなかった。
今思い出すと恥ずかしさと同時に、すっごくドキドキしてる。
もう会えないのかな。
その時保健室のドアがガラッと開いた。
「やっぱりここにいたのか。そろそろ朝のチャイム鳴るから早く教室に戻れ~」
「げっぬ~べ~!」
「友達を心配してるんだからしょうがないじゃないの!」
「それは結構!だが今は時間を守らなくていい理由にはならんな」
「わかったよ、あかね!良くなったら戻って来いよ!」
つまらなそうに保健室を出ていく4人をぬ~べ~と私は見送った。
ドアが閉まるとぬ~べ~はこちらに向き直り、ベッド横の丸椅子に座った。
「どうだ体調は?」
「痣は痛いけど他はなんともないよ」
「そうか、昨日は怖い思いしただろうから、落ち着くまでゆっくり休むといい」
「なんで知ってるの?」
「へ!?」
ぬ~べ~に話したっけ?えーっと……
「……あーーーほら最近行方不明の生徒が多かっただろう?それを昨日突き止めてぬ~べ~先生が解決!」
「ぬ~べ~が?」
「えーーーと?……とある生徒が教えてくれて???」
「とある生徒って、明くん?」
「ギクッ、そ…そうだよく知ってるなあ!ははは…」
明くん、ぬ~べ~と面識があったんだ。
「あかねを連れてきてくれたあと、行方不明生徒が見つかりましたって教えてくれてな。それを聞いて俺が助けに行ったってところか」
「そうなんだ、ありがとぬ~べ~」
ぬ~べ~なら明くんのこと詳しいのかな。6年何組なんだろう。今度お礼を言いに行きたいな。
あの窓から飛び降りたあと怪我とかしてないのかな。
「ぬ~べ~、明くんって何組かわかる?」
「え!?」
「ど、どうしてもね、お礼が言いたいの。助けてくれたのに、私気失って言えてなくて……」
「それなら大丈夫だ、伝わってるはずさ」
頬を掻きながら少しだけ困ったような顔をしている。
なんだかはぐらかされてる?
このまま質問しても答えてくれなそうなので、また後で改めて聞いてみることにする。
「あ……そういえば、あの鳥はなんだったの?」
「ああ、あれは姑獲鳥。鳥の姿をしているが、人間の母親が妖怪化したものだ」
「母親?」
「自分のお腹にいた子を産むことができなかった母親の霊。その無念が強く子供を見つけると連れ去って、その子の母親の代わりになろうとするんだ」
「……なんだか可哀想だね」
「可哀想だが、他人の子供を攫ってまですることでは無いな」
「さて」とぬ~べ~は立ち上がると、私の頭をぽんぽんと撫でた。
「落ち着いたら教室に戻っておいで」
優しく笑いながらそう言い残し出て行った。
保健室には私1人残った。
自分の頭に手を乗せた。
撫でられた時の感触が妙に残っている。
郷子ちゃんがさっき言っていた言葉を思い出す。
── でもおかしいのよ、名簿に載ってないの ──
「明くんて、」
もうすぐにでも教室に戻れそうだと思ってたのに、落ち着くどころかドキドキしてうるさい。
私、気まずくて一生教室戻れないかもしれない。
ぬ~べ~にどんな顔して合えばいいの。
そして、私の初恋はもう実らないと悟った。
───
※少しだけ補足:ぬ~べ~では姑獲鳥の巣を探し出せず、自分が子供になることで囮になり居場所を特定、大人に戻り対処、というイメージです。
※またぬ~べ~は新旧アニメ・原作は5年3組の話しか読んでないので、姑獲鳥についてのお話が既にありましたら、申し訳ありませんが、別次元の話だと思って読んでください。
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