地獄
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俺の生徒達は関わりがないはずの倉科先生に懐いている。それは俺が彼女と恋人同士ということが1番の要因だと思うが。
俺がその場にいなくても、あかねと生徒らが話し込んでいる場面をちょくちょく見かける。
しかし、ここまで生徒達が寄って行くのは何故なのか気になっていた。贔屓目なしに見ても素敵な先生ではあるが、彼女の何がそんなに惹き付けるのか。
学校では同僚として。学校から出れば恋人として。他の人が知らない彼女を知っている。
子供の目線から見た彼女はどんな感じなんだろうか。
それは子供達にしかわからない。
……ほんのちょーーーっとの出来心。
にししと自覚できる程気持ち悪い顔をしながら、宿直室へ向かった。今日はちょうど宿直なのだ。
「陽神の術!」
───……
よしよし完璧。俺は今小学6年生くらいだ。
時刻はもう16時を過ぎている。残っている生徒も少ない。そろそろ先生達も帰ってしまう。急がなければ!
ひょこっと職員室を覗くと、帰る準備をしているあかねがいた。
他の先生はちょうど帰るところのようで、これはタイミングがいい。
「あれっ鵺野先生は?」
「そういえばさっきから見てませんね」
「まあいいか、倉科先生お先です!」
「あっはい!お疲れ様でした!」
よし、今あかね1人だ!
入ろうとした時ボソボソと声が聞こえた。どうやら独り言のようだ。
「どこ行っちゃったんだろ……ちょっとでいいから話してから帰りたかったのに〜……」
もしかしなくても俺の事だろう。……可愛い。
今すぐ飛び出して行きたい衝動に駆られるも、自分が今子供の姿をしていることを思い出して踏み止まった。仕切り直して声を掛ける。
「倉科せーんせ!」
「!!」
肩を揺らすほど驚いた後、こちらに振り返ると不思議そうな顔をしていた。
……あ、まずい。初対面じゃないかそういえば。
「……えっと…?」
「あ……ええええと……、俺6年の陽神明って言います!」
「あ、6年生か!えっと…どうかしたの?」
「え!?いや、その〜……用っていうか……」
特に何も考えず声をかけてしまった。
1人で話題を考えながらごにょごにょしていると、鞄を持ったあかねは席を立った。
「ほらほら、用がないならもう帰ろうね〜。下校時間過ぎてるよ〜」
優しく子供をあやす様な口調に、穏やかな笑顔。
何となくくすぐったくて、恥ずかしいような心地いいような。
背中を優しく押されながら職員室を一緒に出る。
横に並ぶ彼女を見る。
いつもなら身長差から俺が彼女を見下ろすのだが、今は目線は同じくらいだろうか、いや流石に彼女の方が大きいかもしれない。
あかねは広達と並んでも10cm程差があるかないかくらいだ。分かっているつもりではいたが随分小さいんだなと再認識。
「なに?先生の顔何か付いてる?」
「えっ!いや、そうじゃなくて!」
「??」
いつもと違う見え方のあかねに見入ってしまった。
慌てて無理やり話題を変える。
「先生は鵺野先生と付き合ってるんですよね?」
「へっ!?」
「隠さなくて大丈夫です!俺、鵺野先生と結構仲良いんで!」
目を丸くしながら顔を真っ赤にして此方を見る彼女は、目を泳がせたあと俯いてか細い声で「そうだよ」と答えた。
「ぬ、鵺野先生と仲良いんだ?明くんの話聞いたこと無かったな」
「わざわざ話すようなことでもないですから」
「そ……それもそっか」
モジモジしているあかね。
少しだけ意地悪したくなってきたな……。
「倉科先生は鵺野先生のどこが好きなんです?」
「ななななんでそんなこと聞くの!?」
第三者だから堂々と聞ける質問を投げかけた。
こんなの、"俺"が聞いたら絶対に答えてくれないだろう。
「普通に気になるじゃないですか!」
「子供は首突っ込まなくていーの!」
「え〜?俺だって恋多き6年生ですよ」
「明くんも好きな子いるの?」
「倉科先生が話してくれたら話します」
「意地悪だなあ〜……」
「鵺野先生には言わないでね」と口元に人差し指を当てながら困った表情で笑みを見せるあかね。
職員室前で立ち止まっていたままだった為、ゆっくり歩き始める。
「どこが好き…んー……いつの間にか好きになってたんだよね…」
「へー」
「私が赴任してきた初日に一目見てかっこいいなとは思ったんだけど」
「!」
「女の人にだらしなかったり、なんかいつも金欠だったり……男性として見たらなんだかなあって……」
「……(滝汗)」
問いかけておいた癖にいざ聞くと、恥ずかしさやら情けなさやらで何も返答ができないでいた。
それにもかかわらずあかねは続けてくれた。
「でもあの人、生徒のことになると全力でしょ?本当に自分の事なんて二の次で。死んじゃいそうなくらい大怪我しても平気な顔してるんだもん。…ほっとけないよね」
「……そう、なんだ」
彼女の表情は暗く、今にも泣きそうだった。
こんなに心配してくれていたのだと思うとキューっと胸が締め付けられた。愛おしくて切なくて今すぐ抱き締めたい衝動に駆られる。
「少しは自分の事も大事にしてよっていつも思う」
「すまない」
「…………ん?」
「あ!いえ……それ、鵺野先生にちゃんと伝わってると思います」
「そうかな?」
「お、俺が言っときます!!」
誤魔化すために元気よく返事をすると、あかねは間を置いてからくすりと笑い「お願いね」と言った。
「そうだ。鵺野先生、宿直室いるかな?」
「あ……!あーーーーー!いるかも俺見てきます!」
「おうち帰らなくていいの〜?」
「あ…あはははは!」
怪しさ満点だが大急ぎで宿直室へ先に向かった。あかねに見せる訳にはいかない!
中に入ると壁にもたれて座っている自分の体に入り込む。
少し遅れて足音が近づいてくると宿直室のドアをノックする音が。ガチャリとドアが開く。
「鵺野先生いますー?」
「いますよーあかねの愛しの鵺野先生が」
「何言ってんの」
真っ直ぐ俺に向かってきたあかねは抱き着いてきた。俺もきつく抱き返す。
もう校内には人が居ないのをいい事に思う存分。
「さっきね、明くんて子に会ったの」
「えっ!?あっ……あー明か!」
「仲良いんでしょ?」
「んーまあな」
「なんか、不思議な子だね」
「そうか?」
何とか誤魔化そうとするが、この見上げてくるあかねの顔。まさか。
「ちゃんと伝えてくれたかなー、明くん」
そう言って少し頬を赤らめた後、俺の胸に顔を埋める。
「死ぬつもりは無いさ、あかねの為にもな。けどあかねや生徒達を守る為なら俺は」
「死んだら怒るよ」
「うっ……はい」
素直に嬉しい。しかし大事な人を守る為ならこの命なんぞくれてやる、というのは本気なのだが。
でもあかねが居なくなったら……そんな事考えたくもない。
きっとあかねも同じ気持ちなんだと思うと、無闇矢鱈に特攻することは辞めようと誓った。
勿論大事な人を守ることは前提で。
「それにしても可愛い子だね、明くんて」
「そ、そうか?」
「そういえばこの部屋に入ってきたと思うんだけど、どこ行っちゃったんだろね」
「あ!?ぁぁぁあれ〜?窓から出て行ったかな〜なんて……!!」
「そっか…、明くんの好きな人のこと聞きたかったな〜」
腕の中にいるあかねは頬を赤らめたまま俺を見上げ、優しく子供に話しかけるような穏やかな笑顔。
「……もう分かってるんだろう?」
「んー?」
俺は観念してため息を一つ。
フフっと笑って誤魔化す彼女が愛らしくて強引にキスしてやった。
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