地獄
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実は、とある隠し事をしている。
鵺野先生と私は恋人同士であるということ。
付き合い始めたのは半年ほど前で、彼からの熱烈アピールで私が絆された。
職場では隠す必要も無いかもしれないが、如何せん恥ずかしいので内緒にして欲しいと彼に頼んだ。
特に鵺野先生のクラスの子はとにかくませてる子の多いこと。皆可愛くていい子達には変わりないのだが、付き合ってることがバレれば瞬く間におもちゃにされるだろう。正直それが一番怖い。恥ずか死ぬ。
私は1年生の担任の為、幸いにもあまり接点がない。
接点があるとすれば職員室くらいか。
今日私は校内の見回り担当だ。
まだ日は落ちてはいないが、空はもう夕焼けに染っている。他の先生達もちらほら帰り始めている。早めに行かないと。
職員室を出ようとした時、ちょうど鵺野先生が入ってきた。生徒達と一緒に。
……生徒達と一緒に?
「倉科先生、お疲れ様です!」
「鵺野先生お疲れ様です……って広くんと郷子ちゃんまだ帰ってなかったの?」
「最近理科準備室で変なことが起こるんです。妖怪の仕業かもしれないから、ぬ〜べ〜に見てくれって頼んでるんですけど…」
「気の所為だって見てくれないのよ」
「見ても霊気を感じないんだから、除霊も何もしようがないだろう」
困り顔の鵺野先生と、本当に怖がってそうな2人。
先生が何も感じないなら多分問題ないのだろうけど。でも、これから1人で見て回るって時に聞きたくなかった。
「とにかく、もう遅いんだからお前らは早く帰れ」
「ねえぬ〜べ〜!ちゃんともう一回見てよ!」
「頼むよ…!誰も居ないのにカタカタ音が鳴るんだって!みんな聞いてるんだぜ!?」
「さっきから言ってるだろう、何も霊気を感じないんだ」
どうしよう……。本当に怖い。
夕焼けだった空も日が沈んだのか、だいぶ暗くなってきた。もうこんなの1人で行ける気がしない。
「あ、あぁぁ、あの」
3人がこちらを振り向く。
「私、見回りなん、ですけど……ついて来てくれませんか……っ」
───……
各部屋の鍵を見て回る。
言葉だけ見たら簡単な作業だが、この大きな建物。しかも"学校"というだけで何だか怖い。そこに更に日没というオマケ付き。
結局3人に着いてきてもらって見回りをすることになった。ほんとにありがとう。
「ぬ〜べ〜ってば倉科先生がついてきてって言わなかったら、絶対に来なかったよね」
「そーそ、俺らが言っても面倒くさそーにするんだ。だから助かりました!ありがとう倉科先生!」
「私は何も……寧ろ怖かったから皆が来てくれてよかったよ〜…」
「大丈夫ですよ倉科先生。俺がついてますから!」
ニッコニコの彼をジト目で見る2人。
とりあえず、理科準備室の件も見て貰えるし結果オーライだったかな?
4人で見回りしているとかなりペースが早い。
そして、次は理科室。
さっき話していた理科準備室は、理科室の中にある小さな部屋だ。
理科室の戸を開ける手が少し震える。大丈夫鵺野先生いるし。
広くんと郷子ちゃんは私の背中にしがみついている。私より鵺野先生のがいいんじゃないかなと思いつつも、1人じゃない安心感が本当に心強い。
"音がする"という噂だからか、全員が自然と耳を澄ますように静まり返る。
とりあえず理科室内の窓の鍵や、ガスの元栓を確認。
大丈夫、ちゃんと閉まってる。
そして……問題の理科準備室へ。
「……っ…」
ドアノブに手をかけるも
「……ぬ、鵺野せんせぇ……」
「しょうがないなぁ〜、任せてください!」
恐怖で開けられず、我ながら情けない声を出してバトンタッチ。
鵺野先生はカッコつけてから得意げにドアノブに手を伸ばす。
ガチャリ、
ドアを開けて数歩入った時。
ガタガタガタッと物が動く音がした。
「「ぎゃああああああああ!!!!!」」
「ぎゃぁぁぁあぬーちゃぁぁん!!!!」
パチンっと軽い音が鳴ると同時に部屋が明るくなった。どうやら鵺野先生が電気をつけたようだ。
眩しさからうっすら目を開けると、広くんと郷子ちゃんは涙目で抱き合っていて(あら♡)、私はと言うと
「えーー……と、倉科…先生?」
「は……」
鵺野先生に抱きついていた。というよりしがみついていた。
自分の状況に理解ができず、数秒間固まってしまう。我に返り慌てて離れ……たかったのだが、腰に鵺野先生の腕ががっつり固定されていて動けなかった。
「あ、あの……ちょっと……」
広くんと郷子ちゃんは顔を赤くしながら少し距離を置いて離れていた。
そして拘束された私を見て郷子ちゃんがぽつりとこぼす。
「さっき"ぬーちゃん"って聞こえた気がするんですけど〜……」
「それ俺も聞いた」
「それってもしかして……」
にた〜〜〜と笑う2人が今の私にはどんな妖怪よりも怖かった。
キャー!とそれはもう楽しそうにはしゃぐ2人の様子を見て、私は泣きそうになる。
鵺野先生は離してくれないし。
「もう隠さなくても良くないか、あかね」
「〜〜〜……ッ!!!」
トドメを刺された。もう顔が上げられない。鵺野先生もといぬーちゃんの胸元へ顔を押し付ける。
この男今多分…いや絶対ニヤニヤしてる。
「ねえぬ〜べ〜達付き合ってるってこと!?」
「大ニュースだぜ!明日みんなに言いふらしてやろ〜!」
「ねえやだやだここだけの秘密にしてっ!」
言いふらされるのは勘弁だと必死に懇願するも、この2人にバレたらもうおしまいだ。
案の定私の話を聞く気もなく楽しそうにはしゃいでいる。
あーーー……終わった。明日からどんな顔して出勤すればいいの。
「でもやっとすっきりした!すっごく仲良さそうなのに、付き合ってないのが不思議だったの」
「俺は言いたくて言いたくてしょうがなかったんだけどな〜、あかねが恥ずかしいって言うから……」
「いつから付き合ってるの?」
「どっちから告白したんだよ〜?」
弾丸のような質問攻めが始まり、それに対し嬉しそうに答えている男。もうどうにでもなれ。
「ぬ〜べ〜のことぬーちゃんって呼んでんの?」
今まで答えてなかった私にニタニタと笑いながら質問してくる広くん。
「か、彼氏なんだからどう呼んでもいいでしょっ」
「2人の時だけ呼んでくれるんだよーん、可愛いでしょー?」
「やーーーん倉科先生可愛いっ!」
「ヒュ〜おアツいねぇ!」
もう比喩じゃなく本当に顔から火が出そう。
早く見回り終わらせて帰ろう。
ずっと拘束していた腕を払い除ける。大人気なくぷいっと3人から顔を背けて、鍵を確認するため窓に向かう。
ガタガタッ
「「「「!?!?!?」」」」
やいやい騒いでいた声が一瞬で鳴り止む。
窓とは逆の1番奥、部屋の隅だ。騒いでいて噂の部屋にいたことを忘れていた。
一気に緊迫した空気が流れる。
鵺野先生がカツカツと靴音を鳴らし音のした方へ向かう。
私と子供達はぎゅうっと抱き合い固まっていた。
「ふむ……相変わらず霊気は……。……はぁ、生徒達が言っていた音の正体はお前だな?」
「チュー」
か細い音が鳴るものを持って戻ってきた。
手元を見ると、ネズミ……。
「え……、妖怪の仕業じゃなかったのね……」
「これで分かったか?何でもかんでも妖怪の仕業にするんじゃないぞ。可哀想だろ」
「ごめんぬ〜べ〜……」
完全に霊的な物だと思っていた私達3人は少しバツが悪い。
鵺野先生は窓を開けてそのままネズミを逃がした。というか、素手でネズミ……。
窓の鍵を閉めると「ほら、見回り終わらすぞ」と部屋を出ていく鵺野先生。
理科室を出て残りの教室の確認を再開する。
「ところであかね、もうバレた事だし手繋いで見回りを」
「えやだ手洗ってきて!!!」
「アッ……ハッ…ハイ……」
大慌てで水道に向かう鵺野先生。
「お化けじゃなかったけど、解決して良かったね……?」
「うん、ありがと倉科先生」
「妖怪に慣れ過ぎてたみたいだな俺ら」
「あかね〜!洗ってきたよ〜!」と走ってきた鵺野先生は手を繋ごうとしてくるが、上手くかわして見回りを続けた。
見回りを終えて、もう時間も遅い為親御さんに謝罪をして子供達を家まで送り届けた。
「ぬーちゃん、今日はありがとう」
「んー??……えっ!」
2人きりになった為隣を歩く彼の手を握ると、目を丸くしてこちらを見る。
「さっきは手繋いでくれなかったのに……」
「生徒の前でなんて恥ずかしくて無理だよ」
「もうバレちゃったしいいじゃない」
そうだ、明日からとんでもないことになりそう。
そう考えると憂鬱だ。
「隠しておきたかったのに……」
「まさかあかねが人前でぬーちゃんだなんて…!」
嬉しそうにデレデレしてる彼が可愛くて釣られて笑ってしまった。
バレたのなら堂々と恋人面ができるのだ。ポジティブに捉えよう。
「これからはリツコ先生にデレデレしないでね」
「しない!する訳ない!してない!」
「してなくはないじゃん!」
「ごめんなさいっしませんっ!」
さっきまでニコニコだったのに半泣きで慌てている。
今まで許していた寛大な私を褒めて欲しい。
今度は私が家まで送ってもらい、玄関先でまた明日、とどちらからとも無く軽いキスをして別れた。
───翌日。
朝の出勤途中、5年3組の生徒達に囲まれたのは言うまでもない。
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