誕生日
夢女子主人公
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朝の校舎裏、グラウンドから戻ってくる汗のにおいと、まだ冷たい風。
タオルで髪を拭きながら歩いていたところに、突然背後から強く抱きしめられた。
「○○ちゃん! おっはよ〜!」
その声に、思わず肩が跳ねる。
朝練後のテンションなのか、背中越しに伝わる体温と息が近くて、心臓が変に跳ねた。
試合中に歌ったり踊ったりしてる彼だけど――校内でこんなことをするのは初めてだ。
驚きと恥ずかしさが混じって、思わず声を上げる。
「ずいぶんとご機嫌だけど、恥ずかしいからやめて!」
「えぇ〜ひっどいこと言うなぁ〜。眉間にシワ寄ってるけど、口元ニヤついてるよぉ〜。
嬉しいくせにぃ〜
そんなこと言わないでよ〜」
「ニヤついてなひぃぃーっ」
両頬を引っ張られて、情けない声が出る。
その顔を見て、彼は腹を抱えて笑っていた。
朝からこのテンション……いや、朝だから余計にきつい。
「今日はずっと楽しみにしてたからねぇ〜」
「何が?」
「何がって……とぼけてもダメだよぉ〜。
あぁ、サプライズの予定だった? ごめんねぇ、もう台無しにしちゃって〜。でも楽しみだなぁ〜♪」
頭の中に「?」がいくつも浮かぶ。
「知らないとか、そんなことないよね〜?」
さっきまでの陽気な声が、ふと低くなる。
耳元で囁かれた声が、肌をくすぐるように落ちてきた。
抱きしめられてるから顔は見えない。
けど、見えないぶんだけ、余計に怖い。
「俺の誕生日」
その一言で、時間が止まった。
何も考えてなかった脳が、一気にフル回転する。
「あの……」
「ん? なぁにぃ〜?」
「いえ……何も……」
「んじゃあ、昼休みの楽しみにしちゃっていいなかな〜?
あっ、そろそろ教室行かないとね。じゃ〜ねぇ〜」
手を振りながら、ご機嫌に走っていく背中。
残された自分はというと、完全に固まっていた。
……どうしよう。
どうやっても、あの"楽しみにしてた日"を忘れてた言い訳が、浮かばない。
昼休みのチャイムが鳴ると同時に、鞄を掴んで教室を飛び出した。
彼に見つからないよう、廊下の角を何度も曲がって――たどり着いたのは体育館の前。
この時間なら、誰も来ない。そう思って、ドアの前で息を整える。
けれど、ポケットを探って気づく。
――鍵が、ない。
どうしよう、と立ち尽くしていると、
突然「ガラガラ」とドアが開いた。
視界の向こうから伸びた手が、私の手首を掴む。
「○○ちゃん……待ってたよぉ〜」
「ひぃぃ!」
情けない悲鳴が出た。
次の瞬間、あっという間に体育館の中へ引きずり込まれる。
「ちょっと、その態度は酷いよぉ〜。誕プレを朝から待ってたのにぃ〜」
(もう、逃げられない……)
そのまま床に座り込み、思わず頭を下げる。
太ももに額を押しつける勢いで、声を震わせた。
「……ごめんなさい」
しばらくの沈黙。
彼が何も言わないから、怖くなって顔を上げると――彼は困ったように笑っていた。
けれど、その目の奥は少し寂しそうで。
「あっ、気にしないでよぉ。彼氏だからって、誕生日覚えてなかったとか、よくある事だもんね。
俺が勝手にはしゃいでただけだから〜」
言葉が早口で、軽く笑ってみせるその声が、かえって痛かった。
胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「……本当にごめんなさい。プレゼントは……少しだけ、待ってもらってもいい?」
「うん、大丈夫だよぉ〜」
そう言いながら、彼は体育館の中央に視線を向ける。
丸めた背中が小さく見えて、
"どれだけ楽しみにしてたんだろう"と思ったら、涙が出そうになった。
「今日一日、覚の意味わかんない悪戯にも怒んないから」
「いいの?」
「うん。誕生日だもんね」
そう答えると、彼の口角がゆるく上がる。
少しだけ笑って、でもその目はまだどこか寂しげで。
「ありがとぉ〜。誕生日って今日限定だもんねぇ。
悪戯しようが我儘言おうが、怒らないでぇ……全部、受け入れてよネ」
低く囁く声。
言い終えると、彼はそのまま顔を寄せてきた。
唇が触れる瞬間、空気が止まる。
広い体育館に、誰もいない。
静かすぎて、響いたのは二人の息と――キスの音だけ。
一瞬のくちづけなのに、頬が熱くて、
胸の奥が痛いほど、彼の気持ちが伝わってくる。
(ちゃんと、覚えておくから。今日のことも、あなたの笑顔も)
彼の肩にそっと額を寄せながら、
その温もりを確かめるように、静かに息を吐いた。
唇が離れた瞬間、息がうまく吸えなかった。
彼の腕の中で、ただその体温に溺れていく。
抱きしめられたまま、ふわりと身体が浮く。
驚いて身をよじると、彼は小さく笑った。
「そう抵抗されると重く感じるんだけど……太ったって言わせてたいの〜?」
「……言わせない」
小さく呟いて、観念したように腕を彼の首に回す。
その瞬間、彼は満足げに目を細めて、唇をもう一度軽く触れさせた。
そのまま抱き上げられ、行き先も告げずに歩き出す。
着いた先は、静かな部室。
ドアが閉まる音がやけに響く。
ベンチにそっと下ろされたかと思うと、次の瞬間には背中が冷たい感触に触れた。
「ねぇ……まさか、ここで――」
最後まで言い切る前に、彼の指が唇を塞いだ。
「黙ってよ。言うこと聞くって言ったの○○ちゃんでしょ。
それとも……撤回、すんの?」
いつもの柔らかい声とは違う。
低く、熱を帯びたその響きに、言葉が喉の奥で溶けていく。
彼の目には冗談めいた色が消えていて、
ただ真剣に、私を見つめていた。
そのまま、抵抗する気力も抜けて、目を閉じる。
彼の指先が頬をなぞる。
触れられるたびに、心臓が痛いほど鳴った。
(こんなふうに求められるのは、ずるいよ)
天童の我儘に、結局また勝てないまま――
静かな午後の部室に、二人の気配だけが溶けていった。
タオルで髪を拭きながら歩いていたところに、突然背後から強く抱きしめられた。
「○○ちゃん! おっはよ〜!」
その声に、思わず肩が跳ねる。
朝練後のテンションなのか、背中越しに伝わる体温と息が近くて、心臓が変に跳ねた。
試合中に歌ったり踊ったりしてる彼だけど――校内でこんなことをするのは初めてだ。
驚きと恥ずかしさが混じって、思わず声を上げる。
「ずいぶんとご機嫌だけど、恥ずかしいからやめて!」
「えぇ〜ひっどいこと言うなぁ〜。眉間にシワ寄ってるけど、口元ニヤついてるよぉ〜。
嬉しいくせにぃ〜
そんなこと言わないでよ〜」
「ニヤついてなひぃぃーっ」
両頬を引っ張られて、情けない声が出る。
その顔を見て、彼は腹を抱えて笑っていた。
朝からこのテンション……いや、朝だから余計にきつい。
「今日はずっと楽しみにしてたからねぇ〜」
「何が?」
「何がって……とぼけてもダメだよぉ〜。
あぁ、サプライズの予定だった? ごめんねぇ、もう台無しにしちゃって〜。でも楽しみだなぁ〜♪」
頭の中に「?」がいくつも浮かぶ。
「知らないとか、そんなことないよね〜?」
さっきまでの陽気な声が、ふと低くなる。
耳元で囁かれた声が、肌をくすぐるように落ちてきた。
抱きしめられてるから顔は見えない。
けど、見えないぶんだけ、余計に怖い。
「俺の誕生日」
その一言で、時間が止まった。
何も考えてなかった脳が、一気にフル回転する。
「あの……」
「ん? なぁにぃ〜?」
「いえ……何も……」
「んじゃあ、昼休みの楽しみにしちゃっていいなかな〜?
あっ、そろそろ教室行かないとね。じゃ〜ねぇ〜」
手を振りながら、ご機嫌に走っていく背中。
残された自分はというと、完全に固まっていた。
……どうしよう。
どうやっても、あの"楽しみにしてた日"を忘れてた言い訳が、浮かばない。
昼休みのチャイムが鳴ると同時に、鞄を掴んで教室を飛び出した。
彼に見つからないよう、廊下の角を何度も曲がって――たどり着いたのは体育館の前。
この時間なら、誰も来ない。そう思って、ドアの前で息を整える。
けれど、ポケットを探って気づく。
――鍵が、ない。
どうしよう、と立ち尽くしていると、
突然「ガラガラ」とドアが開いた。
視界の向こうから伸びた手が、私の手首を掴む。
「○○ちゃん……待ってたよぉ〜」
「ひぃぃ!」
情けない悲鳴が出た。
次の瞬間、あっという間に体育館の中へ引きずり込まれる。
「ちょっと、その態度は酷いよぉ〜。誕プレを朝から待ってたのにぃ〜」
(もう、逃げられない……)
そのまま床に座り込み、思わず頭を下げる。
太ももに額を押しつける勢いで、声を震わせた。
「……ごめんなさい」
しばらくの沈黙。
彼が何も言わないから、怖くなって顔を上げると――彼は困ったように笑っていた。
けれど、その目の奥は少し寂しそうで。
「あっ、気にしないでよぉ。彼氏だからって、誕生日覚えてなかったとか、よくある事だもんね。
俺が勝手にはしゃいでただけだから〜」
言葉が早口で、軽く笑ってみせるその声が、かえって痛かった。
胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「……本当にごめんなさい。プレゼントは……少しだけ、待ってもらってもいい?」
「うん、大丈夫だよぉ〜」
そう言いながら、彼は体育館の中央に視線を向ける。
丸めた背中が小さく見えて、
"どれだけ楽しみにしてたんだろう"と思ったら、涙が出そうになった。
「今日一日、覚の意味わかんない悪戯にも怒んないから」
「いいの?」
「うん。誕生日だもんね」
そう答えると、彼の口角がゆるく上がる。
少しだけ笑って、でもその目はまだどこか寂しげで。
「ありがとぉ〜。誕生日って今日限定だもんねぇ。
悪戯しようが我儘言おうが、怒らないでぇ……全部、受け入れてよネ」
低く囁く声。
言い終えると、彼はそのまま顔を寄せてきた。
唇が触れる瞬間、空気が止まる。
広い体育館に、誰もいない。
静かすぎて、響いたのは二人の息と――キスの音だけ。
一瞬のくちづけなのに、頬が熱くて、
胸の奥が痛いほど、彼の気持ちが伝わってくる。
(ちゃんと、覚えておくから。今日のことも、あなたの笑顔も)
彼の肩にそっと額を寄せながら、
その温もりを確かめるように、静かに息を吐いた。
唇が離れた瞬間、息がうまく吸えなかった。
彼の腕の中で、ただその体温に溺れていく。
抱きしめられたまま、ふわりと身体が浮く。
驚いて身をよじると、彼は小さく笑った。
「そう抵抗されると重く感じるんだけど……太ったって言わせてたいの〜?」
「……言わせない」
小さく呟いて、観念したように腕を彼の首に回す。
その瞬間、彼は満足げに目を細めて、唇をもう一度軽く触れさせた。
そのまま抱き上げられ、行き先も告げずに歩き出す。
着いた先は、静かな部室。
ドアが閉まる音がやけに響く。
ベンチにそっと下ろされたかと思うと、次の瞬間には背中が冷たい感触に触れた。
「ねぇ……まさか、ここで――」
最後まで言い切る前に、彼の指が唇を塞いだ。
「黙ってよ。言うこと聞くって言ったの○○ちゃんでしょ。
それとも……撤回、すんの?」
いつもの柔らかい声とは違う。
低く、熱を帯びたその響きに、言葉が喉の奥で溶けていく。
彼の目には冗談めいた色が消えていて、
ただ真剣に、私を見つめていた。
そのまま、抵抗する気力も抜けて、目を閉じる。
彼の指先が頬をなぞる。
触れられるたびに、心臓が痛いほど鳴った。
(こんなふうに求められるのは、ずるいよ)
天童の我儘に、結局また勝てないまま――
静かな午後の部室に、二人の気配だけが溶けていった。
