彼女の記憶喪失
夢女子主人公
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歯ブラシを新しく出して、
パジャマも引き出しから渡して。
君が洗面所に消えていく音がしても、
俺はリビングで、ひとりぼーっとしていた。
まるで、どこかから落ちた後、着地の仕方がわからないみたいだった。
パジャマ姿の彼女が、ベッドの横に立っていた。
俺は一足先に布団に入り、背を向けていた。
「……反対側、空いてるよ〜。シーツも綺麗にしてあるし」
彼女は黙ったまま、数秒。
そのあと、ふわりと布団の端がめくられて、静かに重みが加わる。
同じベッド、同じ空間、同じ温度。
でも、その"近さ"はまるで透明な壁のようで。
背中合わせになった俺たちは、
言葉を交わすでもなく、ただ静かに呼吸を整えていた。
こんなに近いのに。
手を伸ばせば、すぐ触れられる距離なのに。
「……久しぶり、ですね」
彼女がぽつりとそう呟いた。
声が、小さく震えていた気がした。
「うん、俺は嬉しいよ〜」
本心。だけど、そのトーンはやっぱり軽くしておいた。
期待を匂わせたくないから。押しつけたくないから。
ほんとは、"帰ってきてくれてありがとう"って抱きしめたかったのに。
数分の沈黙が落ちて、
やがて彼女の寝息が、ほんのわずかに聞こえるようになってきた。
寝てるかどうかは、わからない。
でも、眠れてないような気もした。
俺も、眠れそうにない。
仰向けになって天井を見上げる。
視界は暗くて、でも頭の中はやけにうるさかった。
"好きだ"って、
今言ったら、どうなるんだろう。
思い出してなくてもいい。
また一緒にいるだけでいい。
……でも、やっぱり俺は──
「……好きだよ、○○ちゃん」
息を吐くみたいに、
ほんとに小さく、耳に届くかもわからない声で、そう囁いた。
聞こえてても、聞こえてなくてもいい。
ただ、"今ここにいる君"に伝えたかっただけ。
君の背中が、少しだけ動いた気がしたけど、
それは寝返りだったのか、それとも──わからない。
俺は目を閉じて、
誰にも聞かれない"願いごと"みたいな言葉を、もう一度だけ心の中で繰り返した。
帰ってこなくてもいいから、
せめて、君の心のどこかに俺がいられたら、それだけで。
─────────────
暗がりの中、背中越しに感じたわずかな動き。
君が寝返りを打つ音に混じって、何かが布を掴む感触が伝わってきた。
──俺の、Tシャツの裾。
寝息は静かに続いてる。
でも、手の感触だけは確かだった。
ちいさな指先が、俺の服を握ってる。
それはまるで、ここに"つながり"を求めてるみたいに見えて。
……思わず、息を止めてしまった。
「……」
ほんとは、目を閉じてたけど、ぜんぜん眠れてなかった。
君が隣にいるのに、ただ背を向けられたまま、"知らない人"として寝ることなんてできなかった。
だけど──
その手の温度ひとつで、
俺の中のなにかが、ふわりと揺らいだ。
思い出してなくても、
無意識でも、
君の中に俺が、ほんの少しだけ残ってる気がした。
それが幻でも、錯覚でも、
俺はたぶん──救われてしまった。
朝。
柔らかい光がカーテンの隙間から差し込んで、部屋を照らしていた。
目を開けると、君はまだ眠っていた。
俺の服を、まだ握ったままで。
……可愛いな、って思った。
それと同時に、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
こんなふうに、
何も知らずに、俺にすがってくるような君を見てしまうと──
俺の中の"欲"が、ちゃんと目を覚ましてしまう。
そっと起き上がって、キッチンに向かう。
足音は立てないように。
でも、思考の中では、何度も君を振り返っていた。
「……○○ちゃん」
声に出すには、あまりに私的な気持ち。
君が覚えてなくても、
今は何も感じてなくても──
君が君であるかぎり、
俺はずっと、君のことを欲し続ける。
愛してる。
だけど、それだけじゃ足りない。
笑ってほしい。
思い出してほしい。
戻ってきてほしい。
手を離さないでほしい。
そして──離れないでほしい。
それは"やさしさ"じゃない。
ただの、俺の一方的な執着だ。
でもね。
もう一度、手を伸ばしてくれたのは──君のほうからだったんだよ。
それだけで、
俺は今日、どこまでも優しくできる。
朝食の準備を始めながら、
俺は背中越しに、君が目を覚ます音を待っていた。
やわらかく微笑んだ顔の奥で、
決して手放さないと静かに誓いながら。
〈終〉
パジャマも引き出しから渡して。
君が洗面所に消えていく音がしても、
俺はリビングで、ひとりぼーっとしていた。
まるで、どこかから落ちた後、着地の仕方がわからないみたいだった。
パジャマ姿の彼女が、ベッドの横に立っていた。
俺は一足先に布団に入り、背を向けていた。
「……反対側、空いてるよ〜。シーツも綺麗にしてあるし」
彼女は黙ったまま、数秒。
そのあと、ふわりと布団の端がめくられて、静かに重みが加わる。
同じベッド、同じ空間、同じ温度。
でも、その"近さ"はまるで透明な壁のようで。
背中合わせになった俺たちは、
言葉を交わすでもなく、ただ静かに呼吸を整えていた。
こんなに近いのに。
手を伸ばせば、すぐ触れられる距離なのに。
「……久しぶり、ですね」
彼女がぽつりとそう呟いた。
声が、小さく震えていた気がした。
「うん、俺は嬉しいよ〜」
本心。だけど、そのトーンはやっぱり軽くしておいた。
期待を匂わせたくないから。押しつけたくないから。
ほんとは、"帰ってきてくれてありがとう"って抱きしめたかったのに。
数分の沈黙が落ちて、
やがて彼女の寝息が、ほんのわずかに聞こえるようになってきた。
寝てるかどうかは、わからない。
でも、眠れてないような気もした。
俺も、眠れそうにない。
仰向けになって天井を見上げる。
視界は暗くて、でも頭の中はやけにうるさかった。
"好きだ"って、
今言ったら、どうなるんだろう。
思い出してなくてもいい。
また一緒にいるだけでいい。
……でも、やっぱり俺は──
「……好きだよ、○○ちゃん」
息を吐くみたいに、
ほんとに小さく、耳に届くかもわからない声で、そう囁いた。
聞こえてても、聞こえてなくてもいい。
ただ、"今ここにいる君"に伝えたかっただけ。
君の背中が、少しだけ動いた気がしたけど、
それは寝返りだったのか、それとも──わからない。
俺は目を閉じて、
誰にも聞かれない"願いごと"みたいな言葉を、もう一度だけ心の中で繰り返した。
帰ってこなくてもいいから、
せめて、君の心のどこかに俺がいられたら、それだけで。
─────────────
暗がりの中、背中越しに感じたわずかな動き。
君が寝返りを打つ音に混じって、何かが布を掴む感触が伝わってきた。
──俺の、Tシャツの裾。
寝息は静かに続いてる。
でも、手の感触だけは確かだった。
ちいさな指先が、俺の服を握ってる。
それはまるで、ここに"つながり"を求めてるみたいに見えて。
……思わず、息を止めてしまった。
「……」
ほんとは、目を閉じてたけど、ぜんぜん眠れてなかった。
君が隣にいるのに、ただ背を向けられたまま、"知らない人"として寝ることなんてできなかった。
だけど──
その手の温度ひとつで、
俺の中のなにかが、ふわりと揺らいだ。
思い出してなくても、
無意識でも、
君の中に俺が、ほんの少しだけ残ってる気がした。
それが幻でも、錯覚でも、
俺はたぶん──救われてしまった。
朝。
柔らかい光がカーテンの隙間から差し込んで、部屋を照らしていた。
目を開けると、君はまだ眠っていた。
俺の服を、まだ握ったままで。
……可愛いな、って思った。
それと同時に、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
こんなふうに、
何も知らずに、俺にすがってくるような君を見てしまうと──
俺の中の"欲"が、ちゃんと目を覚ましてしまう。
そっと起き上がって、キッチンに向かう。
足音は立てないように。
でも、思考の中では、何度も君を振り返っていた。
「……○○ちゃん」
声に出すには、あまりに私的な気持ち。
君が覚えてなくても、
今は何も感じてなくても──
君が君であるかぎり、
俺はずっと、君のことを欲し続ける。
愛してる。
だけど、それだけじゃ足りない。
笑ってほしい。
思い出してほしい。
戻ってきてほしい。
手を離さないでほしい。
そして──離れないでほしい。
それは"やさしさ"じゃない。
ただの、俺の一方的な執着だ。
でもね。
もう一度、手を伸ばしてくれたのは──君のほうからだったんだよ。
それだけで、
俺は今日、どこまでも優しくできる。
朝食の準備を始めながら、
俺は背中越しに、君が目を覚ます音を待っていた。
やわらかく微笑んだ顔の奥で、
決して手放さないと静かに誓いながら。
〈終〉
