彼女の記憶喪失
夢女子主人公
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ベッドのシーツを洗濯機に放り込みながら、
「別に、そんな気合い入れることでもないよね〜」なんて、ひとり事を言う。
でも、手は止まらない。
枕カバーも変えて、リネンに好きだった柔軟剤を使って。
冷蔵庫の中の賞味期限も全部チェックして、○○ちゃんの苦手だったセロリも処分した。
何やってんだろ、俺。
「ただの一時帰宅、だし。泊まるわけでもないしね〜」
口に出して笑ってみる。
けど、その声はちっとも明るくなかった。
彼女の歯ブラシ、買い直した。
使ってた色も、種類も覚えてるのに、なぜか新品にした。
だって──
同じものを用意してしまったら、それは"思い出してほしい"って押しつけになる気がしたから。
忘れててもいいって言ったのに。
何を今さら、って自分でも思う。
でも、それでも──
「○○ちゃんが、ここに戻ってくるんだよ?」
それだけで、
部屋の空気が少しだけ、呼吸しやすくなった気がした。
彼女がよく座ってたソファ。
彼女がよく開けてた窓。
彼女がよく立ってたキッチン。
全部、ちょっとだけ磨いてみた。
いつもより時間をかけて、何度も確認しながら。
「……ただいま、って言うかなぁ」
そんな期待、するなって思ってるのに。
声に出さずに口の中だけで繰り返す。
ただいま。おかえり。おつかれ。ごはんにする?お風呂入る?
どれも、思い出してくれなきゃ意味がないのに。
テーブルの上に、小さな花瓶を置いた。
花屋の前を通りかかったとき、目についたリューココリーネ。
昔、彼女が「名前言えるようになった」って笑ってた花。
思い出すかな。
いや、思い出せないよね。
でも、綺麗って思ってくれたら、それだけで──
「うわ、俺、なに勝手に淡い期待とかしてんの」
情けないな。
そんなこと思ってる自分が、一番信じられない。
昼過ぎには来るらしい。
"家"って言っても、彼女にとっては見知らぬ場所。
俺にとってだけ、"帰ってきた"って思える場所。
でもさ──
それでも俺、うれしいって思っちゃうんだよ。
「……○○ちゃんが、ここに来る」
その事実だけで、
今日という日が、特別な気がした。
玄関の鍵が少し開いた音に、反射的に立ち上がる。
ああ、来た。
どうしよう。何言えばいい?
「おかえり」とか言ったら、また困らせるだけ?
……わかってるよ。
でも、俺は、君が戻ってきてくれるだけで、今日は──
ほんのすこし、生き返るんだ。
部屋のドアが、静かに開いた。
久しぶりに見る○○ちゃんの姿は、
どこか遠慮がちで、落ち着かなくて──だけど、ちゃんと"いつもの君"だった。
「……着替え、取りに来ただけなので」
開口一番、そう告げた声は冷たくはないのに、近づけない温度だった。
「そっか〜……でも、おかえり、って言いたいな〜俺は」
冗談みたいに笑ってみたけど、
彼女はそれには返事をしなかった。
クローゼットを開けて、黙って数枚の服をたたんでバッグにしまうその背中に、
俺は「もうちょっとだけ、ここにいて」なんて言えなかった。
「ココアとか、飲んでく?」
そう聞いた俺に、彼女は少しだけ迷った顔をして──
「いえ、大丈夫です。すぐ戻らないといけなくて」
それだけ言って、彼女は玄関に向かって歩いていった。
そして、扉の前で一度だけ振り返った。
「……ありがとうございました」
まるで、お世話になった誰かへの挨拶みたいな言い方だった。
ドアが閉まる音だけが残って、
そのあとにやってきた静けさは、なんかもう、"無"だった。
「別に、そんな気合い入れることでもないよね〜」なんて、ひとり事を言う。
でも、手は止まらない。
枕カバーも変えて、リネンに好きだった柔軟剤を使って。
冷蔵庫の中の賞味期限も全部チェックして、○○ちゃんの苦手だったセロリも処分した。
何やってんだろ、俺。
「ただの一時帰宅、だし。泊まるわけでもないしね〜」
口に出して笑ってみる。
けど、その声はちっとも明るくなかった。
彼女の歯ブラシ、買い直した。
使ってた色も、種類も覚えてるのに、なぜか新品にした。
だって──
同じものを用意してしまったら、それは"思い出してほしい"って押しつけになる気がしたから。
忘れててもいいって言ったのに。
何を今さら、って自分でも思う。
でも、それでも──
「○○ちゃんが、ここに戻ってくるんだよ?」
それだけで、
部屋の空気が少しだけ、呼吸しやすくなった気がした。
彼女がよく座ってたソファ。
彼女がよく開けてた窓。
彼女がよく立ってたキッチン。
全部、ちょっとだけ磨いてみた。
いつもより時間をかけて、何度も確認しながら。
「……ただいま、って言うかなぁ」
そんな期待、するなって思ってるのに。
声に出さずに口の中だけで繰り返す。
ただいま。おかえり。おつかれ。ごはんにする?お風呂入る?
どれも、思い出してくれなきゃ意味がないのに。
テーブルの上に、小さな花瓶を置いた。
花屋の前を通りかかったとき、目についたリューココリーネ。
昔、彼女が「名前言えるようになった」って笑ってた花。
思い出すかな。
いや、思い出せないよね。
でも、綺麗って思ってくれたら、それだけで──
「うわ、俺、なに勝手に淡い期待とかしてんの」
情けないな。
そんなこと思ってる自分が、一番信じられない。
昼過ぎには来るらしい。
"家"って言っても、彼女にとっては見知らぬ場所。
俺にとってだけ、"帰ってきた"って思える場所。
でもさ──
それでも俺、うれしいって思っちゃうんだよ。
「……○○ちゃんが、ここに来る」
その事実だけで、
今日という日が、特別な気がした。
玄関の鍵が少し開いた音に、反射的に立ち上がる。
ああ、来た。
どうしよう。何言えばいい?
「おかえり」とか言ったら、また困らせるだけ?
……わかってるよ。
でも、俺は、君が戻ってきてくれるだけで、今日は──
ほんのすこし、生き返るんだ。
部屋のドアが、静かに開いた。
久しぶりに見る○○ちゃんの姿は、
どこか遠慮がちで、落ち着かなくて──だけど、ちゃんと"いつもの君"だった。
「……着替え、取りに来ただけなので」
開口一番、そう告げた声は冷たくはないのに、近づけない温度だった。
「そっか〜……でも、おかえり、って言いたいな〜俺は」
冗談みたいに笑ってみたけど、
彼女はそれには返事をしなかった。
クローゼットを開けて、黙って数枚の服をたたんでバッグにしまうその背中に、
俺は「もうちょっとだけ、ここにいて」なんて言えなかった。
「ココアとか、飲んでく?」
そう聞いた俺に、彼女は少しだけ迷った顔をして──
「いえ、大丈夫です。すぐ戻らないといけなくて」
それだけ言って、彼女は玄関に向かって歩いていった。
そして、扉の前で一度だけ振り返った。
「……ありがとうございました」
まるで、お世話になった誰かへの挨拶みたいな言い方だった。
ドアが閉まる音だけが残って、
そのあとにやってきた静けさは、なんかもう、"無"だった。
