アラームが鳴る前に目が覚めた。
いつもならあと五分、と布団に潜り直すのに、
今朝は不思議と体が軽くて、そのまま起き上がった。

カーテンの隙間から差し込む光が柔らかくて、
春が来たんだな、と思う。
時間に余裕があったから、今日はバスを使わず歩いて学校へ向かうことにした。

駅を抜けて少し歩くと、風に乗って桜が舞っていた。
普段ならただの通学路。
けれど、ひらひらと落ちていく花びらがやけにきれいに見えて、
一人で歩く朝も悪くないな、と思った。

学校まであと少しのところで、ランニング帰りの牛島くんとすれ違う。
軽く会釈を返すと、その後を追うように男子バレー部のメンバーが通り過ぎていった。
彼らの息づかいと、靴底が地面を打つ音がすぐ遠くなっていく。

少し遅れて、背後から聞き慣れた声がした。

「今日は歩き〜？！　早いネ！」

振り返るより先に、頭をぽん、と叩かれる。
覚が少し息を切らしながら笑っていた。
頬がほんのり赤いのは、走ったせいか、朝の冷たさのせいか。

「牛島君はもっと早くに通り過ぎたよ」
「ジャパンメンバーには敵わないョ〜」

そう言いながら、おどけたように両手を広げる。
けれど、さっきより少し強めに、また頭を叩かれた。
なんとなく、照れ隠しみたいで、少し笑ってしまう。

「明日も同じ時間なら、また朝でも会えるネ〜」
「え？」
「明日も待ってるョ〜〜！」

笑いながら走り去っていく覚の背中が、
桜の花びらの向こうで霞んで見えた。

その姿が見えなくなっても、頬のあたりにまだ風の名残が残っている。
"慌ただしいな"って思いながらも、
明日も同じ時間に歩いてみようかな、と思っていた。

春の朝は、少しだけ特別に感じた。