銀魂 土方
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浴衣の裾を踏まないように足元を気にしながら、友達と並んで歩いた夏祭りの帰り道。
喧騒の残る商店街はまだ熱気が抜けきらず、すれ違う人たちの視線が気になる。
「ねえ、あの子かわいくない?」 「声かけてみようぜ」
そんな声が耳に届くたびに、私は無意識に友達の前に出て、「友達の私ががいますし、これから帰るところなので」と小さく防御線を張った。
それでも、祭りのあとって空気がゆるむのか、どこか軽い声がやたら飛んでくる。
おっとりしてる友達が「もうちょっと飲みたいな〜」なんて言えば、その一言すら周りの男たちの耳に届いてしまって、私はまた視線でけん制する羽目になる。
睨んで、距離を取って、それでもまた声をかけられそうになった時──
「ちょっと。治安維持の者だ。どいたどいた」
鋭く通った声に、胸の奥で張っていた糸が少し緩んだ。
彼は面倒そうに目元をしかめながら、男たちを散らし、私たちの前に立った。
友達とは彼女の家の前で別れた。
「ありがとうね〜、楽しかった!」とにこにこ笑う友達を見送って、ようやく一息つけると思った帰り道。
なのに、後ろから一定の距離で足音がついてくる。 浴衣の裾を揺らしながら振り返ると、さっきの男がいた。
「……何してるんですか?」
「見りゃわかんだろ。一人は危ねぇ」
「私は一人のほうが声かけられませんから」
「はぁ……」
彼は深々とため息をついた。
「どうでもいいから家まで送る」
ぶっきらぼうな言い方にむっとしつつも、それ以上言い返すのも面倒で、私は歩調を速めて彼を追い越した。
だけど、混んだ通りを避けて路地裏に入ったのが間違いだった。
「……おい、可愛いな」
「遊んでかねぇ?」
暗がりから出てきた数人の男たち。
浴衣姿の私を舐めるように見て、口元だけ笑っている。
咄嗟に反対方向を向いたけど、腕が伸びてきた。逃げようとしたのに、足がすくんで動けない。
恐怖で身体が縮こまり、しゃがみ込んだ私の耳に、鈍い音が響く。
何発も、乾いた音。誰かが倒れる音。息が乱れる音。
──でも私は顔を上げられない。怖くて。
そして、その音がやんだ後。
「だから言っただろ」
静かな声と共に、手が伸びてくる。
力強くも丁寧に掴まれた腕を辿って顔を上げると、そこにいたのはやっぱり彼だった。
「……っ」
言葉が出ない。
震える唇が会釈の形をつくるしかなかった。
「家まで送る。今度こそ」
彼はぶっきらぼうに、けれど強く言った。
私は何も言えないまま、ただ頷いた。
道すがら、口だけが勝手に動いた。
「……すみません、大丈夫なんです、本当に。私なんか守られるような存在じゃ……可愛くもないし、だから誰も──」
自分でも何を言ってるのかわからない。
ただ、口が止まらなかった。
彼は黙って隣を歩いていた。
無言のまま、でもその歩幅は私に合わせられていて、静かな夜の中で、その沈黙が逆に心に沁みた。
やがて、家の前まで来た。
「ここです。……もう大丈夫です」
そう言った私に、彼は低く、でも真っ直ぐな声で言った。
「友達が大事なのはわかる。でも、お前自身もちゃんと大事にしろ」
「私は別に──」
言いかけた言葉を、彼の声が遮った。
「お前のほうがよっぽど危なっかしい。……守られる気持ちがわからないなら、俺が教えてやる」
その顔を見ると、目を逸らされた。
ほんの少しだけ赤くなった耳が、街灯に照らされていた。
そして彼は背を向ける。
「何かあったら、俺の名前を言え。直接でも間接的にでも、守ってやるから」
その背中が夜に溶けていくまで、私は何も言えなかった。 ただ、胸の中で何かがじんと熱くなっていた。
──真夏の夜の、鼓動の余韻だけが、残っていた。
喧騒の残る商店街はまだ熱気が抜けきらず、すれ違う人たちの視線が気になる。
「ねえ、あの子かわいくない?」 「声かけてみようぜ」
そんな声が耳に届くたびに、私は無意識に友達の前に出て、「友達の私ががいますし、これから帰るところなので」と小さく防御線を張った。
それでも、祭りのあとって空気がゆるむのか、どこか軽い声がやたら飛んでくる。
おっとりしてる友達が「もうちょっと飲みたいな〜」なんて言えば、その一言すら周りの男たちの耳に届いてしまって、私はまた視線でけん制する羽目になる。
睨んで、距離を取って、それでもまた声をかけられそうになった時──
「ちょっと。治安維持の者だ。どいたどいた」
鋭く通った声に、胸の奥で張っていた糸が少し緩んだ。
彼は面倒そうに目元をしかめながら、男たちを散らし、私たちの前に立った。
友達とは彼女の家の前で別れた。
「ありがとうね〜、楽しかった!」とにこにこ笑う友達を見送って、ようやく一息つけると思った帰り道。
なのに、後ろから一定の距離で足音がついてくる。 浴衣の裾を揺らしながら振り返ると、さっきの男がいた。
「……何してるんですか?」
「見りゃわかんだろ。一人は危ねぇ」
「私は一人のほうが声かけられませんから」
「はぁ……」
彼は深々とため息をついた。
「どうでもいいから家まで送る」
ぶっきらぼうな言い方にむっとしつつも、それ以上言い返すのも面倒で、私は歩調を速めて彼を追い越した。
だけど、混んだ通りを避けて路地裏に入ったのが間違いだった。
「……おい、可愛いな」
「遊んでかねぇ?」
暗がりから出てきた数人の男たち。
浴衣姿の私を舐めるように見て、口元だけ笑っている。
咄嗟に反対方向を向いたけど、腕が伸びてきた。逃げようとしたのに、足がすくんで動けない。
恐怖で身体が縮こまり、しゃがみ込んだ私の耳に、鈍い音が響く。
何発も、乾いた音。誰かが倒れる音。息が乱れる音。
──でも私は顔を上げられない。怖くて。
そして、その音がやんだ後。
「だから言っただろ」
静かな声と共に、手が伸びてくる。
力強くも丁寧に掴まれた腕を辿って顔を上げると、そこにいたのはやっぱり彼だった。
「……っ」
言葉が出ない。
震える唇が会釈の形をつくるしかなかった。
「家まで送る。今度こそ」
彼はぶっきらぼうに、けれど強く言った。
私は何も言えないまま、ただ頷いた。
道すがら、口だけが勝手に動いた。
「……すみません、大丈夫なんです、本当に。私なんか守られるような存在じゃ……可愛くもないし、だから誰も──」
自分でも何を言ってるのかわからない。
ただ、口が止まらなかった。
彼は黙って隣を歩いていた。
無言のまま、でもその歩幅は私に合わせられていて、静かな夜の中で、その沈黙が逆に心に沁みた。
やがて、家の前まで来た。
「ここです。……もう大丈夫です」
そう言った私に、彼は低く、でも真っ直ぐな声で言った。
「友達が大事なのはわかる。でも、お前自身もちゃんと大事にしろ」
「私は別に──」
言いかけた言葉を、彼の声が遮った。
「お前のほうがよっぽど危なっかしい。……守られる気持ちがわからないなら、俺が教えてやる」
その顔を見ると、目を逸らされた。
ほんの少しだけ赤くなった耳が、街灯に照らされていた。
そして彼は背を向ける。
「何かあったら、俺の名前を言え。直接でも間接的にでも、守ってやるから」
その背中が夜に溶けていくまで、私は何も言えなかった。 ただ、胸の中で何かがじんと熱くなっていた。
──真夏の夜の、鼓動の余韻だけが、残っていた。