鬼滅 義勇さん
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「逃げろ! 逃げて!」
耳を裂くような叫び声。
母に手を引かれ、わけもわからず必死に走った。
前を行く父は、弟を抱えてこちらを振り返りもせず駆ける。
そのとき、何かが弾けるように顔にかかり、熱く、重く、視界が赤に染まった。
瞬きをする間もなく、横で溺れるような音がして──その夜、家族は誰一人として生き残らなかった。
天涯孤独となり、ただ生きるために村に身を置いた。女でありながら狩猟を続け、幼なじみの少年より力が強いと笑われた。
誰に嫁ぐのかと囁かれる声は、耳に届いても心には入らない。
──家族を奪った鬼を、倒す。
それだけを胸に剣を握り、鬼殺隊の最終選別に挑んだ。生き残ったが、才はないと告げられ、勧められたのは「隠」という裏方の役目だった。
雑務に追われる日々。
それでも憧れは消えなかった。
自分にはない力を持つ隊士たちに焦がれ、同時に嫉妬もした。 ある日、任務で柱の戦闘を目にした。人間の域を超えた力と技。
到底届かないと悟った瞬間に、心は定まった──自分は彼らを支える役目を果たそう。
数度、同じ現場で顔を合わせたのが水柱・冨岡義勇だった。
彼は周囲に声をかけることもなく、淡々と鬼を斬る。
だからこそ、こちらも余計な気遣いをせず、粛々と任務を進められた。 けれど戦いが終わり、無惨にも散った命の亡骸を埋葬していたとき、気づいた。
遠目がきく自分には見えた。少し離れた場所で、彼は黙って目を閉じ、手を合わせていたことを。
その姿が胸に残った。
だから、ある時勇気を出して彼に近づいた。
「──技を、教えていただけませんか」
隠である自分が柱に願い出るなど分不相応。
わかっていた。
それでも、もしもの時に守れる力が欲しかった。
彼は一瞬黙り込み、そして短く答えた。
「……逃げろ」
それが彼の教えだった。隠は戦うためでなく、被害を減らすために存在するのだと。
けれど食い下がる。
「隠は、住民を守る役目です。けれど……ほんの少しでも時間を稼げれば、誰かの命が助かるかもしれない」
沈黙ののち、彼は静かに刀を抜いた。
「……構えろ」
呼吸が詰まる。
刀を構え、恐る恐る彼に向き合う。
次の瞬間、鋭い気迫と共に刃が迫った。
反射的に受け止めると、全身に衝撃が走った。
「これで押さえられるのは一瞬だ。……あとは、自分で考えろ」
言葉は冷たく響いたが、その奥にあったのは突き放しではなかった。
短い時間でも、立ち向かうための機会をくれたのだ。
胸の奥が熱くなる。震える声で告げた。
「……一瞬でも、ありがたいです」
そのときだった。
微かに、風に消えそうなほどの声で、彼が呟いた。
「……俺が……もっと……」
聞き取れなかった続きを追う前に、彼は刀を納め、背を向けた。
その背は大きく、けれどどこか孤独を背負っていた。
ただ補佐として在るだけの自分。
けれど、あの人の隣に立ちたい。
そう強く願う心が芽生えていた。
母に手を引かれ、わけもわからず必死に走った。
前を行く父は、弟を抱えてこちらを振り返りもせず駆ける。
そのとき、何かが弾けるように顔にかかり、熱く、重く、視界が赤に染まった。
瞬きをする間もなく、横で溺れるような音がして──その夜、家族は誰一人として生き残らなかった。
天涯孤独となり、ただ生きるために村に身を置いた。女でありながら狩猟を続け、幼なじみの少年より力が強いと笑われた。
誰に嫁ぐのかと囁かれる声は、耳に届いても心には入らない。
──家族を奪った鬼を、倒す。
それだけを胸に剣を握り、鬼殺隊の最終選別に挑んだ。生き残ったが、才はないと告げられ、勧められたのは「隠」という裏方の役目だった。
雑務に追われる日々。
それでも憧れは消えなかった。
自分にはない力を持つ隊士たちに焦がれ、同時に嫉妬もした。 ある日、任務で柱の戦闘を目にした。人間の域を超えた力と技。
到底届かないと悟った瞬間に、心は定まった──自分は彼らを支える役目を果たそう。
数度、同じ現場で顔を合わせたのが水柱・冨岡義勇だった。
彼は周囲に声をかけることもなく、淡々と鬼を斬る。
だからこそ、こちらも余計な気遣いをせず、粛々と任務を進められた。 けれど戦いが終わり、無惨にも散った命の亡骸を埋葬していたとき、気づいた。
遠目がきく自分には見えた。少し離れた場所で、彼は黙って目を閉じ、手を合わせていたことを。
その姿が胸に残った。
だから、ある時勇気を出して彼に近づいた。
「──技を、教えていただけませんか」
隠である自分が柱に願い出るなど分不相応。
わかっていた。
それでも、もしもの時に守れる力が欲しかった。
彼は一瞬黙り込み、そして短く答えた。
「……逃げろ」
それが彼の教えだった。隠は戦うためでなく、被害を減らすために存在するのだと。
けれど食い下がる。
「隠は、住民を守る役目です。けれど……ほんの少しでも時間を稼げれば、誰かの命が助かるかもしれない」
沈黙ののち、彼は静かに刀を抜いた。
「……構えろ」
呼吸が詰まる。
刀を構え、恐る恐る彼に向き合う。
次の瞬間、鋭い気迫と共に刃が迫った。
反射的に受け止めると、全身に衝撃が走った。
「これで押さえられるのは一瞬だ。……あとは、自分で考えろ」
言葉は冷たく響いたが、その奥にあったのは突き放しではなかった。
短い時間でも、立ち向かうための機会をくれたのだ。
胸の奥が熱くなる。震える声で告げた。
「……一瞬でも、ありがたいです」
そのときだった。
微かに、風に消えそうなほどの声で、彼が呟いた。
「……俺が……もっと……」
聞き取れなかった続きを追う前に、彼は刀を納め、背を向けた。
その背は大きく、けれどどこか孤独を背負っていた。
ただ補佐として在るだけの自分。
けれど、あの人の隣に立ちたい。
そう強く願う心が芽生えていた。