走る走る走る
御伽草子の中でしか知らなかった鬼。
それが迫ってくる。
怖い　殺される
髪に触れ頭を掴まれた時祈りより先に涙と恐怖に身をこわばらせた。
熱い熱風にも似た風を感じ後ろを振り返るとはためく白の炎の様な羽織をきた彼がいた。


豪快に笑う彼に思わず釣られ笑いをする。
もう大丈夫だと優しく声をかけられて勇姿の彼に感謝の言葉をいう。

それから月に一度彼の姿をみた。　
その度、彼は里では笑顔で笑うが
私の家の夕餉の時はにこやかに微笑むだけ。
彼は高らかに大声で言葉を発し笑う事が周りを勇気付けるとわかっている。
そう思うと彼を支えたくなった。　
泣ける場所はあるのかと。


ある日彼にそっという。
もし立場違いとはわかりますが情けをかけてはくれかないのかと。
彼はそういう人はいない。　
今の自分では家庭をつくるのは少し難しいと。築いたとしても家には帰ってこれないと。

支えたいと彼の言うと、
私の気持ちは気づいていた。　
嬉しいが今は任務があるからという。


それでも、たまに里で会った夕餉の際に料理を振る舞う。　
なんでもうまいと言うけれどさつまいもの料理を出した日はうまいと言う前に噛み締めた笑みがあったから本当に好きだと思った。　

助けて守らった里の娘として差し出されるのではと期待もしていたが、同衾はしていない。
でも彼が他の人より自分を気に掛ける所があり、いつかは彼とという思いがある。

任務は生死があるとは思いつつこの里にまた来ることが嬉しいと
次の任務の話を横で聞きながら彼の手の甲に触れるとそっと触れ手を掴まれながら話を聞く。


この人がこの里に来てくれる限り、私は今日も料理を作って待ち続ける。




それだけでいい。
ほんの少しでも、彼の横に歩けるなら。