鬼滅 童磨
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人は、顔で値踏みされる。
艶やかな黒髪。伏せた睫。陶器のような肌に、大きな痣が一つ。
彼女はその痣を隠すこともなく、ただ黙って佇んでいた。
「この子は……ねえ、本当に困ったものなのですよ。顔にこんなものがあっては、婿も取れませんし……」
父の言葉に母が頷く。
「可哀想でしょう?」と、娘を哀れむ口調。
だが、彼女はそれを哀しみと受け取るほど無垢ではなかった。
商いのために汚い金を掴ませ、裏で人を泣かせてきたのは、誰だ。
"醜い"のは、私の顔ではなく、あなたたちの心なのに。
それを口にすれば、たちまち"親不孝者"と罵られる。 だから、何も言えない。何も、言わなかった。
──そして、万世極楽教。 美しいと評判の教祖に会わせてもらえるというだけで、両親ははしゃいでいた。
広い座敷の奥、光の差す中に、彼はいた。
すらりとした体躯でうっすらと微笑んだその顔は、絵から抜け出したように整っていて、思わず視線が釘付けになった。
「こんにちは〜。ようこそ、ようこそ。うれしいなぁ、可愛いお嬢さんとお会いできるなんて」
──あ、空っぽだ。
そう思った。どこまでも明るくて、どこまでも冷たい声音だった。 意味もなく発せられる「優しい言葉」の数々。それに満面の笑みを浮かべる両親。 薄気味悪い光景が、なぜか胸の奥に残った。
なのに、また会いたいと思った。
──────
「ねぇ、どうしたいの〜?」
二度目に会ったとき、両親の姿はもうなかった。広間には彼と、彼女だけ。 童磨はふわりと笑って、首を傾げた。
「……全部、なくなればいいのにって、思ってるんでしょ?」
息を呑んだ。
誰にも言ったことのない心の奥底。 それなのに、まるで知っていたかのように、彼は言った。
彼女はゆっくり、言葉を絞り出す。
「……うん、そう。全部、消えればいい。私も、全部」
その瞬間、童磨の目が、ほんのわずかに細まった。
「うん、わかったよ〜。ぜんぶ、なくしちゃおっか」
その言葉は、祝福のようだった。
─────
翌日、両親は死んだ。
店は叔父のものになり、彼女は「厄介者」と呼ばれた。 食事は減り、叱責だけが増えていった。
顔に痣がある。
声を出すな。
そこに立つな。
女に学はいらん。
何もできない。
何も、言えない。
そこから食事も女中よりも減らされ続け、夜中、とうとう飢えに負けて台所を漁っていたとき、笑い声が聞こえた。
──あの声だった。
おそるおそる居間を覗いた先。
そこにいたのは、まるで夢の中から抜け出したような、あの"美しいひと"。
足元には、叔父夫婦が血に染まって倒れていた。
「どうしたの〜?そんな顔して。お腹、すいてたの?」
童磨は笑いながら近づいてきた。白い指が伸びる。
なのに不思議と、怖くなかった。
「……顔に、痣があるの」 そう呟くと、彼は首を傾げた。
「ふぅん?だから〜?」
その問いに、彼女は唇を震わせながら続けた。
「だから……誰からも、ちゃんと見てもらえないの。 好きだとか、大事だとか、言ってもらえない。 私はずっと……そういうふうに、"いらないもの"として扱われてきたの」
言葉を重ねるほど、胸の奥がきしむように痛んだ。
けれど、童磨の表情はまるで変わらない。
ただ優しく、まるで彼女の痛みすら肯定するように微笑んでいた。
「うんうん、そっか〜……えらかったねぇ、よくがんばったねぇ」
そう言って、童磨は彼女の頬に手を添える。
「でももう大丈夫だよ。僕が、君のこと、ぜんぶ赦してあげるね」
その言葉に、涙が出そうになるのを堪えながら、彼女はそっと目を閉じた。
─────
その夜、町の小さな商家が一つ、静かに消えた。
艶やかな黒髪。伏せた睫。陶器のような肌に、大きな痣が一つ。
彼女はその痣を隠すこともなく、ただ黙って佇んでいた。
「この子は……ねえ、本当に困ったものなのですよ。顔にこんなものがあっては、婿も取れませんし……」
父の言葉に母が頷く。
「可哀想でしょう?」と、娘を哀れむ口調。
だが、彼女はそれを哀しみと受け取るほど無垢ではなかった。
商いのために汚い金を掴ませ、裏で人を泣かせてきたのは、誰だ。
"醜い"のは、私の顔ではなく、あなたたちの心なのに。
それを口にすれば、たちまち"親不孝者"と罵られる。 だから、何も言えない。何も、言わなかった。
──そして、万世極楽教。 美しいと評判の教祖に会わせてもらえるというだけで、両親ははしゃいでいた。
広い座敷の奥、光の差す中に、彼はいた。
すらりとした体躯でうっすらと微笑んだその顔は、絵から抜け出したように整っていて、思わず視線が釘付けになった。
「こんにちは〜。ようこそ、ようこそ。うれしいなぁ、可愛いお嬢さんとお会いできるなんて」
──あ、空っぽだ。
そう思った。どこまでも明るくて、どこまでも冷たい声音だった。 意味もなく発せられる「優しい言葉」の数々。それに満面の笑みを浮かべる両親。 薄気味悪い光景が、なぜか胸の奥に残った。
なのに、また会いたいと思った。
──────
「ねぇ、どうしたいの〜?」
二度目に会ったとき、両親の姿はもうなかった。広間には彼と、彼女だけ。 童磨はふわりと笑って、首を傾げた。
「……全部、なくなればいいのにって、思ってるんでしょ?」
息を呑んだ。
誰にも言ったことのない心の奥底。 それなのに、まるで知っていたかのように、彼は言った。
彼女はゆっくり、言葉を絞り出す。
「……うん、そう。全部、消えればいい。私も、全部」
その瞬間、童磨の目が、ほんのわずかに細まった。
「うん、わかったよ〜。ぜんぶ、なくしちゃおっか」
その言葉は、祝福のようだった。
─────
翌日、両親は死んだ。
店は叔父のものになり、彼女は「厄介者」と呼ばれた。 食事は減り、叱責だけが増えていった。
顔に痣がある。
声を出すな。
そこに立つな。
女に学はいらん。
何もできない。
何も、言えない。
そこから食事も女中よりも減らされ続け、夜中、とうとう飢えに負けて台所を漁っていたとき、笑い声が聞こえた。
──あの声だった。
おそるおそる居間を覗いた先。
そこにいたのは、まるで夢の中から抜け出したような、あの"美しいひと"。
足元には、叔父夫婦が血に染まって倒れていた。
「どうしたの〜?そんな顔して。お腹、すいてたの?」
童磨は笑いながら近づいてきた。白い指が伸びる。
なのに不思議と、怖くなかった。
「……顔に、痣があるの」 そう呟くと、彼は首を傾げた。
「ふぅん?だから〜?」
その問いに、彼女は唇を震わせながら続けた。
「だから……誰からも、ちゃんと見てもらえないの。 好きだとか、大事だとか、言ってもらえない。 私はずっと……そういうふうに、"いらないもの"として扱われてきたの」
言葉を重ねるほど、胸の奥がきしむように痛んだ。
けれど、童磨の表情はまるで変わらない。
ただ優しく、まるで彼女の痛みすら肯定するように微笑んでいた。
「うんうん、そっか〜……えらかったねぇ、よくがんばったねぇ」
そう言って、童磨は彼女の頬に手を添える。
「でももう大丈夫だよ。僕が、君のこと、ぜんぶ赦してあげるね」
その言葉に、涙が出そうになるのを堪えながら、彼女はそっと目を閉じた。
─────
その夜、町の小さな商家が一つ、静かに消えた。
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