心理テスト いたずら(烏野、白鳥沢)
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第一棟と第二棟の間の踊り場。
期末テスト上位者の名前が張り出される場所。
生徒数が多いこの学校は、三十位までが掲示される。
切磋琢磨させたい学校側の意図なんだろう。
その紙を、少しだけ顎を上げて見つめる。
また今回も、私の上にいる。
白布賢二郎。
自分の名前はぎりぎり三十位以内。
入っているだけマシ……なんて思えない。
中学の頃は、家で勉強なんてしなくても困らなかった。
部活もしていたし、塾にも通っていない。
『どうやって勉強してるの?』
そう聞かれても、本当に何もしていなかったからそのまま答えた。
そしたら『嫌味かー』なんて言われて。
意味がわからなかった。
勉強なんて、頑張るのは暗記くらいでしょ。
本気でそう思って、この学校に入った。
──甘かった。
上には上がいる。
ここに来て、初めて思い知らされた。
今ならわかる。
あの時の『どうやって勉強してるの?』の意味が。
中学では東北大会には届かなかったけれど、県内で十六位だったテニス。
好きだった。
でもこの強豪校では、下から数えたほうが早い実力だった。
球拾いばかりで、ラケットに触れる時間もない。
惨めで、夏になる前に辞めた。
だからせめて、勉強だけは。
そう思ってしがみついているのに、三十位に入れればいい方。
そしてその上には、
部活でレギュラーとしてコートに立ちながら、私より上にいる彼がいる。
悔しい。
「苗字。今回のテスト難しかったな。」
振り向けば、同じクラスの白布。
その言葉が嫌味にしか聞こえなくて、
「そうだね」としか返せなかった。
悔しい。
地頭が違うのか。
今回はちゃんと頑張った。
それでも負けた。
悔しいなんて、言わない。
そんなことを口にするのは、なけなしのプライドが許さない。
次は負けない。
でも、どうすればいい?
弟妹がいるのに私立に来た私が、塾に通いたいなんて言えない。
だから。
昼休みは、ご飯をさっと食べて図書室へ行くことにした。
自分にできることをやるしかない。
同じことを考えている人が多いのか、図書室は思ったより人がいた。
その中に、白布の姿を見つける。
(昼休みいないと思ったら、ここにいたんだ)
静かにノートに向かう横顔。
迷いなくペンを動かしている。
席が空いていなくて、彼の隣に座る。
一瞬だけ視線が合う。
けれどすぐにノートへ落とされた。
地頭が違う、なんて思っていた。
でも違う。
ちゃんと、やっている。
その事実に、少しだけ胸がちくりとした。
それから何度か、昼休みに顔を合わせた。
示し合わせたわけじゃないのに、
いつの間にか白布が席を取ってくれていることが増えた。
特別な会話はない。
でも隣に座るのが、自然になっていった。
ある日。
授業でわからなかった問題を前に、手が止まる。
公式は覚えている。
なのに、何を当てはめればいいのかわからない。
頭がぐしゃぐしゃになる。
どこから手をつければいいのか、糸口が見えない。
そのとき。
すっと、隣から手が伸びた。
問題文の一文に、線が引かれる。
一瞬、意味がわからなかった。
けれど──はっとする。
前提を読み違えていた。
そこに気づいた途端、答えはするりと出てきた。
「ありがとう」
「……ん」
それだけ。
でもその日から、わからないところを彼に聞くことが増えた。
気を張っていたのに、気づけば頼っている。
でも一方通行じゃない。
「ここ、どう思う?」
と彼のほうから聞かれることもある。
そのたびに、少しだけ自尊心がくすぐられた。
そして、いつもの昼休み。
並んでノートを開く。
「○○。ここわかる?」
さらっと、名前で呼ばれた。
……え?
今までずっと苗字だったのに。
顔を上げる。
白布はいつも通りの表情。
特別なことを言った自覚なんてない顔。
図書室だから声を落として、ノートに式を書き込む。
「ん。わかった」
それだけ。
簡単なやり取りのはずなのに、どこか落ち着かない。
ふと彼を見ると、耳が赤い。
?
無意識に、指先が伸びる。
赤くなった耳に触れた瞬間、
彼の肩がぴくっと揺れた。
みるみるうちに、顔まで赤くなる。
「……嫌だったのかよ」
「何が?」
「名前呼び」
「嫌じゃないけど。耳赤いから……」
少し睨まれる。
けれどその視線は、どこか弱い。
「……じゃあ、これから○○って呼ぶから」
宣言みたいに言われて、
「うん」って答えた。
それだけのこと。
なのに、胸の奥がじわっと熱くなる。
悔しさで始まったはずなのに。
いつの間にか、
隣にいる時間が、当たり前になっていた。
※※※※※※※
(白布視点)
中学の時に見た試合。
牛島さんは圧倒的だった。
正直、オープントスだけで勝てるんじゃないかと思った。
セッターの工夫も駆け引きも、必要ないくらいに。
それでも。
そんな人に、俺はトスを上げたいと思った。
必要とされなくてもいい。
選択肢の一つでいいから、あの人にボールを届けたい。
推薦なんて無理だとわかっていた。
だから一般で入るしかなかった。
白鳥沢は進学校だ。
部活後も勉強したいと親に言ったら、家庭教師をつけてくれた。
何とか入学できた。
でも入ってみれば、当たり前だけど、俺よりバレーが上手い奴らが推薦で寮生活。
家から通う俺より練習量だって多い。
足りない。
圧倒的に。
その練習が出来ない悔しさを勉強時間に回した。
二年に上がって、瀬見さんからレギュラーを奪った頃。
「なんでそんなに勉強頑張るんだよ」
部のやつらのその言葉が、妙に引っかかった。
牛島さんのプレーに合っているから選ばれているだけ。
セッターとしての技術が突出しているわけじゃない。
自分が一番わかっている。
だからこそ、もどかしい。
足りない部分を埋めるみたいに、勉強をした。
将来のためと言い聞かせながら。
本当は悔しさの行き場だった。
昼休みは図書室にいるのが当たり前になっていた。
成績が上がるたびに、自分の悔しさが数値化されているみたいで、少し嫌だった。
そんな中、クラスメートの苗字が隣に座った。
最初は気にしていなかった。
でも二年に上がってから、図書室でよく見かけるようになった。
そういえば一年の頃の苗字は、肌が焼けていて、よく笑っていた。
今は違う。
眉間に皺を寄せて、難しい顔でノートを睨んでいる。
『頭がいいやつも悩むんだな。』
それくらいの、適当な感想だった。
何度も顔を合わせるうちに、
気づけば席を取るようになっていた。
理由はない。
ただ、苗字が来るだろうと思って。
話はしない。
でも勝手に、同士みたいな感覚があった。
テニス部だと言っていた。
今はもうやっていないらしい。
両立がきつかったのか、なんて聞けない。
辞めた事実があるなら、そこには触れない方がいい。
そこまで無神経じゃない。
でも、折れそうな気持ちはわかる。
だから親近感が生まれた。
夏服の袖から伸びる白い手が、教科書をめくる。
前より白い。
眉間に皺を寄せて、悔しそうな顔。
──たぶん、問題の読み違い。
彼女のプライドを傷つけない程度に、
問題文の一文に線を引く。
はっとした顔。
すぐにペンが走る。
こんな少しのヒントで理解できるのは、普通にすごいと思った。
だから自分の勉強をしながら、
自然と苗字を見る時間が増えた。
俺がわからないところを聞くと、
驚いた顔をしながらもちゃんと答えてくれる。
やっぱり、一人より二人の方がいい。
効率の話じゃなくて空気の問題だ。
昼休みに隣で勉強するのが習慣になった頃。
もっと知りたいと思った。
勉強のやり取りだけじゃなくて。
普通の会話をしてみたい。
一年の頃に見た、笑っている顔を、もう一度。
でも方法がわからない。
ふと、天童さんが五色を揶揄っていたのを思い出した。
いつの間にか名前で呼んで、距離を詰めていた。
名前。
それくらいしか思いつかなかった。
了解を取るのは違う気がする。
わざわざ宣言するのも変だ。
だから、機会を待った。
でもそんな都合のいい瞬間は来ない。
仕方なくノートを広げてわからないふりをする。
「○○。ここわかる?」
言ってしまった後で、耳が熱くなる。
変じゃなかったか。
自然だったか。
わからない。
次の瞬間、○○の指が俺の耳に触れた。
思考が止まる。
熱が一気に顔まで上がる。
「……嫌だったのかよ」
咄嗟に出た言葉。
本当は確認したいわけじゃない。
ただ、この状況の逃げ道が欲しかった。
「嫌じゃないけど。耳赤いから……」
そう言われて、余計に熱くなる。
「じゃあ、これから○○って呼ぶから」
脈絡がなさすぎる。
でも引き返せなかった。
隣を見る。
もう俺を見ていない。
ノートに視線を落として、ペンを走らせている。
……でも口元が少し笑っている。
その顔を見て、少しだけ安心した。
いつか。
隣で顔を合わせないままの距離じゃなくて、
普通に話して、普通に笑えるようになりたい。
そう思うのに。
今はまだ、顔が熱くて彼女を見られない。
それと……。
さっきから俺を見ない○○が、少しだけムカつく。
……でも、今はまだいい。
もう少しだけ、この距離で。
期末テスト上位者の名前が張り出される場所。
生徒数が多いこの学校は、三十位までが掲示される。
切磋琢磨させたい学校側の意図なんだろう。
その紙を、少しだけ顎を上げて見つめる。
また今回も、私の上にいる。
白布賢二郎。
自分の名前はぎりぎり三十位以内。
入っているだけマシ……なんて思えない。
中学の頃は、家で勉強なんてしなくても困らなかった。
部活もしていたし、塾にも通っていない。
『どうやって勉強してるの?』
そう聞かれても、本当に何もしていなかったからそのまま答えた。
そしたら『嫌味かー』なんて言われて。
意味がわからなかった。
勉強なんて、頑張るのは暗記くらいでしょ。
本気でそう思って、この学校に入った。
──甘かった。
上には上がいる。
ここに来て、初めて思い知らされた。
今ならわかる。
あの時の『どうやって勉強してるの?』の意味が。
中学では東北大会には届かなかったけれど、県内で十六位だったテニス。
好きだった。
でもこの強豪校では、下から数えたほうが早い実力だった。
球拾いばかりで、ラケットに触れる時間もない。
惨めで、夏になる前に辞めた。
だからせめて、勉強だけは。
そう思ってしがみついているのに、三十位に入れればいい方。
そしてその上には、
部活でレギュラーとしてコートに立ちながら、私より上にいる彼がいる。
悔しい。
「苗字。今回のテスト難しかったな。」
振り向けば、同じクラスの白布。
その言葉が嫌味にしか聞こえなくて、
「そうだね」としか返せなかった。
悔しい。
地頭が違うのか。
今回はちゃんと頑張った。
それでも負けた。
悔しいなんて、言わない。
そんなことを口にするのは、なけなしのプライドが許さない。
次は負けない。
でも、どうすればいい?
弟妹がいるのに私立に来た私が、塾に通いたいなんて言えない。
だから。
昼休みは、ご飯をさっと食べて図書室へ行くことにした。
自分にできることをやるしかない。
同じことを考えている人が多いのか、図書室は思ったより人がいた。
その中に、白布の姿を見つける。
(昼休みいないと思ったら、ここにいたんだ)
静かにノートに向かう横顔。
迷いなくペンを動かしている。
席が空いていなくて、彼の隣に座る。
一瞬だけ視線が合う。
けれどすぐにノートへ落とされた。
地頭が違う、なんて思っていた。
でも違う。
ちゃんと、やっている。
その事実に、少しだけ胸がちくりとした。
それから何度か、昼休みに顔を合わせた。
示し合わせたわけじゃないのに、
いつの間にか白布が席を取ってくれていることが増えた。
特別な会話はない。
でも隣に座るのが、自然になっていった。
ある日。
授業でわからなかった問題を前に、手が止まる。
公式は覚えている。
なのに、何を当てはめればいいのかわからない。
頭がぐしゃぐしゃになる。
どこから手をつければいいのか、糸口が見えない。
そのとき。
すっと、隣から手が伸びた。
問題文の一文に、線が引かれる。
一瞬、意味がわからなかった。
けれど──はっとする。
前提を読み違えていた。
そこに気づいた途端、答えはするりと出てきた。
「ありがとう」
「……ん」
それだけ。
でもその日から、わからないところを彼に聞くことが増えた。
気を張っていたのに、気づけば頼っている。
でも一方通行じゃない。
「ここ、どう思う?」
と彼のほうから聞かれることもある。
そのたびに、少しだけ自尊心がくすぐられた。
そして、いつもの昼休み。
並んでノートを開く。
「○○。ここわかる?」
さらっと、名前で呼ばれた。
……え?
今までずっと苗字だったのに。
顔を上げる。
白布はいつも通りの表情。
特別なことを言った自覚なんてない顔。
図書室だから声を落として、ノートに式を書き込む。
「ん。わかった」
それだけ。
簡単なやり取りのはずなのに、どこか落ち着かない。
ふと彼を見ると、耳が赤い。
?
無意識に、指先が伸びる。
赤くなった耳に触れた瞬間、
彼の肩がぴくっと揺れた。
みるみるうちに、顔まで赤くなる。
「……嫌だったのかよ」
「何が?」
「名前呼び」
「嫌じゃないけど。耳赤いから……」
少し睨まれる。
けれどその視線は、どこか弱い。
「……じゃあ、これから○○って呼ぶから」
宣言みたいに言われて、
「うん」って答えた。
それだけのこと。
なのに、胸の奥がじわっと熱くなる。
悔しさで始まったはずなのに。
いつの間にか、
隣にいる時間が、当たり前になっていた。
※※※※※※※
(白布視点)
中学の時に見た試合。
牛島さんは圧倒的だった。
正直、オープントスだけで勝てるんじゃないかと思った。
セッターの工夫も駆け引きも、必要ないくらいに。
それでも。
そんな人に、俺はトスを上げたいと思った。
必要とされなくてもいい。
選択肢の一つでいいから、あの人にボールを届けたい。
推薦なんて無理だとわかっていた。
だから一般で入るしかなかった。
白鳥沢は進学校だ。
部活後も勉強したいと親に言ったら、家庭教師をつけてくれた。
何とか入学できた。
でも入ってみれば、当たり前だけど、俺よりバレーが上手い奴らが推薦で寮生活。
家から通う俺より練習量だって多い。
足りない。
圧倒的に。
その練習が出来ない悔しさを勉強時間に回した。
二年に上がって、瀬見さんからレギュラーを奪った頃。
「なんでそんなに勉強頑張るんだよ」
部のやつらのその言葉が、妙に引っかかった。
牛島さんのプレーに合っているから選ばれているだけ。
セッターとしての技術が突出しているわけじゃない。
自分が一番わかっている。
だからこそ、もどかしい。
足りない部分を埋めるみたいに、勉強をした。
将来のためと言い聞かせながら。
本当は悔しさの行き場だった。
昼休みは図書室にいるのが当たり前になっていた。
成績が上がるたびに、自分の悔しさが数値化されているみたいで、少し嫌だった。
そんな中、クラスメートの苗字が隣に座った。
最初は気にしていなかった。
でも二年に上がってから、図書室でよく見かけるようになった。
そういえば一年の頃の苗字は、肌が焼けていて、よく笑っていた。
今は違う。
眉間に皺を寄せて、難しい顔でノートを睨んでいる。
『頭がいいやつも悩むんだな。』
それくらいの、適当な感想だった。
何度も顔を合わせるうちに、
気づけば席を取るようになっていた。
理由はない。
ただ、苗字が来るだろうと思って。
話はしない。
でも勝手に、同士みたいな感覚があった。
テニス部だと言っていた。
今はもうやっていないらしい。
両立がきつかったのか、なんて聞けない。
辞めた事実があるなら、そこには触れない方がいい。
そこまで無神経じゃない。
でも、折れそうな気持ちはわかる。
だから親近感が生まれた。
夏服の袖から伸びる白い手が、教科書をめくる。
前より白い。
眉間に皺を寄せて、悔しそうな顔。
──たぶん、問題の読み違い。
彼女のプライドを傷つけない程度に、
問題文の一文に線を引く。
はっとした顔。
すぐにペンが走る。
こんな少しのヒントで理解できるのは、普通にすごいと思った。
だから自分の勉強をしながら、
自然と苗字を見る時間が増えた。
俺がわからないところを聞くと、
驚いた顔をしながらもちゃんと答えてくれる。
やっぱり、一人より二人の方がいい。
効率の話じゃなくて空気の問題だ。
昼休みに隣で勉強するのが習慣になった頃。
もっと知りたいと思った。
勉強のやり取りだけじゃなくて。
普通の会話をしてみたい。
一年の頃に見た、笑っている顔を、もう一度。
でも方法がわからない。
ふと、天童さんが五色を揶揄っていたのを思い出した。
いつの間にか名前で呼んで、距離を詰めていた。
名前。
それくらいしか思いつかなかった。
了解を取るのは違う気がする。
わざわざ宣言するのも変だ。
だから、機会を待った。
でもそんな都合のいい瞬間は来ない。
仕方なくノートを広げてわからないふりをする。
「○○。ここわかる?」
言ってしまった後で、耳が熱くなる。
変じゃなかったか。
自然だったか。
わからない。
次の瞬間、○○の指が俺の耳に触れた。
思考が止まる。
熱が一気に顔まで上がる。
「……嫌だったのかよ」
咄嗟に出た言葉。
本当は確認したいわけじゃない。
ただ、この状況の逃げ道が欲しかった。
「嫌じゃないけど。耳赤いから……」
そう言われて、余計に熱くなる。
「じゃあ、これから○○って呼ぶから」
脈絡がなさすぎる。
でも引き返せなかった。
隣を見る。
もう俺を見ていない。
ノートに視線を落として、ペンを走らせている。
……でも口元が少し笑っている。
その顔を見て、少しだけ安心した。
いつか。
隣で顔を合わせないままの距離じゃなくて、
普通に話して、普通に笑えるようになりたい。
そう思うのに。
今はまだ、顔が熱くて彼女を見られない。
それと……。
さっきから俺を見ない○○が、少しだけムカつく。
……でも、今はまだいい。
もう少しだけ、この距離で。
