赤葦
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バゲットを咥えて赤葦君にぶつかり、
固いバゲットのせいで口を切り、
ハンカチを渡され。
足にテーピングをしてくれ。
お昼には、私が食い意地張ってるのを見越したのか、人気のパンを分けてくれて。
さらに放課後、土砂降り。
折りたたみ傘もない鈍くさい私に相合傘。
しかも朝に捻った足を気遣って、さりげなく手まで支えてくれる。
……出来すぎじゃない?
少女漫画の「ありえないシチュエーション詰め合わせセット」を無理やり一日に押し込んだ感じで、乾いた笑いしか出てこない。
これで私が「眼鏡を外すと美少女」とかなら最高なんだけど。
残念ながら視力は2.0。
眼鏡不要。 美少女でもないし。
一応、鏡を見てみるけど、
長年見慣れた顔が急にキラキラお目々になってるわけもなく、現実はちゃんと現実だった。
ため息しか出ないままベッドに倒れ込む。
布団の中で今日一日の出来事を思い出しては、
自己嫌悪に悶える。
……そして普通に寝る。
繊細さの欠片もない。
寝不足イベントすら発生しない。
───────
……何だろう。
あの日以来、赤葦君は私を見かけるたびに声をかけてくる。
知り合いだから挨拶する、だけならまだしも。
気づくとバッグやポケットから、
お菓子を取り出して渡される。
……え?
私、餌付けされてる?
食い意地の張った女が可哀想に見えて、情けをかけられてる説が濃厚で、普通に切ない。
少女漫画ならここで
『お前、面白いやつだな』
とか言われる展開なんだろうけど。
赤葦君の性格的に、それは絶対ない。
ないと断言できる。
さらに、構われる私に嫉妬した親衛隊が現れて
『ちょっとあなた!いい気になってるんじゃない?!』
みたいな修羅場も一瞬覚悟したけど。
……なかった。
さすがに親衛隊はいないらしい。
現実的で助かるような、物足りないような。
気づけば私の思考回路が完全に少女漫画ラブコメ仕様になっていた。
そうでも思わないとこの状況……処理できない。
でも現実は現実で、
少女漫画は少女漫画。
そして食い意地汚ねぇ女として認知されて、はや二週間。
今日も今日とて、餌付けのお菓子が差し出される。
……ねぇ、これ本当に餌付け?
もしかして「ハンカチ返せよ」アピールだったりしない?
すみません。
ちゃんと洗いました。
アイロンもかけました。
丁寧に畳んで、100均で買った透明袋にも入れてます。
でもね。
私の血がついた時点で、そのハンカチはもう
赤葦君が持つべき"ハンカチーフ"から
ただの"ハンケチ"に格下げされてるわけで。
渡す勇気がない。
悩んだ末、新しいハンカチを買った。
これならセーフ。
絶対セーフ。
あとは渡すタイミングだけ。
お菓子を渡された時に言う台詞を考える。
『遅ればせながら、かつてお借りしたハンカチをお返ししたく。なお血が付着してしまったため新調したものも併せて献上いたします』
……無理。卑屈すぎる。江戸時代か。
そんなことを考えていると、赤葦君の横には常に誰かいるか、私がバッグを持ってないか、
タイミングが絶妙に噛み合わない。
時間が過ぎれば過ぎるほど、動けなくなる。
よし。
私、頑張る。
昼休み。
もはや日課と化した餌付けを受け取ったタイミングで、意を決した。
「赤葦君。お昼食べ終わったら、3階の資料室に来てもらっていい?」
小声で言うと少し驚いた顔。
大丈夫、決闘じゃない。
ましてや告白でもない。
それにここで渡したら、
「パン咥えてぶつかった拍子に口切った女」
という情報が彼の友人に広まる可能性がある。
事前に人がいない場所もリサーチ済み。
目配せすると赤葦君は察したように頷いた。
お昼ご飯は、もはや作業。
口に詰められるだけ詰め込んで早食い。
少しむせたけど胃は強い。
今日もパン屋のコロッケパンはうまい。
「用事あるから!」と友達に告げてダッシュ。
「揚げ物系を早食いってw」
「唇テカりすぎw」
後ろから何か言われた気がするけど、
遅刻はできないので適当に返事して走る。
資料室のドアを開けると、紙が一枚落ちていた。
ゴミは拾う派。徳を積む派。運気も上げたい。
少しして赤葦君が来て、
廊下を気にしたのかドアを閉める。
その瞬間。
ガゴン。
……嫌な音。
まあいい。
今はそれどころじゃない。
「あの……ずっと気になってて……。
返せなかったんですけど……。
これ、ハンカチ。汚しちゃったので、新しいのも買いました」
紙袋を差し出す。
「……あ、そうだったんですね。
正直、そこまで気にしてなかったんですが……
ありがとうございます。使わせてもらいます」
気にしてなかった。
ですよね。
すみません。
時間取らせてすみません。
同じ空間の空気を吸ってすみません。
早く退散しようとドアに向かう。
……開かない。
引く。
もう一回引く。
開かない。
もたついてる私を不思議がったのか、
赤葦君も来て開けようとするけど、
やっぱり開かない。
「立て付け……ですかね? なんか変ですね」
変ですね。
とても。
携帯を出そうとして、
さっき拾った紙が手に当たる。
嫌な予感。
クシャと丸めた紙を広げてみる。
『ドア故障中。(閉めるの危険)』
……は?
携帯どこ?ない。たぶんバッグ……。
赤葦君は持っているか聞く。
「……机に置いてきました」
…………。
は?
閉じ込められイベント?
ないないないないないない!!
完全に少女漫画のやつじゃん!!
心の声が勝手に似非関西弁になる。
(いや盛りすぎやろ!!)
※※※※※※※※
(赤葦視点)
苗字さんと接点を持った日から、俺はなるべく彼女に会ったら食べ物を渡している。
足を気遣って体重をかけるよう言っても、彼女は軽い。
菓子もパンも素直に受け取るし、食欲はあるように見える。
……見える、が、実際に食べているところを見たことがない。
本当に食べているのか?
カバンに溜め込んでいないか?
もしかして遠慮しているのでは?
そんな不安から、会えば一日に何度もお菓子を渡してしまう。
今思えば、完全にやりすぎだ。
知り合い、というより。
もう俺は彼女を知りたくなっている。
何が好きで、何が嫌いで。
どんな話題なら「渡すだけ」の関係から抜け出せるのか。
もっと話がしたい。
──彼女を見たい。
──笑顔を見たい。
──声をかけられたい。
──できれば、微笑みかけられたい。
ほっとけない、というのとは違う。
関係を深めたいんだ。
……そう、たぶん。
俺は彼女を意識している。
自覚したのに、何も行動できていない。
そんな時、彼女から人のいない場所を指定されて「話がある」と言われた。
小声で、周囲を気にして。
……これ、もしかして。
告白では。
そう思った瞬間、言葉が出なくなった。
目線で頷くのが精一杯だった。
昼の弁当の味は、まったく分からなかった。
これから意識している彼女の告白を受ける。
返事は「はい」しかない。
でも、それなら自分から言うべきでは……
いや、彼女の言葉も聞きたい。
そんなことを考えながら、指定された資料室へ向かう。
彼女はもう来ていた。
廊下の声が気になって、ドアを閉める。
近づいて、話を聞く。
…………。
告白じゃなかった。
ハンカチのお礼だった。
自意識過剰にもほどがある。
勝手に盛り上がって、勝手に肩透かしを食らう。
平静を装って返事をするが、内心は静かに崩壊していた。
そのまま出ようとする彼女。
だがドアが開かない。
軽いから、という理由でドアが開けられないことがあるのかと一瞬思ったが、
俺がやっても開かない。
彼女の手に、くしゃくしゃの紙がある。
それを見る。
『ドア故障中』
……マジか。
不安そうに俺を見上げる彼女。
その表情が、やけに胸にくる。
そして、不意に目に入った唇。
光を反射している。
濡れているというよりぬらついている彼女の唇から視線が外れない。
触れたい。
近づきたい。
抱きしめて、唇を重ねて、息ごと欲しい。
──だめだ。
これは欲だ。
こんな感情で彼女を汚してはいけない。
距離を取って、携帯を探す。
机に置きっぱなしだったことを思い出す。
……詰んだ。
長くても下校時の点検。
早ければ次の授業で誰かが来る。
現状を伝えると、彼女は「こんな場所を指定してすみません」と謝った。
健気すぎる。
それなのに俺は、告白を期待したり、唇に欲情したり。
結局、俺たちは一時間、二人きりで過ごした。
六限目。
資料を取りに来た先生に驚かれ、
妙に距離を取って座っている二人を見て、心配された。
「異性と二人きりで授業に出られなかった教室」があると知り、
ドアの修理は即決で決まったらしい。
気まずい空気のまま、彼女は「じゃあ、また」と言う。
俺も「また」としか返せなかった。
手元には、彼女からの紙袋。
部活前に開ける。
丁寧に畳まれた、俺のハンカチ。
そして、新しいハンカチ。
告白だと思い込んで浮かれていた自分が恥ずかしい。
ずっと謝りたかったという彼女の気持ちを、
勝手な劣情で上書きしかけた自分も恥ずかしい。
……でも。
その恥ずかしさのおかげで、
俺ははっきり自覚した。
これはただの親切でも、気遣いでもない。
俺は、完全に。
苗字さんに恋をしている。
──というところで、
何も始まっていないのに、もう終わったような顔をしている自分に気づき、
思わず一人で苦笑した。
(続かないけど、続いていくやつだな、これ)
〈終?〉
固いバゲットのせいで口を切り、
ハンカチを渡され。
足にテーピングをしてくれ。
お昼には、私が食い意地張ってるのを見越したのか、人気のパンを分けてくれて。
さらに放課後、土砂降り。
折りたたみ傘もない鈍くさい私に相合傘。
しかも朝に捻った足を気遣って、さりげなく手まで支えてくれる。
……出来すぎじゃない?
少女漫画の「ありえないシチュエーション詰め合わせセット」を無理やり一日に押し込んだ感じで、乾いた笑いしか出てこない。
これで私が「眼鏡を外すと美少女」とかなら最高なんだけど。
残念ながら視力は2.0。
眼鏡不要。 美少女でもないし。
一応、鏡を見てみるけど、
長年見慣れた顔が急にキラキラお目々になってるわけもなく、現実はちゃんと現実だった。
ため息しか出ないままベッドに倒れ込む。
布団の中で今日一日の出来事を思い出しては、
自己嫌悪に悶える。
……そして普通に寝る。
繊細さの欠片もない。
寝不足イベントすら発生しない。
───────
……何だろう。
あの日以来、赤葦君は私を見かけるたびに声をかけてくる。
知り合いだから挨拶する、だけならまだしも。
気づくとバッグやポケットから、
お菓子を取り出して渡される。
……え?
私、餌付けされてる?
食い意地の張った女が可哀想に見えて、情けをかけられてる説が濃厚で、普通に切ない。
少女漫画ならここで
『お前、面白いやつだな』
とか言われる展開なんだろうけど。
赤葦君の性格的に、それは絶対ない。
ないと断言できる。
さらに、構われる私に嫉妬した親衛隊が現れて
『ちょっとあなた!いい気になってるんじゃない?!』
みたいな修羅場も一瞬覚悟したけど。
……なかった。
さすがに親衛隊はいないらしい。
現実的で助かるような、物足りないような。
気づけば私の思考回路が完全に少女漫画ラブコメ仕様になっていた。
そうでも思わないとこの状況……処理できない。
でも現実は現実で、
少女漫画は少女漫画。
そして食い意地汚ねぇ女として認知されて、はや二週間。
今日も今日とて、餌付けのお菓子が差し出される。
……ねぇ、これ本当に餌付け?
もしかして「ハンカチ返せよ」アピールだったりしない?
すみません。
ちゃんと洗いました。
アイロンもかけました。
丁寧に畳んで、100均で買った透明袋にも入れてます。
でもね。
私の血がついた時点で、そのハンカチはもう
赤葦君が持つべき"ハンカチーフ"から
ただの"ハンケチ"に格下げされてるわけで。
渡す勇気がない。
悩んだ末、新しいハンカチを買った。
これならセーフ。
絶対セーフ。
あとは渡すタイミングだけ。
お菓子を渡された時に言う台詞を考える。
『遅ればせながら、かつてお借りしたハンカチをお返ししたく。なお血が付着してしまったため新調したものも併せて献上いたします』
……無理。卑屈すぎる。江戸時代か。
そんなことを考えていると、赤葦君の横には常に誰かいるか、私がバッグを持ってないか、
タイミングが絶妙に噛み合わない。
時間が過ぎれば過ぎるほど、動けなくなる。
よし。
私、頑張る。
昼休み。
もはや日課と化した餌付けを受け取ったタイミングで、意を決した。
「赤葦君。お昼食べ終わったら、3階の資料室に来てもらっていい?」
小声で言うと少し驚いた顔。
大丈夫、決闘じゃない。
ましてや告白でもない。
それにここで渡したら、
「パン咥えてぶつかった拍子に口切った女」
という情報が彼の友人に広まる可能性がある。
事前に人がいない場所もリサーチ済み。
目配せすると赤葦君は察したように頷いた。
お昼ご飯は、もはや作業。
口に詰められるだけ詰め込んで早食い。
少しむせたけど胃は強い。
今日もパン屋のコロッケパンはうまい。
「用事あるから!」と友達に告げてダッシュ。
「揚げ物系を早食いってw」
「唇テカりすぎw」
後ろから何か言われた気がするけど、
遅刻はできないので適当に返事して走る。
資料室のドアを開けると、紙が一枚落ちていた。
ゴミは拾う派。徳を積む派。運気も上げたい。
少しして赤葦君が来て、
廊下を気にしたのかドアを閉める。
その瞬間。
ガゴン。
……嫌な音。
まあいい。
今はそれどころじゃない。
「あの……ずっと気になってて……。
返せなかったんですけど……。
これ、ハンカチ。汚しちゃったので、新しいのも買いました」
紙袋を差し出す。
「……あ、そうだったんですね。
正直、そこまで気にしてなかったんですが……
ありがとうございます。使わせてもらいます」
気にしてなかった。
ですよね。
すみません。
時間取らせてすみません。
同じ空間の空気を吸ってすみません。
早く退散しようとドアに向かう。
……開かない。
引く。
もう一回引く。
開かない。
もたついてる私を不思議がったのか、
赤葦君も来て開けようとするけど、
やっぱり開かない。
「立て付け……ですかね? なんか変ですね」
変ですね。
とても。
携帯を出そうとして、
さっき拾った紙が手に当たる。
嫌な予感。
クシャと丸めた紙を広げてみる。
『ドア故障中。(閉めるの危険)』
……は?
携帯どこ?ない。たぶんバッグ……。
赤葦君は持っているか聞く。
「……机に置いてきました」
…………。
は?
閉じ込められイベント?
ないないないないないない!!
完全に少女漫画のやつじゃん!!
心の声が勝手に似非関西弁になる。
(いや盛りすぎやろ!!)
※※※※※※※※
(赤葦視点)
苗字さんと接点を持った日から、俺はなるべく彼女に会ったら食べ物を渡している。
足を気遣って体重をかけるよう言っても、彼女は軽い。
菓子もパンも素直に受け取るし、食欲はあるように見える。
……見える、が、実際に食べているところを見たことがない。
本当に食べているのか?
カバンに溜め込んでいないか?
もしかして遠慮しているのでは?
そんな不安から、会えば一日に何度もお菓子を渡してしまう。
今思えば、完全にやりすぎだ。
知り合い、というより。
もう俺は彼女を知りたくなっている。
何が好きで、何が嫌いで。
どんな話題なら「渡すだけ」の関係から抜け出せるのか。
もっと話がしたい。
──彼女を見たい。
──笑顔を見たい。
──声をかけられたい。
──できれば、微笑みかけられたい。
ほっとけない、というのとは違う。
関係を深めたいんだ。
……そう、たぶん。
俺は彼女を意識している。
自覚したのに、何も行動できていない。
そんな時、彼女から人のいない場所を指定されて「話がある」と言われた。
小声で、周囲を気にして。
……これ、もしかして。
告白では。
そう思った瞬間、言葉が出なくなった。
目線で頷くのが精一杯だった。
昼の弁当の味は、まったく分からなかった。
これから意識している彼女の告白を受ける。
返事は「はい」しかない。
でも、それなら自分から言うべきでは……
いや、彼女の言葉も聞きたい。
そんなことを考えながら、指定された資料室へ向かう。
彼女はもう来ていた。
廊下の声が気になって、ドアを閉める。
近づいて、話を聞く。
…………。
告白じゃなかった。
ハンカチのお礼だった。
自意識過剰にもほどがある。
勝手に盛り上がって、勝手に肩透かしを食らう。
平静を装って返事をするが、内心は静かに崩壊していた。
そのまま出ようとする彼女。
だがドアが開かない。
軽いから、という理由でドアが開けられないことがあるのかと一瞬思ったが、
俺がやっても開かない。
彼女の手に、くしゃくしゃの紙がある。
それを見る。
『ドア故障中』
……マジか。
不安そうに俺を見上げる彼女。
その表情が、やけに胸にくる。
そして、不意に目に入った唇。
光を反射している。
濡れているというよりぬらついている彼女の唇から視線が外れない。
触れたい。
近づきたい。
抱きしめて、唇を重ねて、息ごと欲しい。
──だめだ。
これは欲だ。
こんな感情で彼女を汚してはいけない。
距離を取って、携帯を探す。
机に置きっぱなしだったことを思い出す。
……詰んだ。
長くても下校時の点検。
早ければ次の授業で誰かが来る。
現状を伝えると、彼女は「こんな場所を指定してすみません」と謝った。
健気すぎる。
それなのに俺は、告白を期待したり、唇に欲情したり。
結局、俺たちは一時間、二人きりで過ごした。
六限目。
資料を取りに来た先生に驚かれ、
妙に距離を取って座っている二人を見て、心配された。
「異性と二人きりで授業に出られなかった教室」があると知り、
ドアの修理は即決で決まったらしい。
気まずい空気のまま、彼女は「じゃあ、また」と言う。
俺も「また」としか返せなかった。
手元には、彼女からの紙袋。
部活前に開ける。
丁寧に畳まれた、俺のハンカチ。
そして、新しいハンカチ。
告白だと思い込んで浮かれていた自分が恥ずかしい。
ずっと謝りたかったという彼女の気持ちを、
勝手な劣情で上書きしかけた自分も恥ずかしい。
……でも。
その恥ずかしさのおかげで、
俺ははっきり自覚した。
これはただの親切でも、気遣いでもない。
俺は、完全に。
苗字さんに恋をしている。
──というところで、
何も始まっていないのに、もう終わったような顔をしている自分に気づき、
思わず一人で苦笑した。
(続かないけど、続いていくやつだな、これ)
〈終?〉
