赤葦
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今日は本当に散々だった。
もうライフはゼロ。HPもMPも赤ゲージ。
淡い恋心でひっそりと眺めていた赤葦君に、
まさかバゲットを咥えた状態でぶつかるなんて誰が想像する?
口は切れるし、足首は捻るし、
「出会い方」ってものを完全に間違えた気がする。
せめてクロワッサンとか、食パンとか。
もうちょっと柔らかいやつなら少女漫画的なイベントに昇格できたんじゃない?
なんでよりにもよってバゲット。
私の恋心、硬度高すぎ問題。
しかも今日は月一の委員会。
帰りは遅くなるし、一緒に帰る予定だった友達は彼氏と帰るらしいし…。
私は一人。
そして現在、昇降口。
外は土砂降り。
天気予報、仕事しろ。
足首はまだ痛いし、走れない。
傘もない。
……詰んでる。
神様はいないのか。
初詣も行ったし、お盆は墓参りしてるし、クリスマスだってそれなりに祝ってるのに。
神道・仏教・キリスト教のごった煮日本人を見捨てないでほしい。
もうどうでもよくなる。
周りに人がいないのをいいことに昇降口の端に座り込み止みそうもない空をぼんやり見上げた。
「苗字さん?」
……この声。
勘弁して。
今日じゃない。
よりにもよって今日じゃない。
朝、バゲットと一緒にゴミ箱に捨てたはずの恋心の本人に、名前を呼ばれる日じゃない。
ゆっくり視線を向けると、
そこには傘を持った赤葦君。
あ、やばい。
朝切れた口の端から涎垂れてないよね?
大丈夫?
「部活、終わったの?」
我ながら、よくこの質問を選んだと思う。
心臓バクバクなのに、声は普通を装えた。
「はい。雨が強くなってきたので、今日は早めに……傘、ないんですか?」
あるわけがない。
ここで「ないです」って言ったら何が起きる?
相合傘イベントだろ。
購買で丸ごとバナナ渡してくる天使だぞこの人。
どう答えていいかわからず、
「早く帰れるんだね。お疲れ様。」と意味不明な返事をする私。
怪訝そうな顔の赤葦君が、少し間を置いて言った。
「家、知ってますし。通り道なので……よければ」
そうだよね。
バゲット咥えてぶつかった女の家、忘れる方が難しいよね。
もう気持ちは半ば投げやりになって、
「大丈夫です!雨の中歩くの好きなんで!」
そう言って土砂降りの中に踏み出そうとした瞬間、
手首を掴まれた。
「俺と一緒に帰るの、嫌ですか?」
……無理。
MPゼロ。
「一緒に……帰っていいんですか?」
「嫌でなければ。傘、入ってください」
心臓がうるさい。
近づきたいのに近づきたくない。
しかも足を気遣って
「足、辛いですよね。手に捕まって下さい。
もっと体重預けていいですよ」
なんて言われて。
無理無理無理無理。
足首の痛みより、
赤葦君に体重を預ける恥ずかしさの方が圧倒的に勝ってる。
なんで今日なんだろう。
なんでバゲットなんだろう。
なんで急に、こんなに距離が近いんだろう。
思考を完全に放棄したまま、
私は赤葦君の傘の中で、家まで一緒に帰った。
──少女漫画みたいな展開すぎない?
道で気になる男子とぶつかって。
帰りは相合傘イベント?!
…………神様。
嬉しい設定です。
でも出来れば、
咥えるパンは可愛いコッペパン。
傘を差し出されるより私から差し出したい。
ここから恋愛発展ないです(泣)
※※※※※※※※
(赤葦視点)
急な天候変化。
土砂降り警報レベルの雨。
あまりの降り方に、部活は予定より早めに切り上げになった。
朝練に遅刻した分を取り戻したかったが、
この雨ではどうにもならない。
「雨ヤバっ!傘ないし、走って帰るしかないか」
そう呟いたのは木兎さんだった。
部室を見渡してから、俺は壁際にまとめて立てかけられている置き傘に目を向ける。
「木兎さん、傘さしてください。
この雨量で走ったら、確実に風邪ひきます」
「えー? でも俺エースだし?」
「エースでも風邪はひきます。むしろ引かれると困ります」
そう言いながら、置き傘の中から一本引き抜いて木兎さんに差し出す。
「ほら。使ってください」
「おっ、さすがあかーし! 気が利くな!」
エース理論は相変わらずよく分からないが、
結果的に傘を持ってくれるなら問題ない。
部室には忘れ物の傘が何本もあった。
俺もその中から一本を手に取り、部員たちと一緒に校門へ向かう。
部員と一緒に校門を出て、ふと今朝の出来事が頭をよぎる。
──苗字さん。
部活はしていないはずだ。
でも、もしまだ校内にいたら。
もし、傘を持っていなかったら。
確証はない。
合理性も薄い。
それでも、戻らない理由もなかった。
昇降口に戻ると、
そこには座り込んで空を見上げている苗字さんがいた。
……いた。
雨せいか、少しぼんやりしていて、
朝よりもどこか儚げで、
放っておくのが難しい雰囲気をしている。
「苗字さん?」
名前を呼ぶと、びくっと肩が揺れる。
傘がないか尋ねたはずなのに、
返ってきたのは俺を気遣う言葉で、なぜか胸の奥がざわついた。
一緒に帰れたらと思って待つが、
彼女は「雨の中を歩くのが好きなんで」と、あからさまな嘘をつく。
……無理がある。
咄嗟に手首を掴んでしまい、
自分でも少し強引だと思う言葉を口にした。
「俺と一緒に帰るの、嫌ですか?」
返ってきたのは、
「一緒に帰っていいんですか?」という、控えめすぎる返事。
どうしてそんな言い方をするんだろう。
俺は一緒に帰りたいのに。
彼女の肩が濡れそうで、
それを理由に距離を詰めたくて、
足を気遣うふりをして体重を預けるように言った。
彼女は遠慮がちに俺の腕を掴み、歩き出す。
……軽い。
軽すぎる。
この重さでよく地上に存在できているな、と失礼なことを考える。
だから朝、パンを頬張っていたのか?
エネルギー補給的な意味で?
もし嫌でなければ、
もっと接点を持って、
明日から昼休みにでもちゃんと食べさせた方がいい気がする。
そんなことを考えながら、
俺は苗字さんと並んで、雨の中を歩いた。
パンを咥えてぶつかる出会いも、
相合傘での帰り道も、
どちらも現実感は薄い。
それでも今日一日で、
彼女は「気になる他クラスの生徒」から、
「これからどうするか考えたい相手」に変わっていた。
……案外、
少女漫画みたいな展開も、悪くないのかもしれない。
もうライフはゼロ。HPもMPも赤ゲージ。
淡い恋心でひっそりと眺めていた赤葦君に、
まさかバゲットを咥えた状態でぶつかるなんて誰が想像する?
口は切れるし、足首は捻るし、
「出会い方」ってものを完全に間違えた気がする。
せめてクロワッサンとか、食パンとか。
もうちょっと柔らかいやつなら少女漫画的なイベントに昇格できたんじゃない?
なんでよりにもよってバゲット。
私の恋心、硬度高すぎ問題。
しかも今日は月一の委員会。
帰りは遅くなるし、一緒に帰る予定だった友達は彼氏と帰るらしいし…。
私は一人。
そして現在、昇降口。
外は土砂降り。
天気予報、仕事しろ。
足首はまだ痛いし、走れない。
傘もない。
……詰んでる。
神様はいないのか。
初詣も行ったし、お盆は墓参りしてるし、クリスマスだってそれなりに祝ってるのに。
神道・仏教・キリスト教のごった煮日本人を見捨てないでほしい。
もうどうでもよくなる。
周りに人がいないのをいいことに昇降口の端に座り込み止みそうもない空をぼんやり見上げた。
「苗字さん?」
……この声。
勘弁して。
今日じゃない。
よりにもよって今日じゃない。
朝、バゲットと一緒にゴミ箱に捨てたはずの恋心の本人に、名前を呼ばれる日じゃない。
ゆっくり視線を向けると、
そこには傘を持った赤葦君。
あ、やばい。
朝切れた口の端から涎垂れてないよね?
大丈夫?
「部活、終わったの?」
我ながら、よくこの質問を選んだと思う。
心臓バクバクなのに、声は普通を装えた。
「はい。雨が強くなってきたので、今日は早めに……傘、ないんですか?」
あるわけがない。
ここで「ないです」って言ったら何が起きる?
相合傘イベントだろ。
購買で丸ごとバナナ渡してくる天使だぞこの人。
どう答えていいかわからず、
「早く帰れるんだね。お疲れ様。」と意味不明な返事をする私。
怪訝そうな顔の赤葦君が、少し間を置いて言った。
「家、知ってますし。通り道なので……よければ」
そうだよね。
バゲット咥えてぶつかった女の家、忘れる方が難しいよね。
もう気持ちは半ば投げやりになって、
「大丈夫です!雨の中歩くの好きなんで!」
そう言って土砂降りの中に踏み出そうとした瞬間、
手首を掴まれた。
「俺と一緒に帰るの、嫌ですか?」
……無理。
MPゼロ。
「一緒に……帰っていいんですか?」
「嫌でなければ。傘、入ってください」
心臓がうるさい。
近づきたいのに近づきたくない。
しかも足を気遣って
「足、辛いですよね。手に捕まって下さい。
もっと体重預けていいですよ」
なんて言われて。
無理無理無理無理。
足首の痛みより、
赤葦君に体重を預ける恥ずかしさの方が圧倒的に勝ってる。
なんで今日なんだろう。
なんでバゲットなんだろう。
なんで急に、こんなに距離が近いんだろう。
思考を完全に放棄したまま、
私は赤葦君の傘の中で、家まで一緒に帰った。
──少女漫画みたいな展開すぎない?
道で気になる男子とぶつかって。
帰りは相合傘イベント?!
…………神様。
嬉しい設定です。
でも出来れば、
咥えるパンは可愛いコッペパン。
傘を差し出されるより私から差し出したい。
ここから恋愛発展ないです(泣)
※※※※※※※※
(赤葦視点)
急な天候変化。
土砂降り警報レベルの雨。
あまりの降り方に、部活は予定より早めに切り上げになった。
朝練に遅刻した分を取り戻したかったが、
この雨ではどうにもならない。
「雨ヤバっ!傘ないし、走って帰るしかないか」
そう呟いたのは木兎さんだった。
部室を見渡してから、俺は壁際にまとめて立てかけられている置き傘に目を向ける。
「木兎さん、傘さしてください。
この雨量で走ったら、確実に風邪ひきます」
「えー? でも俺エースだし?」
「エースでも風邪はひきます。むしろ引かれると困ります」
そう言いながら、置き傘の中から一本引き抜いて木兎さんに差し出す。
「ほら。使ってください」
「おっ、さすがあかーし! 気が利くな!」
エース理論は相変わらずよく分からないが、
結果的に傘を持ってくれるなら問題ない。
部室には忘れ物の傘が何本もあった。
俺もその中から一本を手に取り、部員たちと一緒に校門へ向かう。
部員と一緒に校門を出て、ふと今朝の出来事が頭をよぎる。
──苗字さん。
部活はしていないはずだ。
でも、もしまだ校内にいたら。
もし、傘を持っていなかったら。
確証はない。
合理性も薄い。
それでも、戻らない理由もなかった。
昇降口に戻ると、
そこには座り込んで空を見上げている苗字さんがいた。
……いた。
雨せいか、少しぼんやりしていて、
朝よりもどこか儚げで、
放っておくのが難しい雰囲気をしている。
「苗字さん?」
名前を呼ぶと、びくっと肩が揺れる。
傘がないか尋ねたはずなのに、
返ってきたのは俺を気遣う言葉で、なぜか胸の奥がざわついた。
一緒に帰れたらと思って待つが、
彼女は「雨の中を歩くのが好きなんで」と、あからさまな嘘をつく。
……無理がある。
咄嗟に手首を掴んでしまい、
自分でも少し強引だと思う言葉を口にした。
「俺と一緒に帰るの、嫌ですか?」
返ってきたのは、
「一緒に帰っていいんですか?」という、控えめすぎる返事。
どうしてそんな言い方をするんだろう。
俺は一緒に帰りたいのに。
彼女の肩が濡れそうで、
それを理由に距離を詰めたくて、
足を気遣うふりをして体重を預けるように言った。
彼女は遠慮がちに俺の腕を掴み、歩き出す。
……軽い。
軽すぎる。
この重さでよく地上に存在できているな、と失礼なことを考える。
だから朝、パンを頬張っていたのか?
エネルギー補給的な意味で?
もし嫌でなければ、
もっと接点を持って、
明日から昼休みにでもちゃんと食べさせた方がいい気がする。
そんなことを考えながら、
俺は苗字さんと並んで、雨の中を歩いた。
パンを咥えてぶつかる出会いも、
相合傘での帰り道も、
どちらも現実感は薄い。
それでも今日一日で、
彼女は「気になる他クラスの生徒」から、
「これからどうするか考えたい相手」に変わっていた。
……案外、
少女漫画みたいな展開も、悪くないのかもしれない。
