心理テスト 「寒い」と言ったら(烏野編)
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急にガラッ、と教室の戸が開く音に、反射的に身体がすくんだ。
怖いときって、叫ぶより先に動けなくなるんだな。そんなふうに客観的に考えられるあたり、まだ余裕はあるらしい。
吸い込んだ息を、ゆっくり吐き出す。
振り返るより先に、声がかかった。
「苗字?」
「……澤村。びっくりした……」
驚いた私に、彼は少し申し訳なさそうに笑って、「驚かすつもりじゃなかったんだけど、悪いな」と軽く言う。その一言だけで、胸の奥がすっと落ち着いた。
私は手に持っていた体操着のバッグを、軽く掲げてみせる。
「忘れ物、取りに来ただけ」
「ああ。部活じゃなかったよな?」
「うん。自習。図書室って、はかどるから」
「偉いな。俺は部活終わりで苗字と同じ。忘れ物」
しっかりしてそうなのに忘れ物、するんだ。
思わず、くすっと笑ってしまう。
本当なら、ここで入れ違いに帰ればよかった。
でも、夜の学校が怖くて。
私はそのまま、澤村が忘れ物を探すのを待った。
机の中を探りながら、私がまだ教室にいることに気づいたのか、彼がこちらを見る。
「苗字がいて良かった。夜の学校って、結構怖いから」
「え……? 澤村も?」
「俺だって怖いよ。日が落ちた体育館のトイレ行くときは気合入れるし」
「何それ」
思ってもみなかった答えに、思わず笑ってしまった。
笑うと、不思議と怖さが和らぐ。
普段はあまり話さないのに、気づけば、ここに来るまで怖くて鼻歌を歌っていたことまで話していた。
そんなことを話しながら、二人で下駄箱まで歩く。
外に出ると、校内よりさらに冷たい風が吹き、思わず肩をすくめる。
「寒っ……」
そう言った瞬間、澤村が自分のコートを差し出してきた。
「これ、使っていいよ。部活終わりで、まだ暑いし」
「え、でも……」
「途中まででいいから。……あ、まだ寒いならジャージも貸すけど。汗臭いかもだけど」
確かに、彼の頬は少し赤い。
着なくても平気そう、かも?
少し迷ってから、私はコートを受け取った。
「ありがとう。……ジャージも借りる! 洗って返すから」
そのまま駅まで並んで歩く。
制服の上に澤村のジャージ、その上に私のコート、さらに澤村のコート。
なんだか着ぐるみみたいで、妙に暖かい。
むしろ、少し暑いくらいだ。
駅前で、借りていたコートを返す。
休みをまたいでまでジャージを借りるのも悪い気がして、脱ごうとすると、
「先輩のジャージもあるし、返すのは休み明けでいいよ」
そう言われて、少しだけ悩んでから頷いた。
寒かったから、正直うれしかった。
でも、借りっぱなしは嫌で。
連絡先を聞いて、三学期が始まる前に返す約束をした。
〈澤村視点〉
同じクラスになってから、ずっと気にはなっていた。
ちゃんと話すきっかけがないまま、時間だけが過ぎていった。
このまま、ほとんど話さないまま終わるんだろうな。
そう思っていた。
部活帰り、廊下を歩いていると、前の方に見覚えのある背中があった。
苗字だ。
昇降口とは逆方向。
教室の方に向かっているみたいで、反射的に足が動いた。
考えるより先に、走っていた。
階段を上がった先で、歌声が聞こえた。
「チャーン♪チャラランー ♪」
暗い校舎に、妙に響くエコー。
思わず足を止める。
……怖かったのか?
にしてもラジオ体操を適当な歌詞で……。
選曲のチョイスの癖が強い。
教室の戸を開けた音で、苗字の肩がびくっと跳ねた。
俺が声をかけるより早く、身を固くしているのが分かる。
「苗字?」
振り返った彼女は、俺の顔を見ると、ほっとしたように息を吐いた。
「澤村……びっくりした……」
悪いことしたな、と思って軽く謝る。
忘れ物を取りに来ただけだと、体操着のバッグを掲げる仕草が、少し可笑しかった。
ここまで来た理由は苗字が見えたから…なんて言えない。
だからとっさに忘れ物って言ったら苗字が小さく笑った。
「苗字がいて良かった。夜の学校、結構怖いから」
「え? 澤村も?」
「俺だって怖いよ。夜の体育館トイレ行く時は気合いるし」
本当はそんなに怖くないけど怖がってる彼女についた嘘なのに笑ってくれて。なんだかそれが嬉しかった。
気づけば、並んで下駄箱まで歩いていた。
外に出た瞬間、風が冷たい。
苗字が「寒っ」と言ったのを聞いて、考える前にコートを差し出していた。
「部活終わりで、まだ暑いし」
本当は、汗が冷えて結構寒い。
でも、それより、苗字が震えてる方が気になった。
「まだ寒いなら、ジャージも貸すけど……汗臭いかもだけど」
そう言ったら、少し迷ったあとで、ありがとうって笑ってくれた。
自分の服を着てる苗字を見たとき、胸の奥が変にあったかくなった。
駅までの道。
苗字は「暖かい」と言っていた。
それだけで、寒さなんてどうでもよくなった。
別れ際、コートを返されて、ジャージもすぐ返そうとするから、休み明けでいいと伝えた。
連絡先を交換したのは、その流れだった。
帰り道、コートを羽織ると、さっきまで苗字が着ていたせいか、妙に暖かく感じた。
夜風は冷たいのに、顔だけが熱い。
たぶん─
今日、少しだけ、距離が縮んだ。
怖いときって、叫ぶより先に動けなくなるんだな。そんなふうに客観的に考えられるあたり、まだ余裕はあるらしい。
吸い込んだ息を、ゆっくり吐き出す。
振り返るより先に、声がかかった。
「苗字?」
「……澤村。びっくりした……」
驚いた私に、彼は少し申し訳なさそうに笑って、「驚かすつもりじゃなかったんだけど、悪いな」と軽く言う。その一言だけで、胸の奥がすっと落ち着いた。
私は手に持っていた体操着のバッグを、軽く掲げてみせる。
「忘れ物、取りに来ただけ」
「ああ。部活じゃなかったよな?」
「うん。自習。図書室って、はかどるから」
「偉いな。俺は部活終わりで苗字と同じ。忘れ物」
しっかりしてそうなのに忘れ物、するんだ。
思わず、くすっと笑ってしまう。
本当なら、ここで入れ違いに帰ればよかった。
でも、夜の学校が怖くて。
私はそのまま、澤村が忘れ物を探すのを待った。
机の中を探りながら、私がまだ教室にいることに気づいたのか、彼がこちらを見る。
「苗字がいて良かった。夜の学校って、結構怖いから」
「え……? 澤村も?」
「俺だって怖いよ。日が落ちた体育館のトイレ行くときは気合入れるし」
「何それ」
思ってもみなかった答えに、思わず笑ってしまった。
笑うと、不思議と怖さが和らぐ。
普段はあまり話さないのに、気づけば、ここに来るまで怖くて鼻歌を歌っていたことまで話していた。
そんなことを話しながら、二人で下駄箱まで歩く。
外に出ると、校内よりさらに冷たい風が吹き、思わず肩をすくめる。
「寒っ……」
そう言った瞬間、澤村が自分のコートを差し出してきた。
「これ、使っていいよ。部活終わりで、まだ暑いし」
「え、でも……」
「途中まででいいから。……あ、まだ寒いならジャージも貸すけど。汗臭いかもだけど」
確かに、彼の頬は少し赤い。
着なくても平気そう、かも?
少し迷ってから、私はコートを受け取った。
「ありがとう。……ジャージも借りる! 洗って返すから」
そのまま駅まで並んで歩く。
制服の上に澤村のジャージ、その上に私のコート、さらに澤村のコート。
なんだか着ぐるみみたいで、妙に暖かい。
むしろ、少し暑いくらいだ。
駅前で、借りていたコートを返す。
休みをまたいでまでジャージを借りるのも悪い気がして、脱ごうとすると、
「先輩のジャージもあるし、返すのは休み明けでいいよ」
そう言われて、少しだけ悩んでから頷いた。
寒かったから、正直うれしかった。
でも、借りっぱなしは嫌で。
連絡先を聞いて、三学期が始まる前に返す約束をした。
〈澤村視点〉
同じクラスになってから、ずっと気にはなっていた。
ちゃんと話すきっかけがないまま、時間だけが過ぎていった。
このまま、ほとんど話さないまま終わるんだろうな。
そう思っていた。
部活帰り、廊下を歩いていると、前の方に見覚えのある背中があった。
苗字だ。
昇降口とは逆方向。
教室の方に向かっているみたいで、反射的に足が動いた。
考えるより先に、走っていた。
階段を上がった先で、歌声が聞こえた。
「チャーン♪チャラランー ♪」
暗い校舎に、妙に響くエコー。
思わず足を止める。
……怖かったのか?
にしてもラジオ体操を適当な歌詞で……。
選曲のチョイスの癖が強い。
教室の戸を開けた音で、苗字の肩がびくっと跳ねた。
俺が声をかけるより早く、身を固くしているのが分かる。
「苗字?」
振り返った彼女は、俺の顔を見ると、ほっとしたように息を吐いた。
「澤村……びっくりした……」
悪いことしたな、と思って軽く謝る。
忘れ物を取りに来ただけだと、体操着のバッグを掲げる仕草が、少し可笑しかった。
ここまで来た理由は苗字が見えたから…なんて言えない。
だからとっさに忘れ物って言ったら苗字が小さく笑った。
「苗字がいて良かった。夜の学校、結構怖いから」
「え? 澤村も?」
「俺だって怖いよ。夜の体育館トイレ行く時は気合いるし」
本当はそんなに怖くないけど怖がってる彼女についた嘘なのに笑ってくれて。なんだかそれが嬉しかった。
気づけば、並んで下駄箱まで歩いていた。
外に出た瞬間、風が冷たい。
苗字が「寒っ」と言ったのを聞いて、考える前にコートを差し出していた。
「部活終わりで、まだ暑いし」
本当は、汗が冷えて結構寒い。
でも、それより、苗字が震えてる方が気になった。
「まだ寒いなら、ジャージも貸すけど……汗臭いかもだけど」
そう言ったら、少し迷ったあとで、ありがとうって笑ってくれた。
自分の服を着てる苗字を見たとき、胸の奥が変にあったかくなった。
駅までの道。
苗字は「暖かい」と言っていた。
それだけで、寒さなんてどうでもよくなった。
別れ際、コートを返されて、ジャージもすぐ返そうとするから、休み明けでいいと伝えた。
連絡先を交換したのは、その流れだった。
帰り道、コートを羽織ると、さっきまで苗字が着ていたせいか、妙に暖かく感じた。
夜風は冷たいのに、顔だけが熱い。
たぶん─
今日、少しだけ、距離が縮んだ。
