嶋田誠
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〈彼女視点〉
櫓から屋台へ繋がる提灯の明かりが、ぽつり、ぽつりと消えていく。
花火が上がる時間だと分かっているのに、周りのざわめきに感化されて、胸の奥が少しだけ弾む。
一糸の光が空に上がる瞬間、見知らぬ人たちと同じ空を仰いでいるのが、なんだか不思議だった。
夜空に大輪の火花が咲く。
その瞬間、
横顔の彼を見て、昔のことを思い出す——。
***
「高三で最後だから!チャンスだからお願い!!」
そう言われて、友達の恋をサポートすることになった。
……とはいえ、正直なところ、他人の恋を覗くようなスリルも半分くらいあったと思う。
「もう!どうする?変じゃない?変だよね?」
待ち合わせの三十分前、鏡の前で髪を直したり、浴衣の襟をいじったり、落ち着かない友達。
腕にしがみついてくる姿が可愛くて、思わず笑ってしまう。
「可愛いから大丈夫だって。気合い入りすぎるより自然な方がいいよ」
「○○も浴衣着てくればよかったのに〜」
膨れた頬を指で押しながら、「帯は大丈夫?」と話を逸らす。
改札の向こうから、浴衣姿の彼と、その隣に眼鏡をかけた浴衣姿のおっとりした男の子が見えた。
——多分、友達の想い人の友達。
つまり、私の"付き添い役"。
(男の子って、気合い入れなくても浴衣で来るんだ……)
自分だけ浮いてるような気がして、少し肩をすくめる。
でもまあ、主役は友達だ。私のことなんて誰も見てない。
祭りの通りを歩きながら、友達の笑顔を横目で見ては、
(恋する乙女って、ほんと可愛いな)
と、イカ焼きを頬張る。
焼けた醤油の匂いが鼻をくすぐって、なんだかんだ楽しい。
頃合いを見て、隣の彼に軽く目線を送る。
通じたのか分からないけど、彼の腕を軽く引いて、少し裏の通りへ。
『後は2人で楽しんで!』
そう打って、友達にメールを送信。
「二人引き離すの、ちょっとドキドキしたね」
軽口を叩いても、彼は少し驚いたまま、何も言わない。
(……ノリが合わないなぁ)
内心で苦笑しつつも、まあ友達が好きになる人の友達なら、こういうタイプなのかもしれないと勝手に納得した。
おっとりしてて、悪い人じゃなさそうだし。
「じゃ、ここらで解散しよっか」
串焼きでも買って帰ろうかな、とぼんやり考えていたら、
「花火くらいは見て帰ろう」
と、彼が言った。
意外な言葉に、思わず顔を上げる。
「……うん、そうだね」
再び祭りの本道へ戻る。
屋台の灯りが風に揺れて、賑やかな笑い声が遠くに混ざる。
「さっきのたこ焼き、こっちのより大きかったね」
「うん、でも味はこっちのが美味しいかも」
そんな他愛もない会話しか出てこない。
共通の話題もなくて、笑うタイミングもぎこちない。
射的の屋台を見つけて、一緒に試してみた。
彼は背も高いのに、一つも当たらなくて、なんだか可笑しかった。
「意外と下手なんだね」
「うるさい」
初めて笑った彼の顔に、少しだけ緊張が解けた。
空に、ひゅるると音が伸びる。
光の線が弧を描き、夜空に弾けた瞬間、視界が一気に明るくなる。
——その時だった。
人の波に押されて、思わずよろめく。
支えてくれたのは、さっきまで頼りなかった彼の手だった。
片手でぐっと支えられて、驚くほど近くに顔があった。
「大丈夫?」
低く落ち着いた声。
こちらを見ないその横顔に、少しだけ胸がざわつく。
(……なんか、ずるいな)
夜空で花火が連続して咲く。
橙、白、赤。
火の粉が散るたび、彼の頬も一瞬ずつ照らされて、
そのたびに、胸の奥が少しだけ疼いた。
***
「あの時も思ったけど、横顔、格好いいよね」
花火の残光がまだ瞼の裏に残っている。
ぽつりと漏らした言葉に、彼は少しだけ目を細めた。
さっきまで思い出さなかった——あの夏の記憶。
デートとも呼べない、ただ同じ空気を吸っていたあの時間。
「花火はもういいから帰ろう。帰り道、混むの嫌いなの」
「……あの時も最後まで見れなかったから。今日は……駄目かな?」
覚えていたのか。
一瞬、胸の奥がくすぐったくなって、視線を逸らした。
「門限はもうないし、いいよ」
そう言って笑った自分の声が、少しだけ掠れていた。
浴衣の帯が緩みそうで、歩きにくい人混み。
足元に落ちていた袋を避けながら、
綺麗な花火の感想の一つも出てこない自分に、思わず小さく笑った。
彼の家に着いたのは、もう夜も更けた頃。
玄関先で履物を脱ぐ音がやけに響く。
「わっ」
勢いで水風船を背中に投げると、彼が驚いて振り向いた。
「下の階の人に迷惑だから」
転がった水風船を拾い上げる背中に、「つまんない」と小さく言って、
定位置の座布団に腰を下ろす。
「ビール飲みすぎだよ」
そう言いながら、水を入れたコップを渡された。
部屋のクーラーはまだ効ききらず、空気が重い。
浴衣の襟を少し開けた彼の喉元から、冷えた汗が一筋落ちた。
その光景に息をのんだ。
水を受け取る手の動きが遅れて、指先が彼の手に触れた瞬間、
何かが、ふとほどけた。
気づけば、距離はもうなかった。
額が触れそうなほど近くで見た彼の目には、
からかうような優しさと、戸惑いが同居していた。
触れた唇の温度が、思っていたよりも静かだった。
音のない花火のように、
胸の奥で淡く弾ける熱。
時間がゆっくりと溶けていく中で、
彼の指先が確かに自分を探していた。
朝。
冷房の効きすぎた空気に肩をすくめ、目が覚めた。
夏掛けを胸元まで引き寄せる。
隣では、まだ眠そうに瞬きを繰り返す彼。
乱れた浴衣の裾を直して、髪を撫でる。
「おはよう」
彼が微笑んで言う。
胸が痛んだ。
(……ごめんね)
言うタイミングを探していた言葉が、ようやく喉元まで上がってくる。
呼吸を整え、なんでもない風を装って告げた。
「別れよう」
驚いた顔。
予想していたのに、心が少しだけ軋んだ。
「コンクールでいい賞が取れて、本業にしたい仕事が増えたの。
地元のここじゃ出来ない……だから、ね?」
彼は黙って、しばらく視線を落としたあと、
「そっか。わかった」
とだけ言った。
止めてほしかった。
「行かないで」と、縋ってほしかった。
でも、それを期待してしまうのは卑怯だと思った。
夢と彼。
どちらも簡単には選べなくて、どちらも失う覚悟をしていた。
「ごめん。ありがと」
笑ってみたけれど、頬がうまく動かない。
昨夜の水風船は、床でしぼんで転がっていた。
ほんの少しの間、光を反射して、
まるで花火の余韻みたいに淡く光っていた。
〈嶋田視点〉
彼女と別れてから、半年が経った。
思い返せばあっけなかった。
もう少し粘れたのかもしれない。
手を握って、「行かないで」と言えばよかったのかもしれない。
けれど、出来なかった。
彼女の選んだ道をちゃんと尊重したかった。
……いや、違う。
本当は自分の中にあった劣等感が、言葉を飲み込ませたのだと思う。
自由で、真っ直ぐで、光の方ばかり見ている彼女。
そんな彼女の隣に、自分は釣り合わない気がしていた。
一緒にいると、嬉しいよりも"怖い"が勝つ時があった。
毎日は何も変わらない。
仕事に行って、帰って、食事をして、眠る。
けれど、そのどの瞬間にも、
ふとした拍子に彼女の影が差し込む。
彼女の私物なんて、元々この部屋にはほとんど無い。
それでも、
気づけば彼女がいつも座っていた定位置に、無意識のうちに腰を下ろしている。
その場所だけ、時間が止まっているみたいに感じる。
「時間が解決する」
何度もそう自分に言い聞かせた。
けれど時間は何も解決してくれない。
ただ、静かに"慣れ"という形で、痛みを鈍くしていくだけだ。
送れないメールを打つのが、ほとんど日課になっていた。
——元気かな?
——久しぶり。
——今、どこにいる?
——勝手に送るけど、俺は元気だよ。
いつもそこで止まる。
そして、最後の言葉。
予測変換で出てくる「まだ好きでいていいかな」。
その一文を見て、毎回、指を止める。
自分の未練が、みっともなくなるのが嫌で、
結局すべて消す。
そんな夜だった。
いつものように打っては消す作業を繰り返していた時、携帯が震えた。
画面に出た名前を見て、心臓が跳ねる。
半年ぶりの、彼女の名前。
「……っ」
一瞬、出るのを迷ったけれど、反射的に通話ボタンを押していた。
『ごめん、今いい? 彼女いたらまずいよね』
少しノイズが混じる声。
それでも、間違いなくあの声だった。
「いない!」
即答していた。
間髪をいれずに。
電話の向こうから、男の笑い声が聞こえた気がした。
次の言葉を待つ間、鼓動がうるさくて、呼吸が浅くなる。
『そっか……合鍵、返し忘れてたって思い出して。郵送しようと思うんだけど……じゃあ、送るね』
その言葉を聞いた瞬間、何かが終わる音がした。
電話を切られたら、もう話す機会はない。
何も考えられず、思考よりも早く声が出ていた。
「まだ好きでいてもいい?」
沈黙。
長いのか短いのか分からない時間。
指先が冷たくなっていく。
『……手紙も送るね』
そして、通話が切れた。
小さな電子音が、やけに大きく響いた。
呆れたんだろう。
今更、何を言ってるんだと思ったに違いない。
言うべきじゃなかった。
隠しておくべきだった。
彼女が"最後のけじめ"として電話をくれたのに、自分は台無しにした。
……でも、それでも、言わずにはいられなかった。
きっと彼女は本当に送ってくる。
封筒の中には合鍵と、一言の手紙。
「ありがとう」か、「さようなら」か。
それを想像するだけで、胸が締めつけられる。
郵便受けを確認する時、いつもより慎重になる。
目で見ても、手で探る。
チラシの隙間に、彼女の封筒が紛れていないかと、何度も確かめる。
入っていなければ、ほっとする。
でも同時に、酷く寂しい。
そんな矛盾した安堵と虚しさを抱えたまま、
今日も、ため息だけが小さく部屋に落ちた。
あれから、三週間が経った。
諦めようと思っても、心のどこかではずっと待っていた。
それでも、もう届かないかもしれないと半ば思いながら、
毎朝、郵便受けを開けるのが習慣になっていた。
その日も、変わらない夜だった。
ただ一つだけ違ったのは——
封筒が入っていたこと。
手に取った瞬間、わかった。
紙だけではない、何かの"重み"。
震える指先で封を開ける。
中には丁寧に折り畳まれた手紙と、
テープでぐるぐる巻にされた小さな布の包み。
息を整え、文字を追った。
『誠へ
この間は突然電話してごめん。
ずっと夢だった仕事ができて嬉しい。
でも、やっぱり忘れられない。
誠が好き。
一緒にいられないけど、
私も好きでいていいかな?
他に好きな人ができたらその時は言ってほしい。
それまでは、
私のことを好きでいてくれたら嬉しい。
身勝手で重い女になりたくなかったけど、
着けてくれたら嬉しい。 』
文字の最後には小さな滲み。
泣いたのか、それとも手の汗か。
どちらにしても、あの人らしいと思った。
包みを鋏も使わずに無理やり手で開けた。
中から出てきたのは——鍵ではなく、指輪だった。
飾りも何もない、銀色の細い輪。
光を反射して、少しだけ歪んで見える。
きっと、手作りだ。
それがわかった瞬間、胸が詰まった。
気づけば、電話をかけていた。
「もしもし」
『……うん』
「手紙、届いた」
『……』
「指輪、着けるから」
『ありがとう。嬉しい』
静かな呼吸が重なる。
「どの指?」
『誠のサイズに合う指なら、どこでもいいよ』
中指に通そうとして、少し力を入れた。
けれど、入らない。
小指に通すと、今度は少し大きい。
「合う指が、意味深になっちゃうんだけど……」
少し笑って言うと、
電話の向こうで息が止まる気配がした。
『……その指に着けてほしいっていうのは、我儘すぎるかな』
心臓の音がうるさくなった。
小指にはゆるいその輪を、そっと薬指まで押し下げる。
少しだけ痛い。でも、それがいい。
「サイズ、いつ測ったの?」
『秘密』
「好きな人に振り回されても嬉しくなるのは、おかしい?」
『ううん……大好き』
そこから何を話したのか、正直覚えていない。
ただ、あの声をもう一度聞けたことが、すべてだった。
話を終わらせたくなくて、
取り留めもないことを並べて、
笑って、泣きそうになって、また笑った。
***
翌日。
いつもと変わらない時間に目を覚まし、
いつも通り車に乗り、いつもの道を行く。
仕事中、声が少し掠れていると同僚に言われたけど、
自分では気づかなかった。
ただ、不思議と笑顔だけは自然に出ていた。
胸ポケットの中、指輪の感触が小さく触れる。
彼女の言葉が残響のように繰り返す。
——「私も、好きでいていいかな?」
それがどんなに矛盾した言葉でも、
今の俺には、それが救いだった。
〈彼女視点〉
ようやく、忙しい日々が終わった。
連日詰め込まれていた仕事がひと段落して、久しぶりに自分の時間を持てた。
カレンダーの空白が、やけに広く見える。
手紙を送って、彼から電話がかかってきたあの日以来、連絡はしていない。
時間がなかったわけじゃない。
作ろうと思えば、いくらでも作れた。
でも——怖かった。
『そっちに行ってもいい?』
『今忙しい?』
そのたった一行を打っては消して、また打っては消した。
返ってくる言葉を想像するだけで、胸が痛くなった。
会いたいけど、もし迷惑だったらどうしよう。
そんな不安に押し潰されて、結局送れなかった。
気づけば、電車に乗っていた。
無意識に、彼の最寄り駅で降りていた。
手の中には、買ったばかりの温かい缶コーヒー。
冷えた指先に、ほんの少しの熱を押しつけながら歩く。
アパートの前に着くと、窓から薄く灯りが漏れていた。
——いる。
それだけで胸がいっぱいになる。
けれど同時に、足が動かなくなった。
忙しいかもしれない。
迷惑かもしれない。
そう思いながらも、チャイムを押す事もできずに玄関前をうろうろしていた。
完全に、不審者みたいだ。
気づけば、頬も指先も冷え切っていた。
息を吐くたび、白く滲む空気が心細くて——
耐えきれず、チャイムを押した。
数秒後。
ガチャ、とドアが開く。
「……え?」
驚いたように目を見開いた彼と、視線がぶつかる。
「来ちゃった」
そう言った瞬間、場の空気が少しだけ止まった。
気まずさが押し寄せて、思わず視線を逸らす。
けれど彼は、いつもの穏やかな声で言った。
「合い鍵、持ってるんじゃないの? ……おかえり」
その一言が、あまりにも優しくて。
差し出された手に、指輪が光っていた。
右手の薬指。
そこに確かに、あの日送った指輪があった。
喉の奥が熱くなる。
抱きしめたい衝動を、なんとか飲み込む。
「寒かったでしょ。夕飯食べてなかったら、簡単なものでいいなら作るよ。
処分品の惣菜がメインだけど……いいかな?」
そう言って、彼は笑いながら冷蔵庫の横に掛けてあるエプロンを取った。
ひょいと首に掛け、何でもないようにキッチンに立つ。
まるでいつも通りの日常みたいに。
——どうしてそんなに、普通でいられるの?
私ばっかり、こんなに好きで。
こんなに苦しいのに。
気づいた時には、もう動いていた。
彼の背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。
驚いた彼が少しだけ振り返る。
「お腹、空いてないの?」
「空いてる」
「作れないから……ちょっと待ってて」
「嫌だ」
掠れた声で言ったあと、息を吸い込むように彼の胸に顔を埋める。
「……ずっと、会いたかった」
言葉が零れた瞬間、彼の手がそっと背中に回った。
温もりが戻ってくる。
その優しさに、少しだけ泣きそうになる。
手を取り向き合い私の目を見つめる彼
待てなくて彼にシたいと言う
「ご飯は?」
「今シたい ダメ?」
「加減出来なくていいなら」
キスをし、彼の頭を引き寄せ早くベッドルームへ行きたいと誘うも加減は出来ないって言ったでしょと言われて立ったまま彼と繋がった
・・・
翌朝
「声うるさかった?」
「俺が口、塞いでたでしょ」
笑う彼に苦情来ても私は知らないからねと言うと笑って抱きしめられた。
櫓から屋台へ繋がる提灯の明かりが、ぽつり、ぽつりと消えていく。
花火が上がる時間だと分かっているのに、周りのざわめきに感化されて、胸の奥が少しだけ弾む。
一糸の光が空に上がる瞬間、見知らぬ人たちと同じ空を仰いでいるのが、なんだか不思議だった。
夜空に大輪の火花が咲く。
その瞬間、
横顔の彼を見て、昔のことを思い出す——。
***
「高三で最後だから!チャンスだからお願い!!」
そう言われて、友達の恋をサポートすることになった。
……とはいえ、正直なところ、他人の恋を覗くようなスリルも半分くらいあったと思う。
「もう!どうする?変じゃない?変だよね?」
待ち合わせの三十分前、鏡の前で髪を直したり、浴衣の襟をいじったり、落ち着かない友達。
腕にしがみついてくる姿が可愛くて、思わず笑ってしまう。
「可愛いから大丈夫だって。気合い入りすぎるより自然な方がいいよ」
「○○も浴衣着てくればよかったのに〜」
膨れた頬を指で押しながら、「帯は大丈夫?」と話を逸らす。
改札の向こうから、浴衣姿の彼と、その隣に眼鏡をかけた浴衣姿のおっとりした男の子が見えた。
——多分、友達の想い人の友達。
つまり、私の"付き添い役"。
(男の子って、気合い入れなくても浴衣で来るんだ……)
自分だけ浮いてるような気がして、少し肩をすくめる。
でもまあ、主役は友達だ。私のことなんて誰も見てない。
祭りの通りを歩きながら、友達の笑顔を横目で見ては、
(恋する乙女って、ほんと可愛いな)
と、イカ焼きを頬張る。
焼けた醤油の匂いが鼻をくすぐって、なんだかんだ楽しい。
頃合いを見て、隣の彼に軽く目線を送る。
通じたのか分からないけど、彼の腕を軽く引いて、少し裏の通りへ。
『後は2人で楽しんで!』
そう打って、友達にメールを送信。
「二人引き離すの、ちょっとドキドキしたね」
軽口を叩いても、彼は少し驚いたまま、何も言わない。
(……ノリが合わないなぁ)
内心で苦笑しつつも、まあ友達が好きになる人の友達なら、こういうタイプなのかもしれないと勝手に納得した。
おっとりしてて、悪い人じゃなさそうだし。
「じゃ、ここらで解散しよっか」
串焼きでも買って帰ろうかな、とぼんやり考えていたら、
「花火くらいは見て帰ろう」
と、彼が言った。
意外な言葉に、思わず顔を上げる。
「……うん、そうだね」
再び祭りの本道へ戻る。
屋台の灯りが風に揺れて、賑やかな笑い声が遠くに混ざる。
「さっきのたこ焼き、こっちのより大きかったね」
「うん、でも味はこっちのが美味しいかも」
そんな他愛もない会話しか出てこない。
共通の話題もなくて、笑うタイミングもぎこちない。
射的の屋台を見つけて、一緒に試してみた。
彼は背も高いのに、一つも当たらなくて、なんだか可笑しかった。
「意外と下手なんだね」
「うるさい」
初めて笑った彼の顔に、少しだけ緊張が解けた。
空に、ひゅるると音が伸びる。
光の線が弧を描き、夜空に弾けた瞬間、視界が一気に明るくなる。
——その時だった。
人の波に押されて、思わずよろめく。
支えてくれたのは、さっきまで頼りなかった彼の手だった。
片手でぐっと支えられて、驚くほど近くに顔があった。
「大丈夫?」
低く落ち着いた声。
こちらを見ないその横顔に、少しだけ胸がざわつく。
(……なんか、ずるいな)
夜空で花火が連続して咲く。
橙、白、赤。
火の粉が散るたび、彼の頬も一瞬ずつ照らされて、
そのたびに、胸の奥が少しだけ疼いた。
***
「あの時も思ったけど、横顔、格好いいよね」
花火の残光がまだ瞼の裏に残っている。
ぽつりと漏らした言葉に、彼は少しだけ目を細めた。
さっきまで思い出さなかった——あの夏の記憶。
デートとも呼べない、ただ同じ空気を吸っていたあの時間。
「花火はもういいから帰ろう。帰り道、混むの嫌いなの」
「……あの時も最後まで見れなかったから。今日は……駄目かな?」
覚えていたのか。
一瞬、胸の奥がくすぐったくなって、視線を逸らした。
「門限はもうないし、いいよ」
そう言って笑った自分の声が、少しだけ掠れていた。
浴衣の帯が緩みそうで、歩きにくい人混み。
足元に落ちていた袋を避けながら、
綺麗な花火の感想の一つも出てこない自分に、思わず小さく笑った。
彼の家に着いたのは、もう夜も更けた頃。
玄関先で履物を脱ぐ音がやけに響く。
「わっ」
勢いで水風船を背中に投げると、彼が驚いて振り向いた。
「下の階の人に迷惑だから」
転がった水風船を拾い上げる背中に、「つまんない」と小さく言って、
定位置の座布団に腰を下ろす。
「ビール飲みすぎだよ」
そう言いながら、水を入れたコップを渡された。
部屋のクーラーはまだ効ききらず、空気が重い。
浴衣の襟を少し開けた彼の喉元から、冷えた汗が一筋落ちた。
その光景に息をのんだ。
水を受け取る手の動きが遅れて、指先が彼の手に触れた瞬間、
何かが、ふとほどけた。
気づけば、距離はもうなかった。
額が触れそうなほど近くで見た彼の目には、
からかうような優しさと、戸惑いが同居していた。
触れた唇の温度が、思っていたよりも静かだった。
音のない花火のように、
胸の奥で淡く弾ける熱。
時間がゆっくりと溶けていく中で、
彼の指先が確かに自分を探していた。
朝。
冷房の効きすぎた空気に肩をすくめ、目が覚めた。
夏掛けを胸元まで引き寄せる。
隣では、まだ眠そうに瞬きを繰り返す彼。
乱れた浴衣の裾を直して、髪を撫でる。
「おはよう」
彼が微笑んで言う。
胸が痛んだ。
(……ごめんね)
言うタイミングを探していた言葉が、ようやく喉元まで上がってくる。
呼吸を整え、なんでもない風を装って告げた。
「別れよう」
驚いた顔。
予想していたのに、心が少しだけ軋んだ。
「コンクールでいい賞が取れて、本業にしたい仕事が増えたの。
地元のここじゃ出来ない……だから、ね?」
彼は黙って、しばらく視線を落としたあと、
「そっか。わかった」
とだけ言った。
止めてほしかった。
「行かないで」と、縋ってほしかった。
でも、それを期待してしまうのは卑怯だと思った。
夢と彼。
どちらも簡単には選べなくて、どちらも失う覚悟をしていた。
「ごめん。ありがと」
笑ってみたけれど、頬がうまく動かない。
昨夜の水風船は、床でしぼんで転がっていた。
ほんの少しの間、光を反射して、
まるで花火の余韻みたいに淡く光っていた。
〈嶋田視点〉
彼女と別れてから、半年が経った。
思い返せばあっけなかった。
もう少し粘れたのかもしれない。
手を握って、「行かないで」と言えばよかったのかもしれない。
けれど、出来なかった。
彼女の選んだ道をちゃんと尊重したかった。
……いや、違う。
本当は自分の中にあった劣等感が、言葉を飲み込ませたのだと思う。
自由で、真っ直ぐで、光の方ばかり見ている彼女。
そんな彼女の隣に、自分は釣り合わない気がしていた。
一緒にいると、嬉しいよりも"怖い"が勝つ時があった。
毎日は何も変わらない。
仕事に行って、帰って、食事をして、眠る。
けれど、そのどの瞬間にも、
ふとした拍子に彼女の影が差し込む。
彼女の私物なんて、元々この部屋にはほとんど無い。
それでも、
気づけば彼女がいつも座っていた定位置に、無意識のうちに腰を下ろしている。
その場所だけ、時間が止まっているみたいに感じる。
「時間が解決する」
何度もそう自分に言い聞かせた。
けれど時間は何も解決してくれない。
ただ、静かに"慣れ"という形で、痛みを鈍くしていくだけだ。
送れないメールを打つのが、ほとんど日課になっていた。
——元気かな?
——久しぶり。
——今、どこにいる?
——勝手に送るけど、俺は元気だよ。
いつもそこで止まる。
そして、最後の言葉。
予測変換で出てくる「まだ好きでいていいかな」。
その一文を見て、毎回、指を止める。
自分の未練が、みっともなくなるのが嫌で、
結局すべて消す。
そんな夜だった。
いつものように打っては消す作業を繰り返していた時、携帯が震えた。
画面に出た名前を見て、心臓が跳ねる。
半年ぶりの、彼女の名前。
「……っ」
一瞬、出るのを迷ったけれど、反射的に通話ボタンを押していた。
『ごめん、今いい? 彼女いたらまずいよね』
少しノイズが混じる声。
それでも、間違いなくあの声だった。
「いない!」
即答していた。
間髪をいれずに。
電話の向こうから、男の笑い声が聞こえた気がした。
次の言葉を待つ間、鼓動がうるさくて、呼吸が浅くなる。
『そっか……合鍵、返し忘れてたって思い出して。郵送しようと思うんだけど……じゃあ、送るね』
その言葉を聞いた瞬間、何かが終わる音がした。
電話を切られたら、もう話す機会はない。
何も考えられず、思考よりも早く声が出ていた。
「まだ好きでいてもいい?」
沈黙。
長いのか短いのか分からない時間。
指先が冷たくなっていく。
『……手紙も送るね』
そして、通話が切れた。
小さな電子音が、やけに大きく響いた。
呆れたんだろう。
今更、何を言ってるんだと思ったに違いない。
言うべきじゃなかった。
隠しておくべきだった。
彼女が"最後のけじめ"として電話をくれたのに、自分は台無しにした。
……でも、それでも、言わずにはいられなかった。
きっと彼女は本当に送ってくる。
封筒の中には合鍵と、一言の手紙。
「ありがとう」か、「さようなら」か。
それを想像するだけで、胸が締めつけられる。
郵便受けを確認する時、いつもより慎重になる。
目で見ても、手で探る。
チラシの隙間に、彼女の封筒が紛れていないかと、何度も確かめる。
入っていなければ、ほっとする。
でも同時に、酷く寂しい。
そんな矛盾した安堵と虚しさを抱えたまま、
今日も、ため息だけが小さく部屋に落ちた。
あれから、三週間が経った。
諦めようと思っても、心のどこかではずっと待っていた。
それでも、もう届かないかもしれないと半ば思いながら、
毎朝、郵便受けを開けるのが習慣になっていた。
その日も、変わらない夜だった。
ただ一つだけ違ったのは——
封筒が入っていたこと。
手に取った瞬間、わかった。
紙だけではない、何かの"重み"。
震える指先で封を開ける。
中には丁寧に折り畳まれた手紙と、
テープでぐるぐる巻にされた小さな布の包み。
息を整え、文字を追った。
『誠へ
この間は突然電話してごめん。
ずっと夢だった仕事ができて嬉しい。
でも、やっぱり忘れられない。
誠が好き。
一緒にいられないけど、
私も好きでいていいかな?
他に好きな人ができたらその時は言ってほしい。
それまでは、
私のことを好きでいてくれたら嬉しい。
身勝手で重い女になりたくなかったけど、
着けてくれたら嬉しい。 』
文字の最後には小さな滲み。
泣いたのか、それとも手の汗か。
どちらにしても、あの人らしいと思った。
包みを鋏も使わずに無理やり手で開けた。
中から出てきたのは——鍵ではなく、指輪だった。
飾りも何もない、銀色の細い輪。
光を反射して、少しだけ歪んで見える。
きっと、手作りだ。
それがわかった瞬間、胸が詰まった。
気づけば、電話をかけていた。
「もしもし」
『……うん』
「手紙、届いた」
『……』
「指輪、着けるから」
『ありがとう。嬉しい』
静かな呼吸が重なる。
「どの指?」
『誠のサイズに合う指なら、どこでもいいよ』
中指に通そうとして、少し力を入れた。
けれど、入らない。
小指に通すと、今度は少し大きい。
「合う指が、意味深になっちゃうんだけど……」
少し笑って言うと、
電話の向こうで息が止まる気配がした。
『……その指に着けてほしいっていうのは、我儘すぎるかな』
心臓の音がうるさくなった。
小指にはゆるいその輪を、そっと薬指まで押し下げる。
少しだけ痛い。でも、それがいい。
「サイズ、いつ測ったの?」
『秘密』
「好きな人に振り回されても嬉しくなるのは、おかしい?」
『ううん……大好き』
そこから何を話したのか、正直覚えていない。
ただ、あの声をもう一度聞けたことが、すべてだった。
話を終わらせたくなくて、
取り留めもないことを並べて、
笑って、泣きそうになって、また笑った。
***
翌日。
いつもと変わらない時間に目を覚まし、
いつも通り車に乗り、いつもの道を行く。
仕事中、声が少し掠れていると同僚に言われたけど、
自分では気づかなかった。
ただ、不思議と笑顔だけは自然に出ていた。
胸ポケットの中、指輪の感触が小さく触れる。
彼女の言葉が残響のように繰り返す。
——「私も、好きでいていいかな?」
それがどんなに矛盾した言葉でも、
今の俺には、それが救いだった。
〈彼女視点〉
ようやく、忙しい日々が終わった。
連日詰め込まれていた仕事がひと段落して、久しぶりに自分の時間を持てた。
カレンダーの空白が、やけに広く見える。
手紙を送って、彼から電話がかかってきたあの日以来、連絡はしていない。
時間がなかったわけじゃない。
作ろうと思えば、いくらでも作れた。
でも——怖かった。
『そっちに行ってもいい?』
『今忙しい?』
そのたった一行を打っては消して、また打っては消した。
返ってくる言葉を想像するだけで、胸が痛くなった。
会いたいけど、もし迷惑だったらどうしよう。
そんな不安に押し潰されて、結局送れなかった。
気づけば、電車に乗っていた。
無意識に、彼の最寄り駅で降りていた。
手の中には、買ったばかりの温かい缶コーヒー。
冷えた指先に、ほんの少しの熱を押しつけながら歩く。
アパートの前に着くと、窓から薄く灯りが漏れていた。
——いる。
それだけで胸がいっぱいになる。
けれど同時に、足が動かなくなった。
忙しいかもしれない。
迷惑かもしれない。
そう思いながらも、チャイムを押す事もできずに玄関前をうろうろしていた。
完全に、不審者みたいだ。
気づけば、頬も指先も冷え切っていた。
息を吐くたび、白く滲む空気が心細くて——
耐えきれず、チャイムを押した。
数秒後。
ガチャ、とドアが開く。
「……え?」
驚いたように目を見開いた彼と、視線がぶつかる。
「来ちゃった」
そう言った瞬間、場の空気が少しだけ止まった。
気まずさが押し寄せて、思わず視線を逸らす。
けれど彼は、いつもの穏やかな声で言った。
「合い鍵、持ってるんじゃないの? ……おかえり」
その一言が、あまりにも優しくて。
差し出された手に、指輪が光っていた。
右手の薬指。
そこに確かに、あの日送った指輪があった。
喉の奥が熱くなる。
抱きしめたい衝動を、なんとか飲み込む。
「寒かったでしょ。夕飯食べてなかったら、簡単なものでいいなら作るよ。
処分品の惣菜がメインだけど……いいかな?」
そう言って、彼は笑いながら冷蔵庫の横に掛けてあるエプロンを取った。
ひょいと首に掛け、何でもないようにキッチンに立つ。
まるでいつも通りの日常みたいに。
——どうしてそんなに、普通でいられるの?
私ばっかり、こんなに好きで。
こんなに苦しいのに。
気づいた時には、もう動いていた。
彼の背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。
驚いた彼が少しだけ振り返る。
「お腹、空いてないの?」
「空いてる」
「作れないから……ちょっと待ってて」
「嫌だ」
掠れた声で言ったあと、息を吸い込むように彼の胸に顔を埋める。
「……ずっと、会いたかった」
言葉が零れた瞬間、彼の手がそっと背中に回った。
温もりが戻ってくる。
その優しさに、少しだけ泣きそうになる。
手を取り向き合い私の目を見つめる彼
待てなくて彼にシたいと言う
「ご飯は?」
「今シたい ダメ?」
「加減出来なくていいなら」
キスをし、彼の頭を引き寄せ早くベッドルームへ行きたいと誘うも加減は出来ないって言ったでしょと言われて立ったまま彼と繋がった
・・・
翌朝
「声うるさかった?」
「俺が口、塞いでたでしょ」
笑う彼に苦情来ても私は知らないからねと言うと笑って抱きしめられた。
