西谷 高校生編 色々
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町内会の盆踊り。
浴衣なんて何年ぶりだろう。
帯を締めてもらうとき、「苦しくない?」って母が笑ってた。
――苦しいのは帯のせいじゃなくて、今日、夕と一緒に行くからかもしれない。
待ち合わせ場所の神社へ向かう道。
下駄を鳴らすたび、歩幅が小さくなる。
慣れない高さに、普段よりほんの少し視界が高い。
"これでまた、夕との身長差が開いたんだな"って思うと、なんだか落ち着かない。
境内の提灯の明かりの下、すぐに彼が見つけて手を振ってきた。
「おー! すげぇ似合ってるじゃん!」
「……ありがと」
言葉より先に視線が泳ぐ。
下駄のせいで、今日はいつもより彼を見下ろす形になる。
恥ずかしくて、一歩後ろに下がった。
「なんか、こんな感じで顔見れるの新鮮だなー」
「やだ、言わないで」
「なんで? 俺はいいと思うけど」
あっけらかんと言う彼の笑顔に、抵抗する気力も抜けてしまう。
気にしてるのは私だけで、彼は全然――本当に、全然気にしていない。
お稲荷さんの前、提灯の明かりが揺れて、影が二人分並んだ。
「ここの匂い、なんか落ち着くな」
そう言って、夕が小さく笑う。
その笑顔が近づいた瞬間、唇が触れた。
一瞬、世界が止まった気がした。
心臓が跳ねる。帯の結び目まで熱くなる。
――これはきっと、帯を締めすぎたせい。
そう自分に言い訳しながら、俯いてしまう。
ほんの少し前まで、一緒に来られるだけで嬉しかったのに。
今は、もっと触れたいって思ってる。
彼の指先に触れたくて、彼の視線に包まれていたくて。
そんな気持ちを持ってる自分が恥ずかしい。
時間が迫って、帰らなきゃいけない。
「じゃ、戻るか」
「うん」
踊りの音が響く人混みの中を歩く。
足元がツキンと痛む。
鼻緒が擦れて、小さなマメができている。
「歩くの遅ぇな。……足、痛い?」
「な、なんでもないよ」
笑ってごまかすけど、たぶんバレてる。
「ほら、見せてみ」
そう言って、彼がしゃがみこんで足元を覗き込む。
「や、やめてっ」
「……擦れてんな。俺のスニーカー履け」
「え、無理だよ。下駄どうすんの」
「俺が履く」
冗談かと思ったのに、本気だった。
ピンクの小花柄の鼻緒がついた下駄を履いた夕が立ち上がる。
カラン、と軽やかに音が鳴って、思わず笑ってしまう。
「似合ってる……かも」
「だろ? 俺、なんでも似合うから!」
胸を張って歩く彼に、笑いがこぼれた。
少し身長差が縮まった。
彼が前を歩いて、軽く手を引いてくれる。
「転ぶなよ」
「……うん」
その手の温もりが、夏の夜気の中で静かに染みていく。
テントの灯りが見えてきても、足を止めたくなかった。
「まだ痛い?」
「……うん、ちょっと」
本当はもう痛くない。
でも、少しでもこの時間を長くしたくて、嘘をついた。
カラカラと、彼の履く下駄の音が後ろからついてくる。
笑い声と、夏の夜の風。
それだけで、胸がいっぱいだった。
テントの灯りが近づくにつれて、ざわめきが戻ってくる。
提灯の明かりが風に揺れて、時間が動き出したみたいだった。
ほんの少し前まで二人きりだった空気が、あっという間に夏の喧騒に溶けていく。
「……そろそろ戻らねーとな」
夕がぽつりと言う。
わかってた、その言葉が来るって。
けど、胸の奥がきゅっと縮む。
もう少しだけ、このままでいたい。
「うん。行こっか」
そう言いながらも足が動かない。
気づかれたくなくて俯いた瞬間、ふっと頬に何かが触れた。
――キス。
驚いて顔を上げると、目の前で夕がにかっと笑っていた。
「ほら、元気出た?」
いつもの調子で言われたのに、胸が跳ねて息が詰まる。
顔が熱くて、彼の顔をまともに見られなくて、視線を逸らした。
「……反則」
小さく呟くと、彼は照れ隠しみたいに頭を掻いた。
「ごめん。ついな」
そう言いながら、軽く息を吐く。
次の瞬間、ふいに腕を引かれて――ぎゅっと抱きしめられた。
浴衣越しに伝わる体温。
さっきよりも近い鼓動。
驚きよりも、離れたくないって気持ちが勝っていた。
「……ほんとは、もうちょっとこうしてたいけど」
耳元で聞こえる声が、思ったよりも優しくて。
胸の奥が、また締めつけられる。
「時間だね」
名残惜しそうにそう言って、ゆっくりと腕がほどかれた。
見上げた夕の顔が、提灯の光に照らされて優しく滲んでいた。
その笑顔を目に焼きつけるように見つめながら、私は小さく頷いた。
「……また、明日ね」
「おう。約束な」
夜風が二人の間を抜けていった。
遠くで太鼓の音が響く。
夏の夜が静かに終わりに近づいていた。
浴衣なんて何年ぶりだろう。
帯を締めてもらうとき、「苦しくない?」って母が笑ってた。
――苦しいのは帯のせいじゃなくて、今日、夕と一緒に行くからかもしれない。
待ち合わせ場所の神社へ向かう道。
下駄を鳴らすたび、歩幅が小さくなる。
慣れない高さに、普段よりほんの少し視界が高い。
"これでまた、夕との身長差が開いたんだな"って思うと、なんだか落ち着かない。
境内の提灯の明かりの下、すぐに彼が見つけて手を振ってきた。
「おー! すげぇ似合ってるじゃん!」
「……ありがと」
言葉より先に視線が泳ぐ。
下駄のせいで、今日はいつもより彼を見下ろす形になる。
恥ずかしくて、一歩後ろに下がった。
「なんか、こんな感じで顔見れるの新鮮だなー」
「やだ、言わないで」
「なんで? 俺はいいと思うけど」
あっけらかんと言う彼の笑顔に、抵抗する気力も抜けてしまう。
気にしてるのは私だけで、彼は全然――本当に、全然気にしていない。
お稲荷さんの前、提灯の明かりが揺れて、影が二人分並んだ。
「ここの匂い、なんか落ち着くな」
そう言って、夕が小さく笑う。
その笑顔が近づいた瞬間、唇が触れた。
一瞬、世界が止まった気がした。
心臓が跳ねる。帯の結び目まで熱くなる。
――これはきっと、帯を締めすぎたせい。
そう自分に言い訳しながら、俯いてしまう。
ほんの少し前まで、一緒に来られるだけで嬉しかったのに。
今は、もっと触れたいって思ってる。
彼の指先に触れたくて、彼の視線に包まれていたくて。
そんな気持ちを持ってる自分が恥ずかしい。
時間が迫って、帰らなきゃいけない。
「じゃ、戻るか」
「うん」
踊りの音が響く人混みの中を歩く。
足元がツキンと痛む。
鼻緒が擦れて、小さなマメができている。
「歩くの遅ぇな。……足、痛い?」
「な、なんでもないよ」
笑ってごまかすけど、たぶんバレてる。
「ほら、見せてみ」
そう言って、彼がしゃがみこんで足元を覗き込む。
「や、やめてっ」
「……擦れてんな。俺のスニーカー履け」
「え、無理だよ。下駄どうすんの」
「俺が履く」
冗談かと思ったのに、本気だった。
ピンクの小花柄の鼻緒がついた下駄を履いた夕が立ち上がる。
カラン、と軽やかに音が鳴って、思わず笑ってしまう。
「似合ってる……かも」
「だろ? 俺、なんでも似合うから!」
胸を張って歩く彼に、笑いがこぼれた。
少し身長差が縮まった。
彼が前を歩いて、軽く手を引いてくれる。
「転ぶなよ」
「……うん」
その手の温もりが、夏の夜気の中で静かに染みていく。
テントの灯りが見えてきても、足を止めたくなかった。
「まだ痛い?」
「……うん、ちょっと」
本当はもう痛くない。
でも、少しでもこの時間を長くしたくて、嘘をついた。
カラカラと、彼の履く下駄の音が後ろからついてくる。
笑い声と、夏の夜の風。
それだけで、胸がいっぱいだった。
テントの灯りが近づくにつれて、ざわめきが戻ってくる。
提灯の明かりが風に揺れて、時間が動き出したみたいだった。
ほんの少し前まで二人きりだった空気が、あっという間に夏の喧騒に溶けていく。
「……そろそろ戻らねーとな」
夕がぽつりと言う。
わかってた、その言葉が来るって。
けど、胸の奥がきゅっと縮む。
もう少しだけ、このままでいたい。
「うん。行こっか」
そう言いながらも足が動かない。
気づかれたくなくて俯いた瞬間、ふっと頬に何かが触れた。
――キス。
驚いて顔を上げると、目の前で夕がにかっと笑っていた。
「ほら、元気出た?」
いつもの調子で言われたのに、胸が跳ねて息が詰まる。
顔が熱くて、彼の顔をまともに見られなくて、視線を逸らした。
「……反則」
小さく呟くと、彼は照れ隠しみたいに頭を掻いた。
「ごめん。ついな」
そう言いながら、軽く息を吐く。
次の瞬間、ふいに腕を引かれて――ぎゅっと抱きしめられた。
浴衣越しに伝わる体温。
さっきよりも近い鼓動。
驚きよりも、離れたくないって気持ちが勝っていた。
「……ほんとは、もうちょっとこうしてたいけど」
耳元で聞こえる声が、思ったよりも優しくて。
胸の奥が、また締めつけられる。
「時間だね」
名残惜しそうにそう言って、ゆっくりと腕がほどかれた。
見上げた夕の顔が、提灯の光に照らされて優しく滲んでいた。
その笑顔を目に焼きつけるように見つめながら、私は小さく頷いた。
「……また、明日ね」
「おう。約束な」
夜風が二人の間を抜けていった。
遠くで太鼓の音が響く。
夏の夜が静かに終わりに近づいていた。
