西谷 高校生編 色々
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通学路の途中にある桜の木。
朝、そこを通るたびに、蕾が少しでも膨らんでいないかと目で追うようになった。
特別、花が好きというわけじゃない。ただ——寒い日より、あたたかい日が好きだから。
咲く日が待ち遠しくて仕方がなかった。
登校中、隣を歩く夕に「まだ咲かないかな」とぽつりと呟いた。
「ピンク色が好きだから?」
そう言われて、どう返せばいいのかわからずに、ただ頷く。
「春が来たなって嬉しくなっちゃうんだ」
そう続けた私の声に、彼は小さく笑ってから桜を見上げた。
「じゃあ、咲いたら——花見でもしてみよっか」
軽く言ったその一言に、心の中で小さな桜が咲いたような気がした。
***
部活が午後練の日。
待ち合わせは、学校近くの公園。桜の下。
朝練よりもずっと早く起きて、慣れないお弁当づくりに挑戦した。
俵型のおにぎりが良いか、可愛い形にするかで母と揉めた結果、結局ふつうの三角おむすび。
唐揚げと卵焼き、ウインナー。それだけで時間がなくなって、気づけば茶色いお弁当になっていた。
彩りを足そうと慌ててパプリカを焼き、果物はりんごのうさぎカットを諦めて、みかんを2個だけ。
レジャーシートを敷いてお弁当を広げると、走ってきた夕が顔を覗きこんでくる。
「うまそうじゃん!」
偏ってしまったおかずを見ても、彼は本気の笑顔でそう言った。
「初めて作ったから、ちょっと味濃いかも」
「濃いくらいがいいって。ご飯が進む!」
桜そっちのけで二人とも夢中になって食べ終わってしまった。
おしぼりを渡し忘れていたことを思い出し、濡らしたハンカチを差し出す。
その手に、みかんをぽんと乗せた。
「春休み、何してた?」
「朝練、夕練、寝落ち」
「いつも通りじゃん」
他愛のない会話が、時間を忘れさせる。
気づけば空は少し傾いて、部活の時間が迫っていた。
「荷物持つから貸せっ」
「大丈夫、軽いし!」
「いいから! 男なら持つのが当たり前だろ」
そう言って、私のカバンを片手で軽々と持つ。
その腕に見とれているうちに、急ぐのを忘れそうになった。
学校に着くと、すぐに体育館へ。
すでに準備運動をしていた夕の髪に笑って指を指す。
「夕、頭になんかついる。」
「お、ありがとな!」
桜の花びらだった。
私がが捨てようとしたそれを、夕はそっと拾い、タオルの上に置いた。
それを見て、胸が少しだけ痛くなる。
自分でもわからないくらい、甘くて苦い気持ち。
タオルで顔を覆って深呼吸していると、後輩に呆れたように言われた。
「……青春は部活でしてほしいんですけど」
「ゴメン!ゴメン!」と笑って頭を下げる。
その瞬間、私の髪からも花びらがひらりと落ちた。
きっと誰にも気づかれなかったけれど——
私の中で、それは春の始まりの合図だった。
朝、そこを通るたびに、蕾が少しでも膨らんでいないかと目で追うようになった。
特別、花が好きというわけじゃない。ただ——寒い日より、あたたかい日が好きだから。
咲く日が待ち遠しくて仕方がなかった。
登校中、隣を歩く夕に「まだ咲かないかな」とぽつりと呟いた。
「ピンク色が好きだから?」
そう言われて、どう返せばいいのかわからずに、ただ頷く。
「春が来たなって嬉しくなっちゃうんだ」
そう続けた私の声に、彼は小さく笑ってから桜を見上げた。
「じゃあ、咲いたら——花見でもしてみよっか」
軽く言ったその一言に、心の中で小さな桜が咲いたような気がした。
***
部活が午後練の日。
待ち合わせは、学校近くの公園。桜の下。
朝練よりもずっと早く起きて、慣れないお弁当づくりに挑戦した。
俵型のおにぎりが良いか、可愛い形にするかで母と揉めた結果、結局ふつうの三角おむすび。
唐揚げと卵焼き、ウインナー。それだけで時間がなくなって、気づけば茶色いお弁当になっていた。
彩りを足そうと慌ててパプリカを焼き、果物はりんごのうさぎカットを諦めて、みかんを2個だけ。
レジャーシートを敷いてお弁当を広げると、走ってきた夕が顔を覗きこんでくる。
「うまそうじゃん!」
偏ってしまったおかずを見ても、彼は本気の笑顔でそう言った。
「初めて作ったから、ちょっと味濃いかも」
「濃いくらいがいいって。ご飯が進む!」
桜そっちのけで二人とも夢中になって食べ終わってしまった。
おしぼりを渡し忘れていたことを思い出し、濡らしたハンカチを差し出す。
その手に、みかんをぽんと乗せた。
「春休み、何してた?」
「朝練、夕練、寝落ち」
「いつも通りじゃん」
他愛のない会話が、時間を忘れさせる。
気づけば空は少し傾いて、部活の時間が迫っていた。
「荷物持つから貸せっ」
「大丈夫、軽いし!」
「いいから! 男なら持つのが当たり前だろ」
そう言って、私のカバンを片手で軽々と持つ。
その腕に見とれているうちに、急ぐのを忘れそうになった。
学校に着くと、すぐに体育館へ。
すでに準備運動をしていた夕の髪に笑って指を指す。
「夕、頭になんかついる。」
「お、ありがとな!」
桜の花びらだった。
私がが捨てようとしたそれを、夕はそっと拾い、タオルの上に置いた。
それを見て、胸が少しだけ痛くなる。
自分でもわからないくらい、甘くて苦い気持ち。
タオルで顔を覆って深呼吸していると、後輩に呆れたように言われた。
「……青春は部活でしてほしいんですけど」
「ゴメン!ゴメン!」と笑って頭を下げる。
その瞬間、私の髪からも花びらがひらりと落ちた。
きっと誰にも気づかれなかったけれど——
私の中で、それは春の始まりの合図だった。
