月島 年下の彼
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
部活帰りの帰り道、秋の風が少し冷たく感じるようになってきた。
駅前の街灯の下で、ふと聞き慣れた声がした。
「ツッキー、部活帰り? 青春してるねぇ」
振り返ると、そこに立っていたのは──小学生の頃から知っている、親の知り合いの年上の彼女だった。
背伸びしたって、追いつける気がしなかった人。
「何、青春って」
口ではそう返しながらも、心の奥では不意にざわめく。
彼女にそう言われると、どうしてだか子供扱いされてるようで、無性に悔しかった。
「こんな時間に夜道1人で帰るって危なくないわけ?」
気づけば、そんな言葉が口をついて出ていた。
けれど、彼女は少しだけ悲しそうに笑って──
「1人で帰らなきゃ、どう帰るの」なんて言う。
その一言で、胸の奥がざらついた。
……やっと、あの男と別れたんだ。
思い出したくもないような名前が脳裏をかすめて、吐き出したくなる。
「じゃあ、送ってく」
返事を待たずに歩き出す。
「いいって」と言われても、聞く気になれなかった。
並んで歩く夜道。
彼女の隣を歩くのは、昔と変わらない距離のはずなのに、どこか違って感じる。
手を伸ばしたら届く距離。でも、触れてはいけない距離。
家に着くと、「こないだ作ったお菓子が多くてね」と笑いながら玄関へ招かれた。
断れなかった。
どうせ──あの男のために作ったものだったんだろう、と心の中で吐き捨てながら。
ケーキを食べ終えると、彼女が小さく首をさすっていた。
「仕事で疲れてるの?」と聞けば、「うん、肩こっちゃって」なんて笑う。
「……肩くらいなら揉むけど。お礼に」
「え、いいの? お願いします」
振り返った彼女の笑顔が、妙に無防備で、息を呑んだ。
(……本当に俺のこと、弟くらいにしか見てないんだな)
そんなはずなのに、手を動かしているうちに、心の中で何かが少しずつ軋んでいく。
彼女が他の誰かを見ていた時間。
俺を子供扱いしてきた笑顔。
それ全部が、指先を伝って胸の奥を締め付けた。
気づけば、身体が勝手に動いていた。
背後から、そっと腕を回す。
「俺だって男なんだけど。……そんな無防備に背中向けて、いいと思ってたの?」
驚かせるだけのつもりだった。
なのに、彼女の髪からふわりと香る匂いに頭が真っ白になる。
昔からずっと、触れたいと思っていた。
でも触れてはいけないと思っていた。
その矛盾が、一瞬で崩れた。
唇が、首筋に触れた。
温かい。
その瞬間、我に返る。
「……ごめん!!」
反射的に突き放す。
彼女は困ったように笑って、「私もごめんね。少しツッキーに甘えすぎてたのかも」と言った。
その言葉が、余計に痛かった。
優しい謝罪が、遠回しに"まだ子供扱い"しているようで。
それ以上何も言えずに、彼女の家を出た。
夜風が冷たかった。
でも、心臓の奥は妙に熱いままだった。
彼女がどう思っていようと、もう止められない。
あの瞬間、自分の気持ちは確かに溢れた。
抑えていたものが、ようやく形になってしまった。
――だから、もう逃げない。
あの日から、少しも冷めなかった想いを、
今度はちゃんと「好き」として伝えるために。
もう、"弟"のままではいられないから。
