3 出会い
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
部活の見学には行ったけど、結局入るのはやめた。
興味がある部活はあった。
でも一年生で見学に来ている子たちはほとんどが誰かと一緒で、隣に立って話している姿を見ていると「私が入ってもいいのかな」と思ってしまう。
迷った時点で距離を感じて、自分から壁を作っている気がした。
それが分かっているのに踏み出せない。
「……まあ、いいよね」
小さく呟く。
学生の本分は勉強だと自分に言い聞かせる。
今は頑張らなきゃいけない時期なんだから、そう思い込めば少しだけ楽になるから。
祖父母に学校のことを聞かれても、「勉強が大変で」と言えばそれ以上は深く聞かれない。
段々と会話は少しずつ短くなっていく。
離れている両親との電話も同じで、近況は勉強の話ばかり。
クラスのことや友達との出来事みたいな普通の話がうまく出てこない。
5月の中間テストではそれなりの成績は取れた。
でも進学校というわけでもないし、一応進学クラスだけどこのままでいいのかなという焦りが残る。
予習をして理解はできるのに、その先が見えてしまう感じが少し怖い。
足りていない気がする。
だから塾に行きたいと思った。
でも祖父母にお願いするのはなんとなくできなかった。
お金のことがあるから、どこまで甘えていいのか分からない。
それに交友関係をよく聞かれるたびに、自分があまり友達を作れていないことを思い出す。
そんな状態で「塾に行きたい」と言ったら、勉強ばかりの私を心配させてしまうかもしれない。
考えすぎかもしれないけど、それでも言えなかった。
だからバイトをすることにした。
自分でお金を稼げば少しは自由になるし、「クラスの子もやってるから」と言えば自然に聞こえる気がした。
浅い理由だとは思うけど、それでも何もしないよりはいい。
この辺りは田舎だからか高校生ができるバイトは少なくて、なかなか決まらなかった。
それでもなんとか見つけたのが国道沿いにあるケーキ屋。
駅からは少し遠いけど、いつも人が入っている店だった。有名なパティシエの店らしく、忙しいけど人手が足りていない感じで……。
だから採用されたときは少しほっとした。
販売員として働くことになり、覚えることは多くて大変だけどそれでも楽しかった。
ショートケーキが有名で、生クリームとスポンジがとにかく美味しいと評判らしい。
最初は同じ高校の人には会わないかなと思っていたけど、たまに見かける。
同じクラスの月島くんは月に二回くらい来ていて、そのたびに少し驚く。
ケーキが好きな家族がいるのかなと気になるけど、プライベートだしと思って結局声はかけられなかった。
夏休み。
本来ならケーキ屋さんは閑散期のはずなのに、有名店だからかそこそこ忙しい。
都内のデパートの催事にも出店するらしく、店内も少し慌ただしい空気になっていた。
そんな中で、「もしよかったら」と声をかけられる。催事の売り場に手伝いで行かないかという話だった。
本当は外部の売り子を使う予定だったけど、できれば店の人にも入ってほしいらしい。
一週間のうち三日間。
その催事場を聞いた瞬間、驚いた。
前に住んでいた場所の近くのデパートだった。
連絡すれば中学の時の友達と会えるかもしれない。今も連絡は取っているけど、直接会うのはやっぱり違う。
「行きたいです」
気づけばすぐに答えていた。
泊まりになるからと少し心配されたけど、オーナーさんが祖父母に説明してくれて、私も前に住んでいた場所だからと何度もお願いした。
久しぶりに、自分から何かを望んだ気がする。少しだけ胸が高鳴った。
あの場所にまた行ける。
懐かしい空気と懐かしい人たち。
不安より楽しみになった。
催事の日。
一人でビジネスホテルに泊まるなんて、なんだか大人になったみたい。
しかも前に住んでいた場所に近い。嬉しくて、自然と足取りも軽くなる。
一緒に催事に来た人に「なんか今日テンション高くない?」って笑われて、「この辺に住んでたんです」って答えたけど、自分でも少しはしゃぎ過ぎてる気がした。
中学のとき、普通にお客さんとして来ていたデパート。
裏口から入ると照明も少し暗くて、見慣れない通路が続いていて。
なんだか別の場所みたいだった。
裏側を見てしまったような感覚に少しドキドキする。
でもそれ以上に楽しみの方が強くて、わくわくしていた。
──なんて、思っていられたのは最初だけで。
催事が始まれば、そんな余裕はすぐになくなった。
想像以上に忙しくて、次から次へとお客さんが来る。
声を出して、笑顔を作って、商品を渡して。気がつけば時間が過ぎていく。
それでも。
見知った顔が来ると、胸が少しだけ温かくなる。
中学の友達も来てくれた。連絡は取っていたけど、こうして直接会えるのはやっぱり嬉しい。
仕事中だからゆっくり話せないのがもどかしくて、終わった後に待ち合わせして、近くのカフェで話した。
久しぶりだから話は途切れなくて。
たくさん笑ってちょっとだけ昔に戻ったみたいな気がした。
3日間はあっという間に過ぎて、気づけば予定の最終日。明日は友達の家に泊まる約束もしている。
楽しいのに終わりが見えてきて少し寂しい。
もっとここにいたいな……なんて思ってしまう。
来年も、また来れるのかな。
そんなことをぼんやり考えながら、試食を勧めていると、ふと後ろに気配を感じた。
「俺にも試食くれる?」
振り向いた瞬間、手が止まる。
「……鉄にぃ?」
「バイト?宮城に行ってたよな?高校は?」
一気に質問が飛んでくる。
懐かしい顔。
二つ上で、近所で、親同士も知り合いで。
小さい頃からよく一緒にいて、勝手に「鉄にぃ」って呼んで、見かけたら話しかけていた人。
──初恋の人。
中学に上がってからは部活が忙しそうで、ほとんど話せなくなっていたけど。
「……行ってるよ、高校。宮城にいるの。」
そう答えると、「楽しい?」って聞かれて、少し言葉に詰まる。
自分でも分かるくらい、一瞬だけ表情が止まった。
それを見てなのか。
「一人見知りだから心配なんだよなー」
そう言いながら、ぐりぐりと頭を撫でられる。
「……クロ。頭撫でるの、セクハラ」
「えー?幼なじみだろ?」
「今は客と店員の関係でしょ?」
やっちゃったかーって笑いながら謝る鉄にぃに、「セクハラでーす。ケーキ買って下さい!」と言うと、「セクハラ違うけどー。買うけどね!」と、笑って結局ちゃんと買ってくれた。
少しだけ、昔に戻ったみたいで。
少しだけ、距離を感じて。
それでもやっぱり、嬉しかった。
久しぶりに鉄にぃや研磨くんとも話せて、その日の帰り道は少しだけ足取りが軽かった。
次の日は、地元の友達と遊んだ。
初恋の人に会ったって話したら、恋愛の話を振られて何を答えればいいか分からなくなった。
引っ越してからそういう話ができるほどの関係の友達はまだいなかったから。
宮城に戻って、また日常が始まる。
2学期。
勉強とバイトが中心の生活。
友達と遊ぶこともほとんどなくて、ふとした瞬間に地元のことを思い出す。
楽しかった時間が余計に恋しくなる。
でも……それでも。
どうにもならない。
ここでやっていくしかない。
気がつけば、文化祭の季節になっていた。
クラスは盛り上がっているのに、どこか一歩引いて見てしまう自分がいる。
いつまでも地元が好きなままじゃいられない。
──いや、もう地元じゃない。
今いる場所が、これからの自分の場所なんだから。
そう思うと、少しだけ背筋が伸びた。
今度こそ、ちゃんと関わりたい。
そう決めて、クラスの出し物の案を見る。
「パフェ店」と「お化け屋敷」。
パフェ店は、スポンジケーキに市販の生クリームを絞る簡単なものらしい。でも、バイトがケーキ屋の私なら、販売とかで少しは役に立てるかもしれない。
お化け屋敷は準備が大変そうだけど、その分クラスの人と関わる時間は増える。
今の自分には、そっちの方が必要なのかもしれない。
──どうしよう。
ここで選ぶのはきっと。
これからの私。
少しだけ深呼吸をして、手を上げる準備をする。
不安と期待が、胸の中で混ざり合った。
【選択して下さい】
・パフェ店 →文化祭の⑦へ
・お化け屋敷→文化祭の⑧へ
興味がある部活はあった。
でも一年生で見学に来ている子たちはほとんどが誰かと一緒で、隣に立って話している姿を見ていると「私が入ってもいいのかな」と思ってしまう。
迷った時点で距離を感じて、自分から壁を作っている気がした。
それが分かっているのに踏み出せない。
「……まあ、いいよね」
小さく呟く。
学生の本分は勉強だと自分に言い聞かせる。
今は頑張らなきゃいけない時期なんだから、そう思い込めば少しだけ楽になるから。
祖父母に学校のことを聞かれても、「勉強が大変で」と言えばそれ以上は深く聞かれない。
段々と会話は少しずつ短くなっていく。
離れている両親との電話も同じで、近況は勉強の話ばかり。
クラスのことや友達との出来事みたいな普通の話がうまく出てこない。
5月の中間テストではそれなりの成績は取れた。
でも進学校というわけでもないし、一応進学クラスだけどこのままでいいのかなという焦りが残る。
予習をして理解はできるのに、その先が見えてしまう感じが少し怖い。
足りていない気がする。
だから塾に行きたいと思った。
でも祖父母にお願いするのはなんとなくできなかった。
お金のことがあるから、どこまで甘えていいのか分からない。
それに交友関係をよく聞かれるたびに、自分があまり友達を作れていないことを思い出す。
そんな状態で「塾に行きたい」と言ったら、勉強ばかりの私を心配させてしまうかもしれない。
考えすぎかもしれないけど、それでも言えなかった。
だからバイトをすることにした。
自分でお金を稼げば少しは自由になるし、「クラスの子もやってるから」と言えば自然に聞こえる気がした。
浅い理由だとは思うけど、それでも何もしないよりはいい。
この辺りは田舎だからか高校生ができるバイトは少なくて、なかなか決まらなかった。
それでもなんとか見つけたのが国道沿いにあるケーキ屋。
駅からは少し遠いけど、いつも人が入っている店だった。有名なパティシエの店らしく、忙しいけど人手が足りていない感じで……。
だから採用されたときは少しほっとした。
販売員として働くことになり、覚えることは多くて大変だけどそれでも楽しかった。
ショートケーキが有名で、生クリームとスポンジがとにかく美味しいと評判らしい。
最初は同じ高校の人には会わないかなと思っていたけど、たまに見かける。
同じクラスの月島くんは月に二回くらい来ていて、そのたびに少し驚く。
ケーキが好きな家族がいるのかなと気になるけど、プライベートだしと思って結局声はかけられなかった。
夏休み。
本来ならケーキ屋さんは閑散期のはずなのに、有名店だからかそこそこ忙しい。
都内のデパートの催事にも出店するらしく、店内も少し慌ただしい空気になっていた。
そんな中で、「もしよかったら」と声をかけられる。催事の売り場に手伝いで行かないかという話だった。
本当は外部の売り子を使う予定だったけど、できれば店の人にも入ってほしいらしい。
一週間のうち三日間。
その催事場を聞いた瞬間、驚いた。
前に住んでいた場所の近くのデパートだった。
連絡すれば中学の時の友達と会えるかもしれない。今も連絡は取っているけど、直接会うのはやっぱり違う。
「行きたいです」
気づけばすぐに答えていた。
泊まりになるからと少し心配されたけど、オーナーさんが祖父母に説明してくれて、私も前に住んでいた場所だからと何度もお願いした。
久しぶりに、自分から何かを望んだ気がする。少しだけ胸が高鳴った。
あの場所にまた行ける。
懐かしい空気と懐かしい人たち。
不安より楽しみになった。
催事の日。
一人でビジネスホテルに泊まるなんて、なんだか大人になったみたい。
しかも前に住んでいた場所に近い。嬉しくて、自然と足取りも軽くなる。
一緒に催事に来た人に「なんか今日テンション高くない?」って笑われて、「この辺に住んでたんです」って答えたけど、自分でも少しはしゃぎ過ぎてる気がした。
中学のとき、普通にお客さんとして来ていたデパート。
裏口から入ると照明も少し暗くて、見慣れない通路が続いていて。
なんだか別の場所みたいだった。
裏側を見てしまったような感覚に少しドキドキする。
でもそれ以上に楽しみの方が強くて、わくわくしていた。
──なんて、思っていられたのは最初だけで。
催事が始まれば、そんな余裕はすぐになくなった。
想像以上に忙しくて、次から次へとお客さんが来る。
声を出して、笑顔を作って、商品を渡して。気がつけば時間が過ぎていく。
それでも。
見知った顔が来ると、胸が少しだけ温かくなる。
中学の友達も来てくれた。連絡は取っていたけど、こうして直接会えるのはやっぱり嬉しい。
仕事中だからゆっくり話せないのがもどかしくて、終わった後に待ち合わせして、近くのカフェで話した。
久しぶりだから話は途切れなくて。
たくさん笑ってちょっとだけ昔に戻ったみたいな気がした。
3日間はあっという間に過ぎて、気づけば予定の最終日。明日は友達の家に泊まる約束もしている。
楽しいのに終わりが見えてきて少し寂しい。
もっとここにいたいな……なんて思ってしまう。
来年も、また来れるのかな。
そんなことをぼんやり考えながら、試食を勧めていると、ふと後ろに気配を感じた。
「俺にも試食くれる?」
振り向いた瞬間、手が止まる。
「……鉄にぃ?」
「バイト?宮城に行ってたよな?高校は?」
一気に質問が飛んでくる。
懐かしい顔。
二つ上で、近所で、親同士も知り合いで。
小さい頃からよく一緒にいて、勝手に「鉄にぃ」って呼んで、見かけたら話しかけていた人。
──初恋の人。
中学に上がってからは部活が忙しそうで、ほとんど話せなくなっていたけど。
「……行ってるよ、高校。宮城にいるの。」
そう答えると、「楽しい?」って聞かれて、少し言葉に詰まる。
自分でも分かるくらい、一瞬だけ表情が止まった。
それを見てなのか。
「一人見知りだから心配なんだよなー」
そう言いながら、ぐりぐりと頭を撫でられる。
「……クロ。頭撫でるの、セクハラ」
「えー?幼なじみだろ?」
「今は客と店員の関係でしょ?」
やっちゃったかーって笑いながら謝る鉄にぃに、「セクハラでーす。ケーキ買って下さい!」と言うと、「セクハラ違うけどー。買うけどね!」と、笑って結局ちゃんと買ってくれた。
少しだけ、昔に戻ったみたいで。
少しだけ、距離を感じて。
それでもやっぱり、嬉しかった。
久しぶりに鉄にぃや研磨くんとも話せて、その日の帰り道は少しだけ足取りが軽かった。
次の日は、地元の友達と遊んだ。
初恋の人に会ったって話したら、恋愛の話を振られて何を答えればいいか分からなくなった。
引っ越してからそういう話ができるほどの関係の友達はまだいなかったから。
宮城に戻って、また日常が始まる。
2学期。
勉強とバイトが中心の生活。
友達と遊ぶこともほとんどなくて、ふとした瞬間に地元のことを思い出す。
楽しかった時間が余計に恋しくなる。
でも……それでも。
どうにもならない。
ここでやっていくしかない。
気がつけば、文化祭の季節になっていた。
クラスは盛り上がっているのに、どこか一歩引いて見てしまう自分がいる。
いつまでも地元が好きなままじゃいられない。
──いや、もう地元じゃない。
今いる場所が、これからの自分の場所なんだから。
そう思うと、少しだけ背筋が伸びた。
今度こそ、ちゃんと関わりたい。
そう決めて、クラスの出し物の案を見る。
「パフェ店」と「お化け屋敷」。
パフェ店は、スポンジケーキに市販の生クリームを絞る簡単なものらしい。でも、バイトがケーキ屋の私なら、販売とかで少しは役に立てるかもしれない。
お化け屋敷は準備が大変そうだけど、その分クラスの人と関わる時間は増える。
今の自分には、そっちの方が必要なのかもしれない。
──どうしよう。
ここで選ぶのはきっと。
これからの私。
少しだけ深呼吸をして、手を上げる準備をする。
不安と期待が、胸の中で混ざり合った。
【選択して下さい】
・パフェ店 →文化祭の⑦へ
・お化け屋敷→文化祭の⑧へ
4/4ページ
