3 出会い
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結局、悩んで中学でやっていた吹奏楽部に入った。
吹奏楽部は文化部って括りだけど。中学でやってきたからわかってる。
実際は結構ハードだ。だから違う部活も考えた。
新しいことに挑戦してみたい気持ちだって、ちゃんとあった。
けれど──
違うことをこれから始めるのは私には難しかった。
やりたいことをやればいい。
そう思ってるのに。
初めてのことに踏み出す勇気がどうしても足りない。
中学校までは楽しくかった。
でも高校に入ってからは……新しい環境になってなんとなく溶け込めていない気がする。
自分が自分じゃないみたいで。
クラスでも、なんだか同じ。
浮いているわけじゃない。いじめられているわけでもない。
それなのに──
自分だけがこの場所に馴染みきれていない気がする。
異物、みたいな。
そんなふうに感じてしまう自分が嫌になる。
一日の授業が終わって部活へ向かう。
音楽室に入ると少しだけ肩の力が抜ける。
パートごとに分かれていつもの練習。
入部したばかりの頃は緊張していたけど、少しずつ慣れてきて部内の人とも話せるようになってきた。ここにいるときだけは、少しだけ自分でいられる気がする。
夏休みに入ってからは練習だけじゃなくて野球部の応援にも行くようになった。
まだまだ未熟でうまく吹けないことも多いけど。
応援で演奏するときは楽譜通りにじゃなくて。
届けって思いながら音を出す。
外に向かって音を放つ感覚が気持ちよくて。
少しだけ、胸の奥が軽くなる。
中学の頃は朝からランニングと筋トレがあったけど、高校ではそれはなくてその分どこか緩やかだった。
でも夏休みの合宿だけは別で。
二日間の合宿の朝、久しぶりに走った。
朝もやのかかるグラウンド。
少し冷たい空気の中で息を切らして走る。
──なんか、青春っぽい。
そんなことを思いながら少しだけ頑張ってる自分がいた。ランニングが終わって、音楽室に戻ろうとして……。
ふと、思い出す。
「あ、タオル……」
鉄棒にかけたまま忘れてきた。慌てて取りに戻る。
鉄棒の前に近づいて足が止まる。
そこには男子が何人かいた。
知らない人ばかり。
……いや。
一方的に知ってる人はいる。
違うクラスの、影山くん。
かっこいいって、誰かが言ってたから覚えてるだけで。
話したことはない。
知らない人たちの中に入っていくのって、こんなに勇気がいるんだ。
どうしよう。
少し離れたところで立ち止まっていると、
「何?どうしたの?」
声をかけられて、びくっとする。
振り返ると同じクラスの山口くんだった。
少しほっとする。
「タオル、忘れちゃって……」
そう言って鉄棒の方を見る。
──あれ?
さっきまであったはずのタオルがない。風で飛ばされたのかな。
「そうなんだ。吹奏楽部だったよね?」
頷いてもう少し話そうとしたとき。
ふと気配を感じる。
山口くんの後ろにいつの間にか人が立っていた。
──大きい。
山口くんも背が高いのにそれよりさらに高い。
それに。
なんか怖い。
高校生……だよね?
二年生?それとも三年生?
一瞬、保護者かと思うくらいの雰囲気。
思わず、体がこわばる。
「これ?」
低い声と一緒に差し出されたのは私のタオルだった。
「あ……」
受け取ろうとするけど手が少し止まる。
使ったタオル。
触らせちゃったことへの申し訳なさと、変な恥ずかしさで、うまく顔が上げられない。
本当は「ありがとうございます」ってお礼を言いたいのに。
言葉が出てこない。
「ごめんね。触ったの嫌だったよね。手は拭いてから持ったんだけど……嫌だったよね」
──いや。
どう考えても汗ついたタオル触る方が嫌でしょ。
心の中でそう思いながらも、うまく言葉にできない。
困っていると、山口くんが小さな声で、「怖そうに見えるけど、東峰先輩はすっごく優しい人だから。」って教えてくれた。
余計に、どう返していいかわからなくなる。
結局、何も言えないまま、ぺこぺこと何度もお辞儀をしてタオルを受け取る。
親切にしてくれたのに、ちゃんとお礼も言えなかった。
謝らせちゃったことも。
間に入ってくれた山口くんにも。
全部が申し訳なくて。そのまま頭を下げながら逃げるみたいに部活へ戻る。音楽室に戻って楽器を構える。
さっきのことが頭から離れない。
モヤモヤしたまま息を吸って音を出す。
思いっきり肺を使って音を響かせる。
少しだけ。
ほんの少しだけ気持ちが晴れた。
あとで聞いた話だと。
山口くんはバレー部らしい。
吹奏楽部が応援で演奏するのは野球部だけ。
だからバレー部の応援に行くことはない。
それがなんとなく、少しだけ寂しいと思った。
2学期が始まった。
なんだろう。
1学期のときよりクラスの人ともちゃんと話せてる気がする。ほんの少しずつだけど会話が続くようになってきて。
前よりも笑う回数も増えた。
──もしかして。
私が自分自身を異物だと思ってたのって、ただの思い込みだったのかな。
そう考えた瞬間、胸の奥が少しだけ重くなった。
勝手に壁を作って勝手に距離を感じて。
遠ざけてたのは私の方だったのかもしれない。
そう思うと。
夏休みの合宿のときのことが、ふと頭に浮かぶ。
東峰先輩。
タオルを渡してくれたのに、ちゃんとお礼も言えなくて。むしろ謝らせてしまって。
──やっぱり、ちゃんと謝りたい。
そんな気持ちが今さらになって強くなる。
でも。
今さらって気持ちもある。
気にしてるのは、きっと私だけかもしれないし。謝ってスッキリするのは私だけで。
今さら言われても逆に困らせるだけかもしれない。
……それって、ただの自己満足じゃない?
昼休み。
少し迷ってから、山口くんのところへ行く。
「……あの」
そっと声をかけると、びくっとしたように振り返られて。
──あ、またやっちゃった。
距離感。
未だにちょっと、難しい。
「ご、ごめん。急に」
そう言うと「いや、大丈夫」と笑ってくれる。
少しだけ安心して夏休みのときのことを聞いてみる。
「あの時のこと、覚えてる?」
「うん、覚えてるよ」
あっさりとした返事。それから少し言葉を考えつつ山口くんに話しかける。
「苗字さんが気になってるんだよね」って、柔らかく言われた。
──やっぱり。
自分勝手だよね。
胸の中で、小さくため息が落ちる。
頷き、曖昧に笑ってその場を離れる。
ちゃんと謝ろうと、そう思うのに。
学年が違うとなかなか会えない。
2年生の教室は階も違うし、用もないのに行くのは気が引ける。
気にしてるくせに何もできない。
タイミングがないとか運がないとか。
そんな理由をつけて。
結局、動いてないだけなのに。
時間が経てば経つほど、「今さら」って気持ちが大きくなる。
──どうしようもないな、私。
気がつけば、もう文化祭の時期。
クラスでは何をするかの話し合いが始まっていた。
みんなが楽しそうに意見を出している中で、うまく会話に入れなくて。気づけば、もう多数決の流れになっていた。
──ああ、また。
そう思いながら黒板に書かれた案を見る。
「フライドポテト」と「フリマ(雑貨屋)」。
できれば、裏方がいいなって思う。
人前に立つのはまだちょっと苦手で。
フライドポテトなら市販のものを揚げるだけだし、準備もそこまで大変じゃないらしい。売り子は無理でも、看板とかならできるかも。
もう一つは、雑貨屋。
って言ってもフリマみたいな感じらしい。手芸部とかぶらないようにする必要はあるけど、わりと自由でゆるくできそう。
それに──
少しだけ、楽しそうって思った。
自分で何かを作ってそれを並べて。誰かが手に取ってくれる、みたいな。
どっちも悪くない。
だからこそ迷う。
「……どうしよ」
今度は。
ちゃんと、自分で選びたい。
流されるんじゃなくて。
私はどっちを選べばいいかな?
【選択して下さい】
・フライドポテト→⑤へ
・フリマ →⑥へ
吹奏楽部は文化部って括りだけど。中学でやってきたからわかってる。
実際は結構ハードだ。だから違う部活も考えた。
新しいことに挑戦してみたい気持ちだって、ちゃんとあった。
けれど──
違うことをこれから始めるのは私には難しかった。
やりたいことをやればいい。
そう思ってるのに。
初めてのことに踏み出す勇気がどうしても足りない。
中学校までは楽しくかった。
でも高校に入ってからは……新しい環境になってなんとなく溶け込めていない気がする。
自分が自分じゃないみたいで。
クラスでも、なんだか同じ。
浮いているわけじゃない。いじめられているわけでもない。
それなのに──
自分だけがこの場所に馴染みきれていない気がする。
異物、みたいな。
そんなふうに感じてしまう自分が嫌になる。
一日の授業が終わって部活へ向かう。
音楽室に入ると少しだけ肩の力が抜ける。
パートごとに分かれていつもの練習。
入部したばかりの頃は緊張していたけど、少しずつ慣れてきて部内の人とも話せるようになってきた。ここにいるときだけは、少しだけ自分でいられる気がする。
夏休みに入ってからは練習だけじゃなくて野球部の応援にも行くようになった。
まだまだ未熟でうまく吹けないことも多いけど。
応援で演奏するときは楽譜通りにじゃなくて。
届けって思いながら音を出す。
外に向かって音を放つ感覚が気持ちよくて。
少しだけ、胸の奥が軽くなる。
中学の頃は朝からランニングと筋トレがあったけど、高校ではそれはなくてその分どこか緩やかだった。
でも夏休みの合宿だけは別で。
二日間の合宿の朝、久しぶりに走った。
朝もやのかかるグラウンド。
少し冷たい空気の中で息を切らして走る。
──なんか、青春っぽい。
そんなことを思いながら少しだけ頑張ってる自分がいた。ランニングが終わって、音楽室に戻ろうとして……。
ふと、思い出す。
「あ、タオル……」
鉄棒にかけたまま忘れてきた。慌てて取りに戻る。
鉄棒の前に近づいて足が止まる。
そこには男子が何人かいた。
知らない人ばかり。
……いや。
一方的に知ってる人はいる。
違うクラスの、影山くん。
かっこいいって、誰かが言ってたから覚えてるだけで。
話したことはない。
知らない人たちの中に入っていくのって、こんなに勇気がいるんだ。
どうしよう。
少し離れたところで立ち止まっていると、
「何?どうしたの?」
声をかけられて、びくっとする。
振り返ると同じクラスの山口くんだった。
少しほっとする。
「タオル、忘れちゃって……」
そう言って鉄棒の方を見る。
──あれ?
さっきまであったはずのタオルがない。風で飛ばされたのかな。
「そうなんだ。吹奏楽部だったよね?」
頷いてもう少し話そうとしたとき。
ふと気配を感じる。
山口くんの後ろにいつの間にか人が立っていた。
──大きい。
山口くんも背が高いのにそれよりさらに高い。
それに。
なんか怖い。
高校生……だよね?
二年生?それとも三年生?
一瞬、保護者かと思うくらいの雰囲気。
思わず、体がこわばる。
「これ?」
低い声と一緒に差し出されたのは私のタオルだった。
「あ……」
受け取ろうとするけど手が少し止まる。
使ったタオル。
触らせちゃったことへの申し訳なさと、変な恥ずかしさで、うまく顔が上げられない。
本当は「ありがとうございます」ってお礼を言いたいのに。
言葉が出てこない。
「ごめんね。触ったの嫌だったよね。手は拭いてから持ったんだけど……嫌だったよね」
──いや。
どう考えても汗ついたタオル触る方が嫌でしょ。
心の中でそう思いながらも、うまく言葉にできない。
困っていると、山口くんが小さな声で、「怖そうに見えるけど、東峰先輩はすっごく優しい人だから。」って教えてくれた。
余計に、どう返していいかわからなくなる。
結局、何も言えないまま、ぺこぺこと何度もお辞儀をしてタオルを受け取る。
親切にしてくれたのに、ちゃんとお礼も言えなかった。
謝らせちゃったことも。
間に入ってくれた山口くんにも。
全部が申し訳なくて。そのまま頭を下げながら逃げるみたいに部活へ戻る。音楽室に戻って楽器を構える。
さっきのことが頭から離れない。
モヤモヤしたまま息を吸って音を出す。
思いっきり肺を使って音を響かせる。
少しだけ。
ほんの少しだけ気持ちが晴れた。
あとで聞いた話だと。
山口くんはバレー部らしい。
吹奏楽部が応援で演奏するのは野球部だけ。
だからバレー部の応援に行くことはない。
それがなんとなく、少しだけ寂しいと思った。
2学期が始まった。
なんだろう。
1学期のときよりクラスの人ともちゃんと話せてる気がする。ほんの少しずつだけど会話が続くようになってきて。
前よりも笑う回数も増えた。
──もしかして。
私が自分自身を異物だと思ってたのって、ただの思い込みだったのかな。
そう考えた瞬間、胸の奥が少しだけ重くなった。
勝手に壁を作って勝手に距離を感じて。
遠ざけてたのは私の方だったのかもしれない。
そう思うと。
夏休みの合宿のときのことが、ふと頭に浮かぶ。
東峰先輩。
タオルを渡してくれたのに、ちゃんとお礼も言えなくて。むしろ謝らせてしまって。
──やっぱり、ちゃんと謝りたい。
そんな気持ちが今さらになって強くなる。
でも。
今さらって気持ちもある。
気にしてるのは、きっと私だけかもしれないし。謝ってスッキリするのは私だけで。
今さら言われても逆に困らせるだけかもしれない。
……それって、ただの自己満足じゃない?
昼休み。
少し迷ってから、山口くんのところへ行く。
「……あの」
そっと声をかけると、びくっとしたように振り返られて。
──あ、またやっちゃった。
距離感。
未だにちょっと、難しい。
「ご、ごめん。急に」
そう言うと「いや、大丈夫」と笑ってくれる。
少しだけ安心して夏休みのときのことを聞いてみる。
「あの時のこと、覚えてる?」
「うん、覚えてるよ」
あっさりとした返事。それから少し言葉を考えつつ山口くんに話しかける。
「苗字さんが気になってるんだよね」って、柔らかく言われた。
──やっぱり。
自分勝手だよね。
胸の中で、小さくため息が落ちる。
頷き、曖昧に笑ってその場を離れる。
ちゃんと謝ろうと、そう思うのに。
学年が違うとなかなか会えない。
2年生の教室は階も違うし、用もないのに行くのは気が引ける。
気にしてるくせに何もできない。
タイミングがないとか運がないとか。
そんな理由をつけて。
結局、動いてないだけなのに。
時間が経てば経つほど、「今さら」って気持ちが大きくなる。
──どうしようもないな、私。
気がつけば、もう文化祭の時期。
クラスでは何をするかの話し合いが始まっていた。
みんなが楽しそうに意見を出している中で、うまく会話に入れなくて。気づけば、もう多数決の流れになっていた。
──ああ、また。
そう思いながら黒板に書かれた案を見る。
「フライドポテト」と「フリマ(雑貨屋)」。
できれば、裏方がいいなって思う。
人前に立つのはまだちょっと苦手で。
フライドポテトなら市販のものを揚げるだけだし、準備もそこまで大変じゃないらしい。売り子は無理でも、看板とかならできるかも。
もう一つは、雑貨屋。
って言ってもフリマみたいな感じらしい。手芸部とかぶらないようにする必要はあるけど、わりと自由でゆるくできそう。
それに──
少しだけ、楽しそうって思った。
自分で何かを作ってそれを並べて。誰かが手に取ってくれる、みたいな。
どっちも悪くない。
だからこそ迷う。
「……どうしよ」
今度は。
ちゃんと、自分で選びたい。
流されるんじゃなくて。
私はどっちを選べばいいかな?
【選択して下さい】
・フライドポテト→⑤へ
・フリマ →⑥へ
