3 出会い
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「今日も元気にいってきまーす!!」
夏休みに入り、今日も私は気合を入れて家を出る。
部活はソフトボール部にした。
やったことはない。
ルールだって最初は全然知らなかった。
それでも、めいっぱい身体を動かす部活がいいって思った。
上下関係が厳しいとか、チーム競技だから大変だとか色々聞いたけど──
それが、むしろいいと思った。
一度入ればうるさいくらい関わってくれる先輩たち。同学年の子も突っ走る私を笑いながらフォローしてくれる。
部活は初心者が多いせいか、そこまで強くはないけど楽しい。
グラウンドは争奪戦だから、いつも校外を走るか端っこでバッティング練習かキャッチボール。
それでも、やっぱり楽しい。
汗をかいて、声を出して、笑って。
──ちゃんと「ここにいる」って思える場所ができた気がする。
走っていると、屋内で活動している人たちともすれ違う。
「苗字さーん!」
大きな声が響く方向に目線を向けると、日向くんが手を振っていた。
手を振り返すと、ニカッと笑って——
その瞬間、横から影山くんが抜かしていく。
「おい待て!!」
驚いた顔から一瞬で真剣な顔に変わって、日向くんがスピードを上げる。
その背中を見送りながら、思わず笑ってしまう。
同じクラスになってから二人とも話すようになったけど。
あの二人、本当にライバルだよね。
なんか──ちょっと、羨ましい。
ああやって、全力でぶつかれる相手がいるって、どんな感じなんだろう。
先輩のバッティングのボール拾いが予想以上にネットから外れボールを探しに行く。
茂みの方に転がったみたいで草をかき分けながら目を凝らす。
そのとき。
足音が近づいてきて、顔を上げると男子バレー部の先輩たちが走ってきていた。
邪魔にならないように、少し端に寄る。
そのまま通り過ぎると思ったのに、ひとりが少しスピードを落としてこっちを見る。
「ボール探してんの?」
軽く息を弾ませながら、そう声をかけられる。
「はい、あの、この辺に……」
言い終わる前に先輩は視線を巡らせて茂みの奥に手を伸ばした。
「あったよ」
そう言って、ひょいっとボールを拾い上げる。
そのまま、軽く放られるように投げられたボールを慌てて受け取る。
「ありがとうございます!」
思わず大きめの声が出る。
先輩は少しだけ振り返って軽く手を上げると、そのまま走っていった。
──聞こえた、かな。
なんとなくそんなことを考えながらボールを抱える。
同じ部活の人と交流があるのはもう当たり前になってきたけど。違う部活の人ともこうやって自然に関わることがあるなんて思ってなかった。
たったボール一つで。
それだけでちょっと世界が広がった気がする。
「なにニヤニヤしてんのー?」
後ろから部員に声をかけられて振り返る。
「え、してた?」
「してたしてた。なんかいいことあった?」
同級生にからかわれて少しだけ照れる。
「別に、そんなんじゃないし」
そう言いながらも、さっきのやり取りを思い出して。
少しだけ、胸の奥がくすぐったくなる。
──ここに来たときは、あんなに不安だったのに。
今は、こうやって笑えてる。
全部が全部うまくいってるわけじゃないけど。
それでも。
ちゃんと少しずつ。
私の中の居場所が広がっていってる気がした。
夏休みが終わり、2学期が始まる。
教室に入った瞬間「焼けたね〜」って、すぐに声をかけられた。
「やっぱり?」
笑いながら返すと、「うんうん、めっちゃ健康的」なんて言われる。
日焼け止めはちゃんと塗ってたけど、部活は外だし。
焼けるのは仕方ない。
でも──
なんだかそれが、ちょっと誇らしい。
まだまだ上手くなってるわけじゃないけど。
ちゃんとやってきた証みたいで。
嬉しいような、恥ずかしいような。
くすぐったい気持ちで、自分の腕をちらっと見た。
放課後。
いつも通り、グラウンドの端でボール拾い。
バットに当たった音を聞いて転がるボールを追いかける。繰り返しの中でも少しずつ動きも早くなってきた気がする。
そんなとき。
後ろから、聞き覚えのある声。
「部活、頑張ってるじゃん。でもまだボール拾い?」
振り返るとランニング中の男子バレー部の先輩
夏にボールを拾ってくれた人。
少し息を弾ませながらも余裕のある笑顔。
「ただのボール拾いじゃないですよ。出来るボール拾いです! ……打つのも上手くなってきましたよ」
そう言うと先輩は一瞬驚き
それから、ふっと笑った。
「いいじゃん。俺も頑張んないといけないな」
ニカッと笑うその顔に思わず目を逸らしそうになる。
——なんだろう。
改めてちゃんと見ると、かっこいい。
……なんか王子様みたい。
でも話すと気さくで距離が近くて。
そのギャップが少しだけ不思議で。
「菅原さん周回遅れですよー!」
前の方から元気な声が飛ぶ。
──日向くんだ。
「日向が走るの早いんだろ。スタミナ切れは大丈夫か?」
「まだまだ走れます!」
軽口を言い合いながら走っていく二人。
その背中を見送りながら、自然と口元が緩む。
——仲いいな。
あとで日向くんに聞いたら、菅原先輩は3年生らしい。
3年って、もう部活は引退してる時期じゃないの?って思った。でもバレーは春高があるからまだ続けてるんだって。
「受験とか、大丈夫なの?」思わず日向に聞くと、「菅原先輩、頭いいから大丈夫だと思う」
って、あっさり言われた。
「すごいね」そう言うと、日向くんは頷きながら少しだけ声を落として「……負けられない」てって、呟いた。
その一言がやけに強くて。
なんとなく胸に残る。
──それぞれが、それぞれの場所で頑張ってる。
ただ楽しいだけじゃない、何か。
少しずつ、それが見えてきている気がした。
気がつけば季節は進んでいて。
一日は長いのに、振り返るとあっという間で。
もう文化祭の準備が始まっていた。
教室では、何をやるかの話し合い。
黒板に大きく書かれた候補は二つ。
「劇」か「喫茶店」か。
「えーでも劇って大変じゃない?」
「喫茶店も絶対忙しいって!」
ざわざわとした空気の中でみんながそれぞれ意見を言っている。
その様子を見ながら、ふと考える。
──少し前の私ならどうしてただろう。
周りに合わせて、なんとなく手を上げてたかもしれない。
でも、今は。
ちゃんと自分で選びたいって思う。
どっちも楽しそう。
【選択して下さい】
・劇 →4、文化祭の①へ
・喫茶店→4、文化祭の②へ
夏休みに入り、今日も私は気合を入れて家を出る。
部活はソフトボール部にした。
やったことはない。
ルールだって最初は全然知らなかった。
それでも、めいっぱい身体を動かす部活がいいって思った。
上下関係が厳しいとか、チーム競技だから大変だとか色々聞いたけど──
それが、むしろいいと思った。
一度入ればうるさいくらい関わってくれる先輩たち。同学年の子も突っ走る私を笑いながらフォローしてくれる。
部活は初心者が多いせいか、そこまで強くはないけど楽しい。
グラウンドは争奪戦だから、いつも校外を走るか端っこでバッティング練習かキャッチボール。
それでも、やっぱり楽しい。
汗をかいて、声を出して、笑って。
──ちゃんと「ここにいる」って思える場所ができた気がする。
走っていると、屋内で活動している人たちともすれ違う。
「苗字さーん!」
大きな声が響く方向に目線を向けると、日向くんが手を振っていた。
手を振り返すと、ニカッと笑って——
その瞬間、横から影山くんが抜かしていく。
「おい待て!!」
驚いた顔から一瞬で真剣な顔に変わって、日向くんがスピードを上げる。
その背中を見送りながら、思わず笑ってしまう。
同じクラスになってから二人とも話すようになったけど。
あの二人、本当にライバルだよね。
なんか──ちょっと、羨ましい。
ああやって、全力でぶつかれる相手がいるって、どんな感じなんだろう。
先輩のバッティングのボール拾いが予想以上にネットから外れボールを探しに行く。
茂みの方に転がったみたいで草をかき分けながら目を凝らす。
そのとき。
足音が近づいてきて、顔を上げると男子バレー部の先輩たちが走ってきていた。
邪魔にならないように、少し端に寄る。
そのまま通り過ぎると思ったのに、ひとりが少しスピードを落としてこっちを見る。
「ボール探してんの?」
軽く息を弾ませながら、そう声をかけられる。
「はい、あの、この辺に……」
言い終わる前に先輩は視線を巡らせて茂みの奥に手を伸ばした。
「あったよ」
そう言って、ひょいっとボールを拾い上げる。
そのまま、軽く放られるように投げられたボールを慌てて受け取る。
「ありがとうございます!」
思わず大きめの声が出る。
先輩は少しだけ振り返って軽く手を上げると、そのまま走っていった。
──聞こえた、かな。
なんとなくそんなことを考えながらボールを抱える。
同じ部活の人と交流があるのはもう当たり前になってきたけど。違う部活の人ともこうやって自然に関わることがあるなんて思ってなかった。
たったボール一つで。
それだけでちょっと世界が広がった気がする。
「なにニヤニヤしてんのー?」
後ろから部員に声をかけられて振り返る。
「え、してた?」
「してたしてた。なんかいいことあった?」
同級生にからかわれて少しだけ照れる。
「別に、そんなんじゃないし」
そう言いながらも、さっきのやり取りを思い出して。
少しだけ、胸の奥がくすぐったくなる。
──ここに来たときは、あんなに不安だったのに。
今は、こうやって笑えてる。
全部が全部うまくいってるわけじゃないけど。
それでも。
ちゃんと少しずつ。
私の中の居場所が広がっていってる気がした。
夏休みが終わり、2学期が始まる。
教室に入った瞬間「焼けたね〜」って、すぐに声をかけられた。
「やっぱり?」
笑いながら返すと、「うんうん、めっちゃ健康的」なんて言われる。
日焼け止めはちゃんと塗ってたけど、部活は外だし。
焼けるのは仕方ない。
でも──
なんだかそれが、ちょっと誇らしい。
まだまだ上手くなってるわけじゃないけど。
ちゃんとやってきた証みたいで。
嬉しいような、恥ずかしいような。
くすぐったい気持ちで、自分の腕をちらっと見た。
放課後。
いつも通り、グラウンドの端でボール拾い。
バットに当たった音を聞いて転がるボールを追いかける。繰り返しの中でも少しずつ動きも早くなってきた気がする。
そんなとき。
後ろから、聞き覚えのある声。
「部活、頑張ってるじゃん。でもまだボール拾い?」
振り返るとランニング中の男子バレー部の先輩
夏にボールを拾ってくれた人。
少し息を弾ませながらも余裕のある笑顔。
「ただのボール拾いじゃないですよ。出来るボール拾いです! ……打つのも上手くなってきましたよ」
そう言うと先輩は一瞬驚き
それから、ふっと笑った。
「いいじゃん。俺も頑張んないといけないな」
ニカッと笑うその顔に思わず目を逸らしそうになる。
——なんだろう。
改めてちゃんと見ると、かっこいい。
……なんか王子様みたい。
でも話すと気さくで距離が近くて。
そのギャップが少しだけ不思議で。
「菅原さん周回遅れですよー!」
前の方から元気な声が飛ぶ。
──日向くんだ。
「日向が走るの早いんだろ。スタミナ切れは大丈夫か?」
「まだまだ走れます!」
軽口を言い合いながら走っていく二人。
その背中を見送りながら、自然と口元が緩む。
——仲いいな。
あとで日向くんに聞いたら、菅原先輩は3年生らしい。
3年って、もう部活は引退してる時期じゃないの?って思った。でもバレーは春高があるからまだ続けてるんだって。
「受験とか、大丈夫なの?」思わず日向に聞くと、「菅原先輩、頭いいから大丈夫だと思う」
って、あっさり言われた。
「すごいね」そう言うと、日向くんは頷きながら少しだけ声を落として「……負けられない」てって、呟いた。
その一言がやけに強くて。
なんとなく胸に残る。
──それぞれが、それぞれの場所で頑張ってる。
ただ楽しいだけじゃない、何か。
少しずつ、それが見えてきている気がした。
気がつけば季節は進んでいて。
一日は長いのに、振り返るとあっという間で。
もう文化祭の準備が始まっていた。
教室では、何をやるかの話し合い。
黒板に大きく書かれた候補は二つ。
「劇」か「喫茶店」か。
「えーでも劇って大変じゃない?」
「喫茶店も絶対忙しいって!」
ざわざわとした空気の中でみんながそれぞれ意見を言っている。
その様子を見ながら、ふと考える。
──少し前の私ならどうしてただろう。
周りに合わせて、なんとなく手を上げてたかもしれない。
でも、今は。
ちゃんと自分で選びたいって思う。
どっちも楽しそう。
【選択して下さい】
・劇 →4、文化祭の①へ
・喫茶店→4、文化祭の②へ
